風評被害
風評被害(ふうひょうひがい)とは、風評によって、経済的な被害を受けること[1]。事実を伝えない・正確な情報を提供しない事が原因ともなっている(後述)。なお、この定義に合致しない事象に対しても風評被害という語が用いられることがあり、本項では風評被害として報道等がなされた事象全般について概説する。
風評被害は実際に存在するが、風評被害ではない事を風評被害と称するケースが見られる。
風評被害とされた事例
1983年以前
1984年
- 辛子蓮根による集団食中毒事件が発生、36名が中毒症状を起こし、内11名が死亡した。食中毒を発生させた辛子蓮根製造業者の株式会社三香のずさんな衛生管理が原因だったのだが、連日の報道により全く無関係の辛子蓮根製造業者までも風評被害を受け、休業・廃業に追い込まれるなど、辛子蓮根業界全体は多大な影響を受けた。
1985年
1993年
1995年
- 阪神・淡路大震災で、震源地である淡路島北部の北淡町の被害が強調され、さながら同島全域が壊滅したかの如く報道された為、被害が軽微であった同島南部の観光客も大幅に減少。
- 地下鉄サリン事件など一連のオウム真理教による犯罪のため、同教団とは無関係なオーム電機やオーム社などが関連を疑われる。同教団は後に名称を「アーレフ」に変更するが、こちらもびっくりドンキーを経営する株式会社アレフといった既存企業が風評被害を受ける。この他、教団幹部の姓と同じ名称の企業や店舗が関係性を疑われるなどの被害を受けた。
1996年
- 堺市で学校給食による学童のO157集団感染により死者3名が発生した事件で、「原因食材としてカイワレ大根が疑われる」という厚生省(現・厚生労働省)の中間発表(疫学調査によりカイワレが有意となった)により、カイワレ業界が壊滅的な打撃を受け、中には自殺する農家もいた。この事件以降、カイワレ大根の保管には新たに規定が設けられた。くわしくはO157の項目も参照のこと。
1997年
- ナホトカ号重油流出事故によって、日本海沿岸の海洋が広範囲に亘り汚染された。これにより、カニシーズンを迎えていた加賀、若狭、北近畿、山陰の各観光地で予約客のキャンセルが相次いだ。カニは海底に棲息するので重油被害を受けることはほとんどなく、また事故以前に水揚げされたものや、冷凍品のストック、その他の産地より直送されたものもあったため、事故とは無関係であると漁協や旅館組合が盛んに安全性をPRしたが、風評被害は免れず、一帯の観光客入り数は例年の半分以下に激減した。
1999年
- 2月1日『ニュースステーション』が、ダイオキシン高濃度検出事件を「葉物野菜から多く検出」と報道、間違ったデータや誤解を招きかねないイメージ映像を流した事で、所沢市産のホウレンソウなど野菜の価格が暴落した。(「ニュースステーション#所沢ダイオキシン訴訟」を参照のこと)
- 東海村のJCO臨界事故により、実際には放射線による汚染は全くなかったにもかかわらず、茨城県内の農作物や納豆の売り上げが激減した。
2001年
- アメリカ同時多発テロ事件の影響により、沖縄旅行を取り止めた人は、平成13年度末までで、修学旅行17万人、一般旅行5万人、合計22万人と言われている[2]。特に修学旅行の中止が多いのは、文部科学省が9月28日付けで各都道府県教育委員会に送付した「海外修学旅行先では米軍施設に近寄らないように」という内容の通達がきっかけである。これを受けた一部の教育委員会が、地域の公立校へ情報を転送する際「米軍基地がある韓国や沖縄への修学旅行は特に注意するように」という情報を追加したため、キャンセルが相次いだ[3]。10月10日、この事態を受けた観光業界団体が文部科学省初等中等教育局へ抗議を行なった結果、あらためて、沖縄への修学旅行を予定通り実施することと、海外への修学旅行の中止に伴う代理地として沖縄を検討することを薦める通達が出された[4]。
2003年
- 佐賀銀行が倒産するというチェーンメールをきっかけに、短期間に約500億円が引き出された(取り付け騒ぎを参照のこと)。
- SARSを発症した台湾人医師が、小豆島の旅館に立ち寄ったと報道されたところ、該当旅館以外の同島全域で宿泊キャンセルが相次いだ。またアジア全域への観光客数も減少(「重症急性呼吸器症候群#影響」を参照のこと)。
2004年
- トリインフルエンザに感染した疑いのある鶏肉・鶏卵が京都府、滋賀県、大阪府に流通したとされ、健康被害などは発生しなかったにもかかわらず、鶏肉の売り上げが減少。
- 新潟県中越地震により、佐渡島など被害軽微な地域にも旅行キャンセルが殺到し、観光客が激減。
2005年
- 3月22日、カリフォルニア州の女が、ファーストフード店「ウェンディーズ」の料理の中に『人間の指が入っていた』と訴え、メディアの報道が過熱した。調査の結果、この女は過去にも他店に対して同様の訴訟を起こしており、この事件も産業事故で失った知人の指を女自らが混入させたものと判明。女は逮捕されたが、「ウェンディーズ」は風評被害により約250万ドルの経済損失が出た。
2006年
