文化的景観
文化的景観(ぶんかてきけいかん、Cultural landscape)とは、人間と自然との相互作用によって生み出された景観を言う。景観とは既に現存する自然や人工の要素の集合体ではなく、自然と人為が関係しあっている様子、すなわち文化をも表現するという見方で、歴史的景観と表裏一体となっている。この場合の相互作用には、庭園等の様に人間が自然の中に作り出した景色、あるいは田園や牧場のように産業と深く結びついた景観、さらには自然それ自体にほとんど手を加えていなくとも、人間がそこに文化的な意義を付与したもの(宗教上の聖地とされた山など)が含まれる。

世界遺産
ユネスコの世界遺産委員会では、1992年に「世界遺産条約履行のための作業指針」の中に、文化的景観の概念を盛り込んだ。分類上は文化遺産だが、自然的要素に特筆すべき点がある場合には複合遺産となる。
文化的景観を理由に登録された世界遺産の第一号は、トンガリロ国立公園(ニュージーランド)である。この物件は1990年に自然遺産として登録されていたが、マオリの信仰の対象としての文化的側面が評価され、1993年に複合遺産となった。
以降、文化的景観を登録名に関した物件は、「石見銀山遺跡とその文化的景観」(日本)、「スクルの文化的景観」(ナイジェリア)、「バーミヤン渓谷の文化的景観と古代遺跡群」(アフガニスタン)、「シントラの文化的景観」(ポルトガル)など枚挙に暇がない。
また、登録名に文化的景観と冠していなくとも、「アルト・ドウロ・ワイン生産地域」(ポルトガル)や「フィリピン・コルディリェーラの棚田群」などの農業景観、巡礼の道として登録された「フランスのサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路」[1]や「紀伊山地の霊場と参詣道」(日本)、国立公園であるにもかかわらず文化遺産として登録されている「シンクヴェトリル国立公園」(アイスランド)や「ホルトバージ国立公園」(ハンガリー)などは、いずれも文化的景観の範疇に属する。2007年1月23日に、日本で富士山が世界文化遺産暫定リスト追加資産候補になったのも、文化的景観としての価値が評価されてのものである。
世界遺産に登録されている文化的景観の一覧
ICOMOSによってそのように位置づけうることが示されている物件もリストアップしている。
アジア
アフリカ
オセアニア
ウルル=カタ・ジュタ国立公園 | オーストラリア | |
トンガリロ国立公園 | ニュージーランド | |
ロイ・マタ首長の領地 | バヌアツ | |
クックの初期農業遺跡 | パプアニューギニア |
南北アメリカ
ケブラーダ・デ・ウマワーカ | アルゼンチン | |
ビニャーレス渓谷 | キューバ | |
キューバ南東部のコーヒー農園発祥地の景観 | キューバ | |
テキーラの古い産業施設群とリュウゼツランの景観 | メキシコ |
ヨーロッパ
シンクヴェトリル国立公園 | アイスランド | |
マドリウ=ペラフィタ=クラロ渓谷 | アンドラ | |
セントキルダ島 | イギリス | |
ブレナヴォン産業用地 | イギリス | |
キューの王宮植物園群 | イギリス | |
コーンウォールと西デヴォンの鉱山景観 | イギリス | |
ポルトヴェーネレ、チンクエ・テッレと小島群 | イタリア | |
アマルフィ海岸 | イタリア | |
パエストゥムとヴェーリアの考古遺跡群やパドゥーラのカルトジオ修道院を含むチレントおよびヴァッロ・ディ・ディアーノ国立公園 | イタリア | |
ピエモンテ州とロンバルディア州のサクリ・モンティ | イタリア | |
ヴァル・ドルチャ | イタリア | |
ザルツカンマーグート地方のハルシュタットとダッハシュタインの文化的景観 | オーストリア | |
ヴァッハウ渓谷の文化的景観 | オーストリア | |
フェルテー湖/ノイジードラー湖の文化的景観 | オーストリア/ハンガリー | |
アムステルダムの防塞線 [2] | オランダ | |
キンデルダイク=エルスハウトの風車網 | オランダ | |
ベームスター干拓地 | オランダ | |
ラヴォーのブドウ段々畑 | スイス | |
上スヴァネティ | グルジア | |
スコーグスシュルコゴーデン | スウェーデン | |
エーランド島南部の農業景観 | スウェーデン | |
エルチェの椰子園 | スペイン | |
アランフエスの文化的景観 | スペイン | |
ピレネー山脈のモン・ペルデュ | スペイン/フランス | |
レドニツェとヴァルチツェの文化的景観 | チェコ | |
デッサウ・ヴェルリッツの庭園王国 | ドイツ | |
ライン渓谷中流上部 | ドイツ | |
ムスカウ公園 | ドイツ/ポーランド | |
ヴェーガ群島 | ノルウェー | |
プスタのホルトバージ国立公園 | ハンガリー | |
トカイのワイン産地の歴史的・文化的景観 | ハンガリー | |
パンノンハルマの千年の歴史を持つベネディクト会大修道院とその自然環境 | ハンガリー | |
フランスのサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路 [2] | フランス | |
サン=テミリオン地域 | フランス | |
シュリー・シュル・ロワールとシャロンヌ間のロワール渓谷 | フランス | |
カルヴァリア・ゼブジトフスカ:マニエリスム建築と公園が織りなす景観と巡礼公園 | ポーランド | |
シントラの文化的景観 | ポルトガル | |
アルト・ドウロ・ワイン生産地域 | ポルトガル | |
ピコ島のブドウ畑文化の景観 | ポルトガル | |
クルシュー砂州 | リトアニア/ロシア | |
ケルナヴェ考古遺跡(ケルナヴェ文化保護区) | リトアニア |
日本
日本では、2005年4月1日に施行された改正文化財保護法第2条第1項第5号によって、文化的景観に関する規定が新たに盛り込まれた。この点については、日本における「文化的景観」を参照のこと。
脚注
- ^ スペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路は類似の物件であるが、公式文書に文化的景観との明記はない。
- ^ a b ユネスコ世界遺産センターの文書では、「線形の文化的景観」(linear cultural landscape) に含まれる可能性が示唆されている。
関連項目
参考文献
- 『世界遺産年報』日本ユネスコ協会連盟、(各年版)
- 特定非営利活動法人 世界遺産アカデミー『世界遺産検定2007公式出題解説&問題集』毎日コミュニケーションズ 、2007年
- 『日本の文化的景観 農林水産業に関連する文化的景観の保護に関する調査研究報告書』 文化庁文化財部記念物課、同成社 (2005/09) ISBN 978-4-88621-334-1
- 『世界遺産ガイド-文化的景観編-』シンクタンクせとうち総合研究機構