競走車

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競走車とは、オートレース競走にのみ用いられる二輪車のことである。

オートレース競走車
基本情報
エンジン
内径×行程 / 圧縮比 __ × __ / __
車両重量 120 kg
      詳細情報
製造国 日本
製造期間
タイプ
設計統括
デザイン
フレーム ダイヤモンド
全長×全幅×全高 2053 mm × 329 mm × 500 mm
ホイールベース 1387 mm
最低地上高
シート高
燃料供給装置
始動方式
潤滑方式
駆動方式 チェーンドライブ
変速機 常時噛合式2段リターン
サスペンション 選択式(テレスコピック)
リジット
キャスター / トレール
ブレーキ 後: なし
タイヤサイズ 後: 3.00-20 4PR
最高速度
乗車定員
燃料タンク容量 2 L
燃費
カラーバリエーション
本体価格
備考
先代
後継
姉妹車 / OEM
同クラスの車
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かつては四輪車など[1]によるレースも行われていたが、現在は二輪車のみで行われているため、本項では二輪競走車に限定する。

特徴

フレームはダイヤモンドフレームの一種であるが、一般向けのオートバイのフレームと異なり、ボルト接合の部分が多く、分解整備が行いやすい。なお競走車のフレームは専門メーカーにより製作されている。

オーバルコースを反時計周りに周回し、車体を左へ40°から50°[2]傾けた状態で走行する時間が長いことから、ハンドルは左側が高い左右非対称になっているが、これは競走車を傾けた時点でハンドルが水平になるようにするためである。フロントサスペンションは選手がスプリングフォークまたはオイルフォークのどちらかを選択して装備する。スプリングフォークはダンパーの併用も可能な規則になっている。リアサスペンションはリジットである。走行中に車体へ右膝を押し当てて安定を保つため、ガソリンタンクの下に膝当てが装着されている。

タイヤはダンロップ製のバイアスタイヤKR-73S を統一使用する。これはかつてのレース向けタイヤとして使われていた KR73 をオートレース仕様にしたもの[3]で、市販のタイヤと異なり外周部のゴムを増やしたためトレッド中央部が厚く、断面が三角形で2つの頂点がリムに嵌り辺が接地する極端な形状となっていて、車体を傾斜させたときに接地面積が広くなるように作られており、オーバルコースをより効率よく走行することができる。タイヤは左右対称かつ前後輪共用で、ある程度の使い回しにも対応している。寒冷期には、トレッドパターンは同じであるがコンパウンドが低い気温に対応した KR-73W を前輪に使用している。

ブレーキは装備していない。これは最高時速150km/hで車体同士が接近するオートレースにおいて、過度の減速は大事故に繋がりかねないためである[4]。代わりに、スロットルグリップを一杯に戻すとキャブレタースロットルバルブが全閉となり、通常のバイクと比べ強力なエンジンブレーキにより減速を行う。また左足に鉄製の「スリッパ」を装着し、これを走路に擦り付けることでの減速も行う。

ギアは細かいギアチェンジをレース中に行う余裕がない[5]ことと軽量化のため、スタートから直線数十メートルまでのローと、最初のコーナーからゴールまで用いるワイドレンジのトップによる2速のみしか存在しない。

エンジン

エンジン内部の整備は、整備違反(無許可の整備および不正改造)を防ぐ為に検査員と共に行う。

現在オートレースで使用されているエンジンは、「セア」と呼ばれるスズキ製のAR600またはAR500に限定されている。1993年10月1日のセア一斉乗り替え以前には、英国製のトライアンフHKS社製のフジメグロキョクトートーヨーなどが使用されていた。

歴史

オートレース黎明期

1950年(昭和25年)、オートレースが誕生した当初はシリンダー数(気筒)と排気量(容積)によるエンジンの級別区分以外には確たる基準が無く、級別は二輪車に関しては1級車から9級車までが存在するなど雑多を極めていた。ただ排気量などに制限はあったものの、実質的にはほぼ自由に選択できる状況であったため、次第に国産、外車を問わず30にも及ぶメーカーのオートバイが乱立するという状況になった。外車ではハーレーダビッドソンやノートン、トライアンフなどが、国産ではメグロなどが主に使用された。なお今日とは異なりハンドブレーキを装着したマシンも多く存在していた。

しかし、これらの車両は大半が戦前に生産・輸入されたもので、性能は決して良くはなかった。また、燃料であるガソリンが満足に供給されなかったため、代用燃料としてアルコール燃料や松根油を使用する車両があった。その結果、故障が頻発し、修理をしようにも部品そのものがなく、選手が手製の部品を制作して修理することが当然という状況に陥っていた。

規格車の制定

故障や事故が増えた結果、観客が減少し、安定した開催が実行できないほどの影響が生じ始めた。ギャンブルとしてみた場合、事故が頻発することで車券の的中率が下がることを嫌うというのは当然のことで、また、モータースポーツとして見た場合においても、事故が頻発するレースは面白みに欠けるものであった。

