三幕構成

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三幕構成(three-act structure)は、脚本(シナリオ)の標準的な様式。三幕構成は物語を設定(setup)、対立[注 1](confrontation)、解決(resolution)の三部に分ける[2]。三幕構成の枠組はシド・フィールドによって整理され、現在では、脚本、シナリオの書き方のモデルとして世界的に広く支持されている[3]

三幕構成の見取り図
ウェンデル・ウェルマンによるプロット・ライン・グラフ(一部追記).
赤とオレンジは主人公が敵対者と衝突するシーン[1]

構成

ハリウッド映画は多くの場合、2時間ほどの長さである。脚本の1ページは、映像ではおよそ1分になる。第一幕は、20-30ページ程度である。第二幕は60ページ程度で、第一幕の終わりから、第三幕が始まる直前まで続く。第三幕は、20-30ページ程度で、第二幕の終わりから、脚本の最後までである。(したがって、2時間映画の脚本はおよそ120枚である。このとき、それぞれの幕の比率は、第一幕:第二幕:第三幕で、1:2:1となる。)この三部は二つのターニング・ポイント(プロットポイント)でつながっている。シド・フィールドによれば、ターニング・ポイント[注 2]とは、「アクション(行動)を起こさせ、物語を違う方向性に向かわせる事件やエピソードなど」をいう。ターニング・ポイントは主人公に関係するイベントである。三つの幕は「設定」「対立(葛藤)」「解決」の役割を持ち、第一幕から第三幕のそれぞれは、再びさらに短い「設定」「対立(葛藤)」「解決」の三つのパートに分割される[4]

主人公と敵対者が衝突[注 3]することで主人公は選択を迫られ、ストーリーが転換する。主人公が敵対者と関わる転換点は、最低でも5回(10分頃, 25分頃, 60分頃, 85分頃, 95分頃)は必要であり、そのうち3回は大きな転換シーンである。それは二つのターニング・ポイントとミッドポイント(中間点)で起こる。主人公と敵対者の接触が多いほどストーリーの緊張感は高まり、その映画がヒットする可能性も増す[5]。敵対者は主人公とは正反対の意見を持ち、主人公の最終目的を妨げる大きな存在である。敵対者は特定の個人とは限らず、災害モンスター等であったり、人種差別ナチス・ドイツ懲役またはスクール・ライフ等のような目に見えない抽象的なものであったりもする。敵対者が複数の場合もある。また、敵対者は必ずしも悪の存在ではない。ラブ・ストーリーでは恋愛の相手が敵対者となる[6]

主人公は少なくとも3回は誤った選択をしなければならない(「秘数3」)。主人公は第二幕の終わりで正しい答えを得て、正しい選択をする。正しい選択をしたことにより第三幕で勝利する。主人公の1回の決断だけでストーリーを引っ張ってはならない。そのような映画は退屈な作品になる[7]。かつて刷り込まれた古い考え方が主人公の新しい考え方と衝突する。主人公はその古い考え方のために誤った行動をとる。新しい考え方とは、それとは正反対の主人公の主張、最終目的である(自由や正義など)。この二つの考え方の衝突が、脚本における「葛藤」であり、三つの主な転換シーンである[8]

第一幕 (設定)

オープニング

第一幕(first act)は通常、メインキャラクターを固めるための説明に用いれられる。彼らはどのようなキャラクターか、彼ら同士はどのような関係か[注 4]、彼らの住む世界はどのようなものか、といったことが第一幕で設定される[9]。2時間映画の場合、第一幕のうち最初の10分ほどでこういったことを説明しなければならない。この冒頭10分(10ページ)が全体で最も重要である。観客は多くの場合、最初の10分程度で映画の評価を決めてしまうためである[注 5]。ここで退屈だったり、分かりにくかったりすると、観客は映画に集中することをやめてしまう[10]

この10分間はセットアップ(set-up)と呼ばれ、メインストーリーの登場人物が必ず全て登場するか、その存在が示唆される[11]。主人公が敵対者と初めて出会うのもこのセクションである[12]。主人公の目的や使命が明確にされ[13]、主人公が最終的に勝利するために足りないもの[注 6]を見せる[14]。こうして状況設定をした上で、今後の急展開の前兆が示され、伏線が敷かれる[15][注 7]