- 1月3日、平成18年豪雪により、新潟県湯沢町の有名スキー場など3か所で雪崩が起きた。翌々日には一部のリフトを除いて営業を再開したが、報道により「湯沢町全体のスキー場が全部危険である」という印象が広まり、安全が確認されているスキー場にも予約のキャンセルが相次いだ[5]。
2008年
- 6月14日に発生した「岩手・宮城内陸地震」において、大崎市では一部地域に被害が集中したが、不適切な報道により「大崎市全体が危険である」との印象がもたれ、被害が軽微だった鳴子温泉郷でも観光客のキャンセルが相次いだ[6]。
2010年
- 3月26日に宮崎県で発生した口蹄疫の流行(2010年日本における口蹄疫の流行を参照)において、徹底した消毒を行っているにも関わらず宮崎ナンバーであると言う事で宮崎県内の運送業が県外での積荷の受け取りを拒否される。
2011年
- 3月11日に発生した東日本大震災を発端とした福島第一原子力発電所事故が原因で、避難民が放射能検査を要請される[7]、タクシーへの乗車を拒否される[8]、いじめに遭う[9]などのケースが発生。同様に工業製品への風評被害も存在する[10][11]ほか、被曝を恐れてトラックドライバーが(原発事故とは無縁の)被災地に入ろうとせず結果として救援物資が被災者に行き渡らないというケースがおきた。[12]また風評被害を受けたとする住民やケアセンターの従業員の苦悩ぶりが報道番組などより明らかとなり放送されたケースもある[13]。更には農作物への風評被害があったとの主張もある[14]。
- 5月にドイツ北部を中心に起きている腸管出血性大腸菌感染事件で5月26日、ハンブルク市当局により、感染源がスペイン産のキュウリであると発表された後、その後キュウリが原因ではなかったと発表された[15]。これによる風評被害に対してホセ・ルイス・ロドリゲス・サパテロスペイン首相などは損害賠償を請求する意向を示しており[16]、ドイツのアンゲラ・メルケル首相はEUが財政支援を行うと述べている[17]。
脚注
- ^ 広辞苑第六版,「風評被害」
- ^ 社団法人日本旅行業協会「平成13年度事業報告」
- ^ 朝日新聞9月29日付夕刊「修学旅行、沖縄敬遠-文部省通知、自粛を招く」
- ^ 13文科初第六八二号「米国における同時多発テロ後の状況を踏まえた沖縄県への修学旅行の実施について」(各都道府県教育委員会教育長各都道府県知事あて)
- ^ ほっとほくりく「平成18年豪雪特集」被災地からの声-新潟県湯沢町長
- ^ 大崎市議会の「平成20年 岩手・宮城内陸地震災害対策調査特別委員会」(2008年7月14日開催)によれば、695549000円と試算されている。また、7月9日には同市の市長である伊藤康志が気象庁を訪れ、地震の名称変更を申し入れている。岩手・宮城地震:地震名変更を…大崎市長が風評被害指摘(市長の写真のみ、記事はリンク切れ)
- ^ “原発避難者に放射線検査を要請 つくば市長、配慮不足は陳謝”. 47NEWS (2011年4月19日). 2011年5月16日閲覧。
- ^ “屋外活動制限 子どもを守れるのか”. 信濃毎日新聞 (2011年4月21日). 2011年5月16日閲覧。
- ^ “福島ナンバー拒否、教室で陰口…風評被害に苦悩”. YOMIURI ONLINE (2011年4月21日). 2011年5月16日閲覧。
- ^ “【放射能漏れ】工業製品の放射能測定開始 宮城、風評被害対策で”. MSN産経ニュース (2011年4月16日). 2011年5月16日閲覧。
- ^ “【【韓国BBS】日産キューブ、どう思う?「かわいいけど日本車…」”. Searchina (2011年8月10日). 2011年8月22日閲覧。 「同車が欲しいが放射能汚染が心配」と言う旨の書き込みが掲載されている。
- ^ “深刻風評被害、福島へガソリン輸送拒否 (1/2ページ)”. SANSPO.COM (2011年3月17日). 2011年5月16日閲覧。
- ^ テレビ朝日放送 スーパーモーニング3月21日放送分より
- ^ “【プレスリリース】風評被害に負けるな !「野菜を食べて農家・農業を応援しよう!」―応援イベントのご案内―”. JA全中 (2011年4月6日). 2011年5月16日閲覧。
- ^ “週234億円の損失 震える欧州「O104」風評被害も猛威 2/2”. (2011年6月2日)
- ^ “欧州で大腸菌O104感染拡大、計18人死亡 独で発生”. 朝日新聞. (2011年6月2日)
- ^ “ドイツ、O104のうわさでスペインに陳謝-EU財政援助を申し出”. アイビータイムズ. (2011年6月3日)
関連項目
- 報道被害
- 噂
- デマ
- プロパガンダ
- 放送倫理・番組向上機構(BPO)
関連書籍
- 関谷直也『風評被害―そのメカニズムを考える』(光文社新書)2011年5月。ISBN 978-4334036249
- 永峰英太郎・河岸宏和『日本の農業は“風評被害”に負けない』 (アスキー新書) 2011年6月。 ISBN 978-4048707008