事態を重く見た各競走会は、それまで野放図に使用が許可されていた競走用オートバイの規格化を決定して、『規格車』が導入されることとなった。同時に、国産車よりも高性能な輸入車の確保にも乗り出した。結果、1950年当時から使用されていた競走車で規格化後も残ったのはトライアンフとメグロのみとなった。

また気筒と容積の区分も改定され、

  • 1級車二気筒 - 650cc以上(上限なし)
  • 1級車単気筒 - 600ccから618cc
  • 2級車 - 512ccまで
  • 3級車 - 359ccまで
  • 4級車 - 259ccまで

となった。4級車は全場舗装化後に、3級車は1985年の19期生のデビュー時に、1級車単気筒は1993年のセア一斉乗り換え時にそれぞれ廃止となったが、1級車と2級車は現在でも存続している。

名車『JAPエキセルシャー』

1954年(昭和29年)、新たな輸入車としてイギリス製の『JAPエキセルシャー(マーク型)』というオートバイが導入された。このオートバイが、オートレースの競走車に新たな旋風を巻き起こした。

JAPエキセルシャーの特筆すべき点は、「エキセルフレーム」と呼ばれたフレームの構造にあった。ダイヤモンドフレームの一種であるこのフレームは、その堅牢な構造もさることながら、オートレースのレーススタイルに非常に良く適合したのである。やがてこのフレームを元に統一規格のフレームが開発された。舗装路への移行後はこのエキセルフレームをベースに現行のフレームが開発され、現在も使用されている。JAPエキセルシャーは、フレームのみならずエンジンも優秀であった。西方義治(期前・昭和25年度登録。元川口オートレース場所属)選手がこのJAPエキセルシャーで第1回開設記念グランプリ(川口オートレース場・現在のGI競走)を制するなど、実績は十分にあった[6]

しかし、JAPエキセルシャーのエンジンはアルコール燃料を使用するものだったため、オクタン価を誤るとエンジンがすぐに焼き付いてしまい、使用不能になってしまうという欠点があった。その後、次第にガソリンに対応したコピー部品やコピーエンジンが国内で生産され、新たに「国産JAP」という呼称でデビューし、輸入品のJAPエキセルシャーは減少していった。そして、JAPエキセルシャーも国産JAPも、全オートレース場の舗装路化に伴い姿を消した。

一人一車制度の制定

かつては、オートレースでも二回乗りが認められていた。そのため、選手は数多くの競走車を保有していた。ただ、二回乗りには規制があり、同じ級別での二回乗りは認められていなかった。従って、複数の級別の競走車を保有する必要があった。

この制度は選手にとっては金銭的にも肉体的にも負担が大きかった。遠征時などには二台の競走車を運搬する必要があったため、その維持管理に掛かる費用が膨大だったのである。また、現在の競走車とは比較にならないほど振動が強く、二回乗りによって腰痛を患う選手が続出してしまった。

こうした点を踏まえ、1975年(昭和50年)4月1日、一人一車制が施行された。この制度は、各開催時に予め自己の所有する競走車を一台のみ登録し、その競走車のみによってレースを行うことを原則とするものであり、現在も存続している。但し、開催期間中の事故等で登録した競走車が使用不可能となった場合はこの限りではない。

競走車呼名

競走車の場合、車名とは即ちエンジンの名称のことを指す。しかし、車名のみでは判別に支障が出るため、各選手が自身の競走車に独自の愛称を付けている。この名称を競走車呼名という。呼名はカタカナとアルファベットを組み合わせて7文字以内(但し、アルファベットのみの表記は不可)と定められている。競走馬名ほど基準は厳しいものではなく、社会通念上著しく俗悪なものでもない限りは各選手の自由である。

かつては出走表や専門紙などでは選手名よりも先にこの競走車呼名が記載されていた。また、テレビ中継の実況でも呼名を呼ぶことが多く、正しく「代名詞」となっていた。最近でも2009年2月、飯塚オートレース場で出走全員が田中姓という「田中選抜」なる企画レースが実施された際には、実況の煩雑さからアナウンサーは車体名を多用しながら実況を行っている。

脚注

  1. ^ 小型自動車競走法第9条
  2. ^ JKA・競走車(2輪車)構造基準 - 1 車体関係
  3. ^ バイクブロス・月刊ROAD RIDER2009年7月号 JKA AUTO RACER
  4. ^ 川口オート・競争車の特徴と性能
  5. ^ ブレーキと同様に、ギア操作およびギア抜けによる加速不良での追突事故を避ける意味合いがある。
  6. ^ 当時は特別競走(現在のSG競走)が存在せず、各場の開設記念レースが競走の格付における頂点であったため、その実力は折り紙付きであったと言える。

参考文献

外部リンク