第一幕では設定の説明が行われるが、台詞で説明を行うと、キャラクターがアクションしなくなり、ストーリーの展開もスローになる。映像作品は映像ストーリーを説明することが重要である[16]。登場人物やストーリーを説明する上で、台詞はあまり必要でない。必要でない情報を盛り込んではならない。それでは観客は引き込まれない。必要な情報は、キャラクターの核心を明らかにし、ストーリーを前に進める情報のみである。説明は、明確、手短、シンプルでなければならない。映画監督アルフレッド・ヒッチコックは、「情報を表わす的確な映像があれば、シーンの数は最小限ですむ」と述べている[17]

  • オープニング・イメージ (※スナイダーによる分類.)
オープニングイメージ(opening image)は、映画の第一印象が全て決まる部分である。優れたオープニング・イメージは、どのような作品なのかがイメージでき、作品のスタイル、ジャンル、テーマ等が象徴される。それはまた、主人公の変化する前の姿を見せる場である。オープニング・イメージは最後のファイナル・イメージと一対になっており、主人公に起こった変化はラストで表される[18]。ここでは舞台となる場所や時代も設定される。作品の舞台がワイドアングルで映し出される場合が多いが、反対に、クローズアップから始まる場合もある[19]
  • 出会いと挨拶 (※ウェルマンによる分類.)
「出会いと挨拶」は、冒頭の3分から10分の時点で起こる。主人公は敵対者とプライベートで出会うが、危険を感じておらず、むしろ主人公がフレンドリーな敵対者に関心を持つほどである。この時点では、まだ主人公は「普通の世界」にいる。ウェンデル・ウェルマン英語版は、冒頭で主人公とその友人たちが暮らす「普通の世界」を、可能な限り面白い世界として描くことを勧めている。すぐ後に、主人公は敵対者によって、それとは正反対の危険な世界へと入り込む事になるからである[20]
  • テーマの提示 (※スナイダーによる分類.)
テーマの提示(theme is stated)では、登場人物の誰かが作品のテーマに関することを口にする。普通、主人公でない人物が主人公に対して忠告する。主人公は言われたことの意味をよく分からないが、ストーリーが進むほどその言葉の重さを理解するようになる。ここでは脚本家の主張が代弁され、以降は、登場人物がそれに賛成か反対かで対立しながらストーリーが進行する。ブレイク・スナイダー英語版は全110ページとした場合、必ず5ページ目にテーマを提示している[21]
  • インサイティング・インシデント
インサイティング・インシデント(inciting incident, 呼び水)またはカタリスト(catalyst)は、「ツカミ」となる事件である。これは、その後に起こるさらにダイナミックな展開の呼び水となる。それはオープニング(ときには1ページ目)に配置される。ここでメインキャラクターが投入されて、ストーリーが動き始め、また、観客をストーリーに集中させる[22]。インサイティング・インシデントは、原則として最初の10分から15分に置かれる(この「前振り」のシーンは全編に散りばめることも出来る。)。このシーンは、会話よりも出来事や行動で描いたほうがインパクトは強い[23]。たいていのヒット映画では、主人公が敵対者と最初に遭遇するのはこの辺り(開始10分頃)である[24]。インサイティング・インシデントはファースト・ターニング・ポイントにつながる。ストーリーが本当の意味で始まるのは次のファースト・ターニング・ポイントからである。インサイティング・インシデントは必要不可欠であるが、前振りでしかない[25]
例えば、『マトリックス』('99)で、トリニティが重力を無視して警官隊の包囲から脱出するシーン、『ロード・オブ・ザ・リング』('01)で、指輪が川底から見つかるシーン[26]、『シックス・センス』('99)の主人公が撃たれるシーン、『プライベート・ライアン』('98)のノルマンディー上陸のシーン等がインサイティング・インシデントである[27]
  • 第二の10ページ
セットアップが終わった後の「第二の10ページ」では、主人公の一日の日常や人間関係が示される。主人公は行動的、決断的で、全てのシーンに登場していなければならず、また、最初の10ページの設定に応じて行動している必要がある。ストーリーは、第一幕の終わりのファースト・ターニングポイントに向かって広がり、前に進まなければならない[28]
  • 悩みのとき (※スナイダーによる分類.)
悩みのとき(debate)では、主人公が自分の目標を実現できるのか疑問を抱き、十分に考える(12/110から15/110, 全体の約1/10)。これにより疑問の答えを見つけ、主人公は自信を持って試練に立ち向かう決心が出来る。前のインサイティング・インシデントと次のファースト・ターニング・ポイントをつなぐセクション[29]

