秋田八幡平クマ牧場
秋田八幡平クマ牧場(あきたはちまんたいクマぼくじょう)は、秋田県鹿角市八幡平字切留平の八幡平熊沢外国有林内にあった元「クマ牧場」(クマの動物園、テーマパーク)。下記死亡事故に伴い休園し[6]、2012年(平成24年)6月に閉鎖した[5]。ヒグマの受け入れ先探しが難航した。
八幡平クマ牧場[1] | |
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施設情報 | |
愛称 | 秋田八幡平熊牧場[1] |
前身 | 有限会社八幡平熊牧場[2] |
専門分野 | クマ牧場 |
面積 | 20,000m2[3] |
頭数 | 29頭(2011年5月18日現在)[3] |
来園者数 | 5,981(H23)[2] |
主な飼育動物 | ヒグマ[4] |
開園 | 1987年7月16日[2] |
閉鎖 | 2012年6月1日[5] |
所在地 |
〒018-5141 秋田県鹿角市八幡平字切留平10-1 |
位置 | 北緯40度1分28.4秒 東経140度49分13秒 / 北緯40.024556度 東経140.82028度座標: 北緯40度1分28.4秒 東経140度49分13秒 / 北緯40.024556度 東経140.82028度 |
アクセス |
鹿角花輪駅よりバスで30分「八幡平熊牧場前」下車 東北自動車道鹿角八幡平ICから車で20分 |
概要
牧場は国道341号沿いの八幡平温泉郷の温泉施設が点在する山中にあり、ヒグマ、ツキノワグマ、コディアックヒグマ[注釈 1]が展示され、施設としては、クマの運動場などがあった[3]。入園料は大人500円・小学生以下300円[8]。クマのおやつの販売なども行っていた。つりぼり園あり。
10月下旬から4月下旬までは冬期閉園していた[8]。従業員3名の零細企業であった。
動物愛護団体の攻撃
- ズーチェックの悪用
そもそも動物愛護団体「地球生物会議ALIVE」(代表野上ふさ子)などは、世界動物保護協会(WSPA)に調査を依頼された1991年以来、“施設が狭い”などとしてクマ牧場を攻撃してきた。秋田八幡平クマ牧場も実名で非難され、2001年以降は実名で無許可の撮影[注釈 2]した牧場の動画[注釈 3]を無許可でYoutubeに公表するなどのバッシングをした[9][注釈 2]。
これをALIVEは「ズーチェック運動」と「飼育環境のエンリッチメントの普及」と言う[10]が、経営状況が逼迫(ひっぱく)していた牧場に改善を求めても、動物福祉の向上はのぞめず、飼育されている動物を救う手段にはなりえなかった。
- 海外の動物権利団体の見解
また、この牧場が閉鎖された後に秋田県による熊の引き受け先探しが行われたが、ALIVEの求めに応じ、海外の動物愛護団体が「疑似的な野生保護区の建設が難しい場合は、クマを不適切な施設へ移動するのではなく、人道的な安楽死を検討するべき」とする要望を出し、動物の殺処分もありえる方向に誘導した[注釈 4][11][12]。
- この要望を出した団体は以下の通りである。
- Alertis- fund for bear and nature conservation (アラティス:クマと自然保護の基金)
- Animal Asia Foundation (アニマルズ・アジア・ファンデーション:アジア動物基金)
- Free the Bears (フリー・ザ・ベアズ:クマの解放)
- World Society for the Protection of Animals (世界動物保護協会)
- Asian Animal Protection Network (アジア動物保護ネットワーク)
- Animal Guardians (アニマル・ガーディアン)
- Animal People (アニマル・ピープル)
