人喰い猫
概要
『村上春樹全作品 1979~1989』第8巻(1991年7月、講談社)に収められた書き下ろし作品である。
英訳版『Man-Eating Cats』は『The New Yorker』2000年12月4日号に掲載された。翻訳はフィリップ・ガブリエル。 その後、同英訳版は2006年7月に出版された村上の短編小説集『Blind Willow, Sleeping Woman』(クノップフ社)に収録された。2009年11月、同書の日本語版『めくらやなぎと眠る女』(新潮社)が刊行され、本作の入手は比較的容易となった。
あらすじ
晴れた日には対岸にトルコ本土の青い山が見えるギリシャの小さな島で、「僕」とイズミはキッチンつきの貸間を借りて暮していた。「僕」はときどき自分がこんな場所に属しているという事実がよく飲み込めなかった。2ヶ月前まで、「僕」は妻と4歳になる息子と三人で大田区の鵜ノ木にあるマンションで静かに暮らしていたのだ。
「僕」は中堅のデザイン事務所に勤めていて、自分の職場をまずまず気に入っていた。ところが仕事の打合わせの席で知り合ったイズミと逢瀬を重ねるようになり、それぞれの家庭は崩壊する。イズミの「日本にいても仕方ないからギリシャに行こう」という発案により二人は日本を出た。
ある日港で新聞を買ったら、三匹の猫に食べられてしまった老婦人の話が載っていた。「僕」は記事をイズミに読んで聞かせた。イズミは、その記事は中学校のときに聞かされたカソリックの講話を思い出させると言う。偉いシスターが新入生全員を集めてこんな話をするのだ。
猫と一緒に無人島に流れついたとき、みなさんのボートには人間ひとりがなんとか十日生きていけるくらいの水と乾パンがあるだけです。みなさんは乏しい食べ物を猫にも分けてやりますか? いいえ、それはいけません。それは間違ったことなのです。何故なら、みなさんは神に選ばれた尊い存在であり、猫はそうではないからです。
「あなた子供のことを考える?」とイズミは尋ねた。
「ときどきね」と「僕」は正直に答えた。