ファースト・ターニング・ポイント

第一幕の終わりでは、きっかけとなる出来事がダイナミックに起こり、主人公に直面する。主人公はこの出来事に上手く取り組もうと試みる。出来事は次のよりドラマティックなシチュエーションにつながる。これがいわゆるファースト・ターニング・ポイントまたはプロットポイントI (first turning point または plot point I)である。これは、まず、(i)第一部が終わる合図となる。さらに、(ii)主人公の人生をがらりと変え、引き返せなくする。なおかつ、(iii)物語での問い(question)が生じる(これには作品のクライマックスで答えが与えられる)。この問いは、主人公の行動する「きっかけ」という目線から立てられなければならない(例えば、「Xはダイヤモンドを取り返せるか?」「Yは彼女をゲットするか?」「Zは殺人犯を逮捕できるか?」など。)[9]。ファースト・ターニング・ポイントから本当のストーリーが始まる[30]。それは通常、20-25または30ページ前後に配置される[10]

ここでは、それまでの状況が一変して、主人公のゴールが明確になり、その目標を達成するためのストーリーが始まる[15]。ファースト・ターニング・ポイントは、主人公の関係する何らかのイベントであり、ここから物語は第二幕に入る[10]。主人公は安定した日常から、危険にあふれた非日常へと足を踏み入れる[15]。二つの世界は著しく異なるため、自分から新しい世界に進む強い意志がなければならない。主人公は受け身のまま流されて第二幕に入ってはならない。自ら選択し、行動しなければ主人公ではない[31]。これは言わば森の中に分け入る入り口のシーンである。必ず敵対者との衝突が起こるが、通常、対峙するだけで「戦闘」にはならない。しかし主人公は、敵対者が予想外で思いもよらない存在であり、これまでの方法では立ち向かえないことを知る。このため、ストーリーに最初の転換が起こる。続く数シーンでは、主人公が森の中、つまり新しい世界で、普通でないことをしている普通でない人々に出くわす[32]

ファースト・ターニング・ポイントでは、主人公の「ドラマ上の欲求」がそれまでとは変化する。このため、続く第二幕では、まず初めに、主人公の新たな「ドラマ上の欲求」を明らかにしなければならない。『テルマ&ルイーズ』('91)では、親友テルマをレイプしようとした男をルイーズが射殺したことによって、「二人で週末の楽しい旅に出かけること」という欲求は、「二人でメキシコまで逃げること」へと変わる。これは、ファースト・ターニング・ポイントで主人公の「ドラマ上の欲求」が変化する例である[33][34]

タイタニック』('97)では、船から飛び降りようとしたローズをジャックが救うシーンが、ファースト・ターニング・ポイントに当たる[35]。『ロード・オブ・ザ・リング』('01)で、主人公フロドが指輪を運ぶために村を出るシーン[36]、『マトリックス』('99)で、主人公ネオが真実の世界に目覚めるための錠剤を選ぶシーンも同様である[37]

第二幕 (対立, 葛藤)

第二幕(second act)は、"rising action"(盛り上がり展開)とも呼ばれ、一般に、ファースト・ターニング・ポイントで始まった問題を主人公が解決しようと努力する姿を描く[9]。主人公は、目指す目標の障害と戦って勝たなければならない[10]。だが、その矢先、主人公は自分がますます悪化する状況の中にいることに気づく。理由の一つは、主人公が問題を解決できないように思われるからだ。なぜならば、それは、主人公の前に立ちはだかる敵対者に対抗するスキルをまだ持っていないためである。主人公は新しいスキルを得るだけでなく、より高い意識に目覚めなければならない。すなわち、主人公が苦境から抜け出すために何が出来るのかを悟る。そして、今度は自らを変える自覚を持つことである[9]

このようなキャラクターの内面の変化は、キャラクターの成長(character development)またはキャラクター・アーク(character arc)と言われる。それは一人では成し遂げられない。主人公は普通、良き指導者(mentor)や共同主人公から助けられ、励まされている[9]。このように、第二幕は「葛藤」である。登場人物が相次ぐ困難を乗り越え、「ドラマ上の欲求」を成し遂げようとする[38]。そうして、主人公の試練はクラスマックスに向けて、いよいよ困難なものとなっていく[15]