- Animal Concerns Research & Education Society (動物問題研究と教育協会)
- Coexistence of Animal Rights on Earth (地球での動物の権利との共存)
- Humane Society International (国際人道協会)
- International Animal Rescue (国際動物救援協会)
- International Fund for Animal Welfare (国際動物福祉基金)
- Society for the Prevention of Cruelty to Animals, Hong Kong (香港動物虐待防止協会)
一覧は、NPO法人「アニマルライツセンター」(東京都大田区)による[11]。
- 日本の現状
動物を殺さざる得なくなる原因としては、牧場側の経営悪化が一番の理由であるが、クマ牧場を攻撃し批判したALIVEなどの動物愛護団体や、動物の福祉が低下しているにもかかわらずクマの引き取りを依頼した行政や一部の動物愛護団体が、具体的な支援や改善に手を貸さなかったことも問題である[注釈 5]。牧場の閉鎖について、ALIVEは“経営者と法律と行政と一般市民そして日本社会に問題がある”としている[13]。
2004年に定山渓熊牧場が閉鎖した際、ALIVEは受け入れ先探しを手伝い、クマの受け入れ先が不足している日本の現状を認識していたが[14][15]、その後もズーチェックなどを通じ八幡平クマ牧場を非難した。また、八幡平クマ牧場の閉鎖後も、動物愛護団体によるクマ牧場への批判[16]が行われる。
2012年8月、秋田県知事によると、秋田県が集計したところクマの殺処分を行わないように求める情報が圧倒的な多数をしめ[17]、秋田県内にある別のクマ牧場にクマの移転が決定し、クマは助命された[17]。
事故と検証
2012年4月20日、運動場からヒグマ6頭が脱走し、襲われた飼育員2名が死亡する事故が発生した[4]。運動場は高さ4.5メートルのコンクリート塀で囲まれているが、壁際の一角に雪山ができており、この坂を登って外へ出たものとみられる[18]。脱走したヒグマは、いずれも牧場の敷地内で射殺された。
牧場の経営者と、除雪を担当していた従業員1名がオリなどの安全管理を怠ったとして、業務上過失致死容疑で6月9日に逮捕され[19]、罰金50万が略式命令されたが、牧場は閉鎖するため、行政処分はなかった[20]。
なお、過去に死亡したクマたちは敷地内に埋葬されている[21]。
その後
この牧場はもともと秋には廃園する予定であった[22]が、この死亡事故に伴い、経営者は施設を2012年5月中に閉鎖する予定で[6]、当初与える餌の量を減らして熊同士の抗争による自然淘汰で個体数を減らし、最後は餓死させる計画であった[5]が、秋田県による非常勤職員派遣やクマの受け入れ先探し、さらに日本熊森協会などからの支援金及び支援物資があり[23]、又、この牧場を長年、名指しで非難してきた地球生物会議ALIVEからクマペレット1tもあり、その後もクマの飼育を続けることになった[24]。但し、秋田県は、閉鎖した園を長期間、維持するのは財源面と安易な飼育放棄につながるとして問題があるとし、10月までに結論を出すとした。
また秋田県は、クマの受け入れ先探しについて日本動物園水族館協会に協力を要請し、その結果、茨城・高知両県の2つの施設からツキノワグマに限り受け入れ可能との回答を得た[7]。さらに同県北秋田市市営の阿仁熊牧場でも受け入れを検討し[25]、8月23日、北秋田市が条件付で全頭受け入れを表明した。条件は、「県や関係機関の支援」である[26][27](阿仁熊牧場は動物愛護団体から飼育頭数が多いと指摘され、飼育頭数を減らしている最中であり、施設が不足するおそれがあるためである[26])。 秋田県知事は北秋田市の申し出を2013年秋までに実現させようとしている[28][29][30]。 同年9月、秋田県獣医師会と動物愛護団体がクマ牧場の支援団体を設立予定[31]。
