メイド
メイド(maid, maid-servant)は、清掃、洗濯、炊事などの家事労働を行う、女性使用人(女中、家政婦、ハウスキーパー、家庭内労働者)を指す。
個人宅における使用人のみならず、ホテルの客室担当従業員(ルームキーパー)なども含まれるが、狭義では(特にサブカルチャー/オタク的文脈において)個人宅で主に住み込みで働く女性使用人(いわゆる「メイドさん」)を指す。
概要
古代においては、家庭内労働は「奴隷」の仕事であった。
中世においては、「使用人」である。
近代以降、主な雇用者である中産階級の成長とともに増加し、19世紀後半から20世紀初頭のイギリスにおいて全盛期を迎える。しかし、第一次世界大戦を契機として「女性労働力の再評価」が始まると、女性の社会進出とともに急激に減少した。
現在の先進国では、住み込み・フルタイム労働のメイドは、ごく一部でしか見られなくなっている。
世界
英国ハノーバー朝ヴィクトリア女王時代(19世紀後半)において、使用人を雇うことはステータスシンボルの一つであった。
女性使用人の賃金水準が、一般的な男性使用人の半額~1/20と低かったこと、さらには1777年に施行された使用人税が、納税者の雇用している男性使用人の数に応じて課税されるものであったことから、かつては侍女や子守り、家庭教師等に限られていた女性使用人の雇用は、加速度的に進むこととなった。
日本
日本では農村出身の少女を、商家や都市部の富裕な家が住み込みで雇うことが、高度成長期以前までは見られた。狭義の「メイド」の消滅に伴い、「メイド」という言葉は、実際の職業に対する呼称としてはあまり使われなくなった。新聞等では「メード」と表記されることもある。
フルタイムではない、家政婦やハウスキーパー等の雇用に際しては、派遣業者と契約を結ぶ例が一般的である。メイドと直接雇用契約を結んだり、住み込みで雇うことは稀である。
日本のサブカルチャーにおけるメイド
メイドは、しばしば萌えの対象として語られる。この場合、メイドとして通常想定されるのは、妙齢の女性または少女であり、その服装は多くの場合典型的なエプロンドレス、いわゆるメイド服である。
漫画やアニメ、ゲームソフト(とりわけアダルトゲーム(エロゲー))、コスプレの題材として取り上げられることも多い。また、作品内において、「血縁関係のない女性」を側に置く手法としても用いられている。雇い主を呼ぶときは、大抵「御主人様」か「(あなたの名前)様」である。
また、メイド服やそれに近い服装をウェイトレスの制服として採用する飲食店は従来より存在していたが、近年はメイド萌えの客層向けに特化した、いわゆる「メイド喫茶」が各地にオープンしている。(参考:コスプレ喫茶)
メイド萌えブームの源流とその背景
メイド・エプロンドレス姿の使用人や、女中・女給等にフェティシズム的な興味・傾倒を抱く文脈は、サブカルチャーの文脈のみにとどまらず、それこそ戦前からメインカルチャーの文脈でも存在していた。
例えば、古くは純文学者の太宰治がカフェの女給に惹かれ、また大日本帝国時代のエリートであった帝国海軍が、士官クラブの女給にメイドのコスチュームを採用した例などがあげられる。
このように、いわゆるマンガ・アニメおたくの世界に限定した話ではなく、より一般的なコスチュームフェチの一環として、他の典型的なコスチューム(たとえばセーラー服やチャイナドレス、袴や巫女装束等)の間に埋没していた時期が長い。
このような流れを受けた結果、戦後の漫画やアニメ等においても、メイドやメイド姿は単なる端役としては古くから散見され、漫画「はいからさんが通る」(作者:大和和紀)など、大正年間を舞台としながらも、メイドを含む各種コスチュームが多く見られる好例である。
また、現在のメイドブーム成立以前の至近な例としては、漫画「フェザータッチオペレーション」(作者:柴田昌弘)の後書きにおいて、「電子頭脳生肉少女のコスチュームをメイドルックにしようとしたが、あまりにわざとすぎるのでやめた」等という趣旨が語られており、メイドブーム成立直前のオタク層におけるメイドの捉え方を理解する意味では、貴重な証言といえる。
「メイド萌え」の成立
そのような背景の中から、メイドを好奇心の主題に据えた作品として、1996年にPC-98x1用のアダルトゲームとして発売された『殻の中の小鳥』およびその続編『雛鳥の囀』(メーカー:BLACK PACKAGE、のちSTUDiO B-ROOM )が登場したことにより、のちにメイド萌えと呼ばれることになる嗜好への流れが生み出された。
メイド萌えを確定づけたのが1997年5月23日にLeafから発売された『To Heart』と、1997年10月31日にカクテル・ソフト(F&C)から発売された『Pia♥キャロットへようこそ!!2』(F&C)の2つのアダルトゲームである。前者はいわゆる「メイド服」を着たキャラこそ存在しないものの、「メイドロボ」と呼ばれるアンドロイドが登場し、その試作機という設定のキャラ「マルチ」のドジで失敗だらけながらも純粋に主人(人間)に尽くす様がゲーマー達の心を捉え、彼らにメイドという存在を改めて知らしめるきっかけになった。後者はファミリーレストランを舞台にしたゲームで、ウェイトレスの制服の中に「メイドタイプ」と呼ばれる制服が存在する。(後の「コスプレ喫茶」「メイド喫茶」の元祖がこのゲームをモチーフにした出店である)。この2作の大ヒットにより、アダルトゲームではしばしば金持ちキャラの金持ちである事を示す記号としてメイドが登場する。
メイド萌え以外のメイドを扱ったアダルトゲームとしては、1998年12月18日に発売された『MAID iN HEAVEN』(メーカー:ストーンヘッズ/PIL)があり、挿入歌であるコミックソング(電波ソングという説もある)、「メイドさんパラパラ」「メイドさんロックンロール」(歌:南ピル子)等の歌詞によって、強調・確定された。
このように、オタク的・サブカル的分野におけるメイドブームとは、その発端においては「主人に仕える」という部分の拡大解釈と、「衣装の可愛らしさ」を強調するかの、極端にデフォルメされた、確信犯的にギャグ要素・ネタ的要素の強いものであった。
しかしこの流れが一般化してゆく過程において、成人向けゲームにその端を発したものである事が存外に強く作用し、メイド萌えというジャンルには、その当初より安易なセックスアピールが暗黙の了解的に付随するものとして、誤った知識や属性をセットとして、メジャー化させてしまう結果をもたらしてしまった点は否定できない(特に凌辱ものではメイドが「中世ヨーロッパの性的奴隷」または「金持ちの私的風俗嬢」であるかの様に間違った形で描かれる。前出の『殻の中の小鳥』や『MAID iN HEAVEN』もそういった、やや歪んだ視点で描かれている)。
さらに、1990年代後半から急速に進んだ、東京・秋葉原、名古屋・大須、大阪・日本橋におけるアニメ関連商品や同人誌などを専門に扱う店舗(即ち、“オタク”を主たる客層とする店舗)の急速な増加といった動きを、誤った形でリード・後押ししてしまった可能性も、否定し切れない。
漫画作品
メイドを主なテーマとする比較的最近の漫画作品には、以下の様な作品がある。