シド・フィールドによれば、第二幕はミッドポイント(中間点)を境に前半と後半に分けられ、それぞれにサブテーマ(サブコンテクスト)が存在する。『タイタニック』('97)では、「ローズとジャックが互いを知ること」が、第二幕前半のサブテーマである。ジャックがローズの家族から夕食に招待され、二人が結ばれるまでを指す。また、第二幕後半のサブテーマは、「ローズとジャックが固い絆で結ばれること」である。ここでは、二人が生き残れるかどうかにストーリーの焦点が移る。ローズは一度は乗り込んだ救命ボートから降りて、愛するジャックのところへ行こうとする。これら第二幕の前半と後半の行動をつなぎ、ストーリーを進展させるものが、ミッドポイントでの氷山の衝突である[39]

第二幕の前半、後半は、それぞれサブテーマとしてまとまり、それが第二幕全体のテーマ(コンテクスト)を形成している[40]。サブテーマがはっきりすれば、ストーリーに必要なアクションも明らかになってくる。区切りとなる二つのターニング・ポイントとミッドポイントを明確にした上で、第二幕の前半からサブテーマを決めなければならない[41]

サブテーマの次に、時間枠を設定しなければならない。時間枠の設定とは、映画の限られた時間の中で、どの程度の時間の流れ(1日, 1ヶ月, 1年, 10年など)を表現するのかを決めることである。ストーリーを進めるために最も効果的な時間枠を考える必要がある。まず、第二幕の前半の時間枠から考えなければならない。このように、サブテーマと時間枠を決めることで、ストーリーの進む方向が定まり、ミッドポイントやセカンド・ターニング・ポイントにつながるアクションが明確になる。アクションから先に考えてはならない。第二幕は「葛藤」であるから、ここが不明確であると、葛藤が弱まり、ストーリーが動かなくなる[42]

シド・フィールドはさらに、第二幕前半の中間、および第二幕後半の中間にあたるポイントを、それぞれ「ピンチ」(pinch, 挟むこと)と呼んでいる。これらは、第二幕の始まりから最後までのストーリーを脱線しないよう挟んで締め付け、前進させるシークエンスである。これらのシークエンスは、ストーリーを前に進めるものであれば、行動でも会話でも良い。ピンチI (45ページ)は第二幕前半を、ピンチII (75ページ)は第二幕後半を、いずれも一つにまとめている[43]

前半

シド・フィールドは、この第二幕の前半の中間(45ページ)を、ピンチI (pinch I)と呼んでいる。ピンチI は、第二幕の前半を一つにまとめ、ミッドポイントを通して第二幕の後半につなげる重要ポイントである。第二幕の前半は、ピンチI を中心にして構成する。これにより、第二幕全体の構成がより明確になる。『テルマ&ルイーズ』('91)では、逃走中のテルマとルイーズが、ピンチI でヒッチハイカーのJ.D.を車に乗せる。二人はミッドポイントで、そのJ.D.に逃走資金を持ち逃げされてしまう[44]

  • サブプロット (※スナイダーによる分類.)
サブプロット(subplot)またはBストーリー(B-story)は、「ラブ・ストーリー」であることが多い。直前のターニング・ポイントのショックから観客を休ませ、なおかつ、ストーリーを加速させ前に進める。ささやかな場面転換であるが、メインストーリーと無関係ではなく、作品のテーマも改めて示される。ここでは、新しいキャラクターが登場することが多い。第二幕は「普通」の世界である第一幕とは正反対であるため、たいてい、この新たな登場人物もそれまでとは反対に「普通」ではない。サブプロットは全体の1/4を過ぎた辺り(30/110)で始まる[45]
  • ファン・アンド・ゲームズ (※スナイダーによる分類.)
ファン・アンド・ゲームズ(fun and games, お楽しみ)は、「この作品はこういうものです」という「お約束」を果たす場面であり、「なぜこの作品を観ようと思ったのか」という観客の期待に応える部分である(30/110から55/110まで, 全体の約1/4から1/2まで)。ポスター予告編で使われ、観客はストーリーよりもこのパートを待望している。「お約束」を観る場面であるため、ストーリーの目的とはやや外れ、他の部分より調子が軽い[46]。シド・フィールドの言うピンチI (45/120)はここで起こる[47]
ミッドポイント