関連項目
- 定山渓熊牧場 - ここもズーチェックが原因で閉鎖したクマ牧場[32]。
- 北秋田市阿仁マタギの里熊牧場 - ここはズーチェックで頭数削減中のクマ牧場[33]。
注釈
- ^ その後5月中旬に獣医師が検査した結果、ヒグマとコディアックヒグマとの交雑が進んでいるとされた[7]。
- ^ a b そもそも「ズーチェック」という理由で不法性は棄却されない。悪意のある無許可の撮影は不法行為となりえるため、牧場は無許可にズーチェックを行った者を不法侵入者として退去させている。また、調査としての撮影と、それの利用(公表や販売)は別で、ALIVEは無許可の撮影物の販売1000円から行っている。また、裁判所はたとえ内部告発であっても無許可の撮影物の無許可な公表を認めていない(アドベンチャーワールド事件)。この判決の後の2011年にもALIVEは牧場を無許可で撮影している。
- ^ 撮影物はALIVEにより編集がなされているため、ALIVE又は編集者の創造物であり、「事実の公表」とは違う。
- ^ 欧州では動物園の動物の殺処分がしばしば行われる。ドイツの動物園では育児放棄された仔熊は「人工哺育は不自然」という理由で殺処分が行われる場合があり、ベルリン動物園のホッキョクグマ「クヌート」も、PETAにより、人工哺育だからという理由で殺処分が提案されたこともある。これは動物が死んでも構わないとする態度で日本にはなじまず、秋田県の集計では圧倒的にクマの殺処分に反対だった。
- ^ そもそも、みだらに虐殺することを戒めた日本の動物愛護法、並びに、人間に搾取されない自由を謳う動物権は、動物を殺さない方向に導くものである。
脚注
- ^ a b 八幡平熊牧場の看板写真秋田県議会議員のブログより,2012年5月20日
- ^ a b c 秋田八幡平クマ牧場について 1 秋田八幡平クマ牧場の経営等の状況秋田県 生活衛生課 (PDF) 秋田県 生活衛生課
- ^ a b c 八幡平クマ牧場について 秋田県 生活衛生課 (PDF)
- ^ a b 秋田八幡平クマ牧場における従業員の死亡事故について秋田県 生活衛生課 (PDF)
- ^ a b c “クマ「けんか」で淘汰…牧場元経営者が削減計画”. 読売新聞. (2012年6月26日) 2012年6月28日閲覧。
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- ^ a b “9割が受け入れできず、全国動物園 八幡平クマ問題、「施設余裕なし」大半”. 秋田魁新報. (2012年6月2日) 2012年6月6日閲覧。
- ^ a b “八幡平熊牧場”. 社団法人秋田県観光連盟. 2012年4月22日閲覧。[リンク切れ]エラー: 「2012年06月」は認識しません。「yyyy年m月」形式で記入してください。間違えて「date=」を「data=」等と記入していないかも確認してください。
- ^ 地球生物会議ALIVE 動画で見る八幡平クマ牧場
- ^ これまでの活動のご紹介 地球主物会議ALIVE「1996年からズーチェック運動を展開し飼育環境のエンリッチメントの普及を図りました。」
- ^ a b NPO法人アニマルライツセンター 海外12団体 八幡平熊牧場へ要望書提出
- ^ 朝日新聞「クマ譲渡先 環境 海外13団体要望」
- ^ 動物愛護団体ALIVEの見解2012年4月27日、(引用)「クマ牧場については、管理能力のない経営者のみならず、飼養許可を定めた法律、許可を出してきた行政、クマの多頭飼育や不自然な飼い方に疑問を持たず、クマが物乞いをする姿などを見て楽しむ一般市民にも問題があると言えるでしょう。その意味では日本社会に突きつけられた責任問題ということもできます。」