ミッドポイント(midpoint)は、ストーリーの中盤60ページほどで起こるイベントである[48]。ミッドポイントすなわち中間点は、映画を前半と後半に分ける[49]。主人公と敵対者の間で大きな「バトル」が起こり、非常に衝撃的で、非常にパワフルでドラマティックな転換シーンになる。ここでは突然、主人公の目的や主張を打ち砕く何かが起こり、ストーリーを正反対に方向転換させる。『タイタニック』('97)で氷山が船に衝突するシーンもこのポイントである(パニック映画ではミッドポイントで災害が発生する。)[50]。ミッドポイントからは危険度が急に上がるブレイク・スナイダー英語版によれば、主人公はここで「見せかけの」絶好調(または絶不調)になる。勝利した場合はオール・イズ・ロスト(後述)で敗北し、敗北した場合はその逆になる[51]

ミッドポイントでは、主人公に新しい道標が与えられる。主人公がこれまで目指してきた試みは失敗したのだから、新たにどこへ向かうべきかを知る必要がある[52]。ここでは、登場人物が変化し始め、主人公がこれまでとは別の生き方を選んだり、新しい行動を開始したりする[53]ピクサー作品では、主人公の精神的な成長を描くため、主人公が旅の中間部でその目的を一時的に見失ってしまい、その間だけ目的が変化するという展開が必ず挿入される[15]

後半

シド・フィールドは、この第二幕の後半の中間(75ページ)を、ピンチII (pinch II)と呼んでいる。ピンチII は、第二幕の後半を一つにまとめ、ミッドポイントを通して第二幕の前半とつながる重要ポイントである。第二幕の後半は、ピンチII を中心にして構成する。これにより、第二幕全体の構成がより明確になる。『テルマ&ルイーズ』('91)では、警察逮捕されたヒッチハイカーのJ.D.が、ピンチII でテルマとルイーズの逃亡先を明かしてしまう[54]

  • バッドガイズ・クローズ・イン (※スナイダーによる分類.)
バッドガイズ・クローズ・イン(bad guys close in, 迫り来る悪い奴ら)は、パワーアップした敵対者が逆襲してくる場面である(55/110から75/110まで, 全体の1/2から約2/3まで)。一方で、主人公の側にも内輪もめが起こる[55]。ウェンデル・ウェルマンによれば、ここでは主人公が混沌へと急降下し、また、少なくとももう一人、別の主要人物の下降も追って始まる。主人公らの陥るカオスを徹底的に描く場合も、軽く触れるだけの場合もある。主人公らが自由落下する以外にルールはとくに無く、自由に書ける部分である[56]。シド・フィールドの言うピンチII (75/120)はここで起こる[57]
  • オール・イズ・ロスト (※スナイダーによる分類.)
オール・イズ・ロスト(all is lost, 全てを失って)は、主人公が一時的に最悪の状況に陥ることであり、失意のどん底まで落とされる(75/110, 全体の約2/3)。ヒット作では、よく何かしら死に関することが示され、観客にインパクトを与える。実際に指導者が死ぬことが多いが、植木鉢の花が枯れるなど象徴的なものもある。指導者が死んだ場合には、もはや指導者を必要としないほどの力が自分にあることを、主人公が理解する。これまでの世界、キャラクターおよび考えが「死んでいく」ことで、次の世界である第三幕へと移ることが出来る[58]
  • ダークナイト・オブ・ザ・ソウル (※スナイダーによる分類.)
ダークナイト・オブ・ザ・ソウル(dark night of the soul, 心の暗闇)は、全てを失った主人公が解決策を深く考え、自分や仲間を救う方法を悟るシーンである。5秒で終わることもあれば、5分続くこともある[59]

セカンド・ターニング・ポイント

セカンド・ターニング・ポイントまたはプロットポイントII (second turning point または plot point II)は、第三幕への分かれ目である。セカンド・ターニング・ポイントは、ファースト・ターニング・ポイントと同じく、成り行きを変え、ストーリーをいっそう進行させる。これは第二幕の終わりの80ページから90ページの間あたりに起こる[10]。このシーンでは一般的に、主人公が敵対者のエリアで敵対者のしていることを目撃する。これにより敵対者の真実が明らかになり、主人公の主張や考え方が徹底的に破壊されて、主人公は苦しめられる。これまでの映画全体がこのシーンに向かって動いていくようにする[60]