- ^ 残る27頭の行き先メド立たず。安楽死も検討朝日新聞秋田版2012年4月26日,(引用)「動物保護団体「地球生物会議ALIVE」(東京都)に23日、経営者から電話があった。 野上ふさ子代表によると、経営者から、「事故後、金銭的なゆとりがない。クマの引き取り先を探してほしい」と頼まれたという。 しかし野上氏は取材に、「引き取り先を見つけるのは簡単ではない。経営者、県、私たちで、当面の餌やりなどの対応を話し合うことにした」と話した。」
- ^ クマ譲渡先探し難航読売新聞秋田版,2012年5月9日付,「札幌市の「定山渓クマ牧場」は2004年の閉園当時、国内外の動物園などにヒグマの受け入れを断られた。」
- ^ 人と動物の関係学 #14 クマ牧場って何? ペット研究会「互」主宰 山崎恵子ゼノアック2012年6月
- ^ a b 平成24年8月27日知事会見録 (1)秋田八幡平クマ牧場に残されたクマの北秋田市での受入れについて(佐竹敬久秋田県知事発言)今集計しておりますけども、私どもに、非常に日本ばかりじゃなく、世界的に相当な直接的な手紙のみならずネットでいろいろな、何といいますか情報が入っています。まあほぼ、今集計してますけども、ほぼクマを助けるべきだと、生かすべきだということであります。(2012年8月31日秋田県秘書課登録分)
- ^ “クマ、雪山登り脱走か 八幡平牧場2人死亡事故”. 秋田魁新報. (2012年4月22日) 2012年4月22日閲覧。[リンク切れ]エラー: 「2012年06月」は認識しません。「yyyy年m月」形式で記入してください。間違えて「date=」を「data=」等と記入していないかも確認してください。
- ^ “秋田・クマ牧場:死亡事故、業過致死容疑で経営者ら逮捕”. 毎日新聞. (2012年6月9日) 2012年6月9日閲覧。
- ^ “県、行政処分見送りへ クマ牧場事故”. 秋田魁新報. (2012年6月5日) 2012年6月6日閲覧。
- ^ 秋田八幡平クマ牧場:敷地に死体埋葬「合法」 鹿角市見解、廃棄物に当たらず毎日新聞秋田版,2012年7月6日,「鹿角市は5日、「クマは埋葬されており、死体は廃棄物処理法における廃棄物にはあたらない」とし、不法投棄ではないとする見解を発表した。」
- ^ 毎日新聞2012年4月25日
- ^ 秋田・クマ牧場:残ったクマどこへ…引き取り手なく3毎日新聞,2012年6月9日
- ^ “県の非常勤職員、クマ牧場で業務開始 餌やりなど”. 秋田魁新報. (2012年6月5日) 2012年6月6日閲覧。
- ^ “北秋田市、受け入れ前向きに検討 八幡平牧場のクマ”. 秋田魁新報. (2012年6月1日) 2012年6月6日閲覧。
- ^ a b 北秋田市、クマ全頭受け入れも読売新聞秋田版,2012年8月25日,「八幡平クマ牧場の元経営者で、クマ27頭の所有者の長崎貞之進氏(68)は「万策尽きたら殺処分もやむを得ないと考えていた。津谷市長が本気で生きたクマを引き取ってくれるなら、こんなにありがたいことはない」と話した。」
- ^ 北秋田市長、クマ全頭受け入れ表明 八幡平牧場問題で秋田魁新報,2012年8月24日,「津谷市長は23日、県や関係機関の支援を前提に「北秋田市の阿仁熊牧場で全頭を受け入れる考えがある」と述べた。「県は越冬や来年度のことを考えなければならない時期にある。県から声が掛かる前に、市として全頭受け入れに手を挙げたい」と述べた。」
- ^ クマ全頭、来秋までに移送読売新聞秋田,2012年8月28日
- ^ 阿仁熊牧場支援、県費で飼育施設改修 知事方針示す秋田魁新報,2012年8月28日
- ^ 県、除雪費などを負担 クマ27頭移送 「所有権移譲」は拒否読売新聞秋田,2012年8月29日
- ^ [1]秋田魁新聞
- ^ 北海道新聞2004年1月6日
- ^ 秋田魁新報2012年5月2日