登場人物はこのまま変化し続けるか、それとも後戻りするのか選択を求められる[61]。ここでメインプロットとサブプロット(Bストーリー)が出会い、それによって敵対者に勝つ方法が見つかる(ヒロインが敵の弱点を教えてくれる等)[62]。主人公は大きな変化、試練を乗り越えることで、精神的にさらに成長していく[15]。『タイタニック』('97)では、ローズがジャックを助けに行くために救命ボートから降りるシーン[63]、『マトリックス』('99)で、ネオが拘束されたモーフィアスを救出することを決断するシーン、『テルマ&ルイーズ』('91)で、テルマとルイーズが車中で最後の夜を静かに過ごすシーン等がこれに当たる[64]

映画開始から85分、すなわちセカンド・ターニング・ポイントにおいて、主人公と友人関係にある「いい奴」の死ぬことが必ずと言えるほど多い。これは既に陳腐な展開であり、登場人物の犠牲はストーリーに欠かせないと考えられる場合のみに限るべきである。誰も死なないヒット作は現に存在する。観客を感動させるためだけに登場人物の犠牲を詰め込んでいる作品は、圧倒的多数の観客から、わざとらしい、胡散臭いと感じられ、興行的に失敗することもある。登場人物を死なせる場合には、そのキャラクターと主人公の関係を十分に描き、また、それをストーリーの早い時点で描写しておかなければならない。それだけではなく、主人公がそのキャラクターの死によって、どのように考え方を変化させるのかということも決めておくべきである[65]

ファースト・ターニング・ポイント、ミッド・ポイントおよびこのセカンド・ターニング・ポイントの三つの大きな「バトル」は、一つの目に見える象徴、イメージ、態度または行動などの「共通シンボル」(controlling symbol)、すなわちメタファーによって、ストーリーがつながっていることが望ましい。例えば『ブレイブハート』('95)では、父を亡くした主人公の少年に、ある幼女が葬儀で花を手渡す。20年後、今度は成長した主人公がしおれた花を恋人に手渡して求婚する。また、冒頭では殉死した父親が「うつぶせ」に寝かされ、ミッドポイントでの野戦の大敗で主人公が「うつぶせ」に倒れ、終盤には捕らえられ「うつぶせ」に縛られて処刑を待つ。シンボルが何か具体的なモノである場合には「マクガフィン」になる(e.g. ロード・オブ・ザ・リングシリーズ指輪)。シンボルによって、ばらばらの三大シーンがつながり、ストーリーがどこへ向かって動いているのかが明確になる[66]

第三幕 (解決)

第三幕(third act)は、ストーリーとそのわき道(subplot)の解決で特徴づけられる。クライマックスは、ストーリーの緊張がそれまでより大きく高まるシーンまたはシークエンスであり、その緊張は頂点に達する。そして、第一幕で出された問いの答えが明かされる。主人公と他のキャラクターたちは自分の本当の姿を見出す[9]。精神的に成長した主人公は、振りかかる最大の試練に勝利し、全ての物事が良い方向に運ぶ[注 8]。主人公によって世界は大きく変化していく[15]。そして、主人公は、失くした何かを奪還したとき、すでに自らの弱点にも打ち克っている[67]。こうして、ストーリーに解決をもたらすのが第三幕である。ただし、解決はエンディングとは異なる。エンディングは、ラストの特別なショットかシークエンスである[10]

現在の映画における第三幕は、かつての作品と比べ、かなり短い。敵対者とのラストバトルも、主人公が生まれ変わったことを再確認するための、静かめな最終試験である。なぜならば、主人公の葛藤はこれまでに描かれているため、クライマックスで繰り返す必要は無い。また、主人公は第二幕で古い考え方を既に捨てていることから、もはや主人公の葛藤が無くなりつつあるためである。クライマックスは、仲直り、結婚式、または旅立ちが共通のテーマである[68]

  • フィナーレ (※スナイダーによる分類.)
フィナーレ(finale)は全体のまとめである。ここでは、主人公の足りないものが克服され、主人公はメインストーリーでもサブプロットでも勝利する。主人公は第二幕で学んだことで、新しい世界を切り開く力を持っている。主人公によって、第二幕までの古い世界は新しい世界に変化する。敵対者(生物とは限らない)はその過程で、下位の者からボスに至るまで、下から順に敗北しなければならない[69]

エンディング

エンディングは、ときには爽快であり、ときには悲劇的であり、または、どちらとも言えないラストもある。最も良いエンディングには、強引にまとめられた不自然さも無く、誰でも予想が付くような月並みさも無い。予想外だが、リアリティがあり、観客の納得できるものが最良のエンディングである。脚本を書き始める際には、まずエンディングを考えなければならない。エンディングオープニングの最終的に行き着く先であるということを強く意識する必要がある[70]

現在では、皮肉なヒネリで終わるエンディング流行になっている。主人公は新しい主張を手に入れ、勝利をおさめる準備が出来るが、最後にその主張がさらなる対立する主張に打ち砕かれる(『シックス・センス』('99)など)[71]

  • ファイナル・イメージ (※スナイダーによる分類.)
ファイナル・イメージ(final image)は、冒頭の「オープニング・イメージ」と一対になる場であり、これまでに起こった変化が本物であることを見せる。ファイナル・イメージが思い浮かばない場合には、第二幕での積み重ねが不足している[72]。ここではオープニング・イメージとは正反対のイメージが描かれ、ストーリーは終わる[73]

形式

ハリウッドの著名なスクリプト・コンサルタント、リンダ・シーガー英語版は、ストーリーの時間の流れによって、三幕構成を以下の形式に分類している[74]

  • 「直線型構成」 - 時間の流れ通り、始まり→中盤→結末と前進する。古代から現代に至るまで大半の脚本家が用いている。
  • 「反復型構成」 - 同じ状況を何度も繰り返す。ただし、繰り返しの間にもストーリーは進んでいる。『恋はデジャ・ブ』('93)など。
  • 「平行型構成」 - 複数のメインストーリーが無関係に進行し、ある時点で絡み合う。『マグノリア』('99)、『アメリ』('01)など。
  • 「らせん型構成」 - 同じ過去の出来事がフラッシュバックを繰り返しながら展開し、第三幕で克服される。『普通の人々』('80)など。
  • 「謎解き型構成」 - 第一幕で〈事件の発生〉、第二幕で〈事件の調査〉、第三幕で〈事件の解決〉に至る。『ユージュアル・サスペクツ』('95)など。
  • 「逆流型構成」 - 結末→中盤→始まりへとフラッシュバックを重ねて時間をさかのぼる。『メメント』('00)など。
  • 「循環型構成」 - 始まり→中盤→始まりと、永遠に同じことが繰り返される。現実では起こり得ない。『ビフォア・ザ・レイン』('96)など。
  • 「ループ型構成」 - 出来事の順序をシャッフルする。始まり→結末→中盤、結末→始まり→中盤→結末など。『パルプ・フィクション』('94)が典型。

別解釈

ハリウッド脚本家俳優ウェンデル・ウェルマン英語版は、ディズニーのストーリー・アナリスト(当時)、ピーター・フラッドとディスカッションを重ね、以下のシンプルなステップを提案している[75]

  • 第一幕 - 主人公の主張 (最終目的)
  • 第二幕 - 主人公に反発するあらゆる主張の数々
  • 第三幕 - 書き手の主張

フランス脚本家であり映画監督Yves Lavandierは、その論文"La dramaturgie"(Writing Drama)で、やや異なるアプローチを提示している。彼はこう主張する。すなわち、人間のあらゆる行動は、架空か現実かを問わず、3つの論理的な部分を含む。行動する前(before the action)、行動する間(during the action)、行動した後(after the action)がそれである。クライマックスは行動の一部であるから、第二幕に含まれていなければならないとLavandierは考察する[76]。これはほとんどの脚本理論英語版の第三幕より遥かに短い。短い第三幕(急速な解決)はまた、日本の伝統的な演劇理論英語版の基礎である「序破急」にも見られる。

スウェーデンの映画研究者Ola Olssonによれば、映画には次の六幕がある。すなわち、「起点」「紹介」「進展」「加速(葛藤の深化)」「解決」「退場」である。 Olssonのモデルは三幕構成に応用できる[77]

脚注

  1. ^ シド・フィールドは「対立」ではなく「葛藤」と表現している。
  2. ^ シド・フィールドは「プロットポイント」という表現を用いている。
  3. ^ ウェンデル・ウェルマンは、主人公と敵対者の衝突のシーンを、「対峙」、「戦い」、「難題」、または「試練」等といった言葉でも表している(後掲書 p. 22.)。
  4. ^ シド・フィールドのテキストでは、これに替わって、「何についてのストーリーなのか」になっている。
  5. ^ 時間や枚数が異なるだけで、テレビドラマやテレビアニメ、コミックなどの場合でも基本的に同じと思われる。
  6. ^ ブレイク・スナイダー英語版は、主人公に足りないものを「直すべき6つのこと」と呼び、それを「見せる」ことを重視している(6つでなくとも良い)。
  7. ^ 講演者マシュー・ルーン(Matthew Luhn)は、ピクサー・アニメーション・スタジオのストーリー・アーティスト(講演当時)。
  8. ^ ここではハッピーエンド(happy ending)を想定していると思われる。

出典

  1. ^ ここまで. #ウェルマン pp. 122 ff.
  2. ^ #シド・フィールド pp. 17-22.
  3. ^ 「訳者あとがき」 #シド・フィールド pp. 346 f.
  4. ^ ここまで. #シド・フィールド pp. 18, 20-23, 233-235.
  5. ^ ここまで. #ウェルマン pp. 123, 125, 127, 131.
  6. ^ ここまで. #ウェルマン pp. 62-67, 70-71.
  7. ^ ここまで. #ウェルマン pp. 210-213.
  8. ^ #ウェルマン pp. 74-77, 81.
  9. ^ a b c d e f ここまで. #Trottier pp. 5–7.
  10. ^ a b c d e f ここまで. #シド・フィールド pp. 19-25.
  11. ^ #スナイダー p. 117.
  12. ^ #ウェルマン p. 158.
  13. ^ #ウェルマン p. 160.
  14. ^ #スナイダー pp. 117 f.
  15. ^ a b c d e f g ここまで. #「The 5 Key Plot Points to Creating a Great Story」
  16. ^ ここまで. #シド・フィールド p. 125.
  17. ^ ここまで. #シーガー pp. 72 f.
  18. ^ ここまで. #スナイダー pp. 114 f.
  19. ^ ここまで. #シーガー pp. 69 f.
  20. ^ #ウェルマン pp. 157 f.
  21. ^ ここまで. #スナイダー pp. 116 f.
  22. ^ ここまで. #シド・フィールド pp. 149-151, 154-155, 160.
  23. ^ #シーガー p. 74.
  24. ^ #ウェルマン p. 125.
  25. ^ ここまで. #シド・フィールド pp. 149-151, 154-155, 160.
  26. ^ #シド・フィールド pp. 150 f.
  27. ^ #シーガー p. 74.
  28. ^ ここまで. #シド・フィールドII p. 175.
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  67. ^ 「脚本の書き方講座」 『トイ・ストーリー3 スーパー・セット』 [Blu-ray] ウォルト・ディズニー・ジャパン 2010年
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関連項目

参考文献

  • ウェンデル・ウェルマン英語版『映画ライターズ・ロードマップ-“プロット構築”最前線の歩き方』フィルムアート社、2005年。ISBN 4845905728 
  • 「The 5 Key Plot Points to Creating a Great Story」. マシュー・ルーン講演. Game Developers Conference. 小野憲史 (2013年3月31日). “ディズニー&ピクサーのヒットタイトルに見られるストーリーの黄金律とは? 現役クリエイターがあかす方程式”. アニメ!アニメ!. 2014年1月13日閲覧。
  • リンダ・シーガー英語版『アカデミー賞を獲る脚本術』フィルムアート社、2005年。ISBN 4845905736 
  • ブレイク・スナイダー英語版『SAVE THE CATの法則-本当に売れる脚本術』フィルムアート社、2010年。ISBN 484591056X 
  • シド・フィールド『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと-シド・フィールドの脚本術』フィルムアート社、2009年。ISBN 4845909278 
  • シド・フィールド『素晴らしい映画を書くためにあなたに必要なワークブック-シド・フィールドの脚本術2』フィルムアート社、2012年。ISBN 4845911779 
  • Trottier, David (1998). The Screenwriter's Bible. Silman James