弁理士 (日本)

弁理士法で規定された知的財産権に関する業務を行うための国家資格者

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日本における弁理士(べんりし)とは、弁理士法で規定された知的財産権に関する業務を行うための国家資格者をいう。

弁理士
実施国 日本の旗 日本・ほか
資格種類 国家資格
分野 司法・法務(知的財産権)、工業・その他
試験形式 筆記、口答
認定団体 特許庁
根拠法令 弁理士法
公式サイト 特許庁(弁理士試験)
特記事項 根拠法令等は日本の場合
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概要

弁理士は、優れた技術的思想の創作(発明)、斬新なデザイン(意匠)、商品やサービスのマーク(商標)に化体された業務上の信用等を特許権、意匠権、商標権等の形で権利化をするための特許庁への出願手続代理や、それらの権利を取消又は無効とするための審判請求手続・異議申立て手続の代理業務を行うものである。また、弁理士は、近年の知的財産権に関するニーズの多様化に伴い、ライセンス契約の交渉、仲裁手続の代理、外国出願関連業務等を含む知的財産分野全般に渡るサービスを提供するなどの幅広い活躍が期待されている[1]

弁理士の歴史

弁理士制度は、1899年に施行された「特許代理業者登録規則」から始まり、国家資格としても弁護士についで歴史のある資格である。1909年には、特許局への手続などは「特許弁理士」でなければ行えない旨が規定されていた。その後、1921年に弁理士法が公布され、「特許弁理士」から現在の「弁理士」という呼び方となった。[2]

弁理士の就業形態

日本弁理士会の弁理士ナビ[3]によると、弁理士登録者10,660人(平成27年2月現在)中、特許事務所勤務は2,986人、特許事務所経営は2,553人、企業は2,287人,特許業務法人勤務は1,358人、特許業務法人経営は508人等となっている。

弁理士の業務の概要

弁理士の主な業務は、以下の通りである[4]

・特許・意匠・商標などの出願に関する特許庁への手続についての代理

知的財産権に関する仲裁事件の手続についての代理

・特許や著作物に関する権利、技術上の秘密の売買契約、ライセンスなどの契約交渉や契約締結の代理

・特許法等に規定する訴訟に関する訴訟代理

弁理士は、主に特許事務所、特許法律事務所、法律事務所又は企業で業務を行っている。

特許事務所

特許事務所は 弁理士が業として特許、実用新案、意匠、商標など特許庁における手続あるいは経済産業大臣に対する手続を行うための業務を処理するために開設する事務所である。

特許事務所の規模は、大きく分けて、1人の弁理士と数人の所員で構成される個人事務所、数人の弁理士と数人~十数人の所員で構成される中堅事務所、数十人の弁理士と数十人~100人以上の所員を抱える大手事務所に大別されるが、同じような職制を取っている。
所長弁理士
特許事務所のトップ。個人事務所ではその弁理士、中堅・大手事務所では事務所を創設した弁理士等となる。内部的には複数の弁理士が対等の立場で経営に当たる共同経営事務所でも、対外的には所長は1人である。また、共同経営者が持ち回りで所長となる場合もある。企業の「代表取締役社長」に相当する。
パートナー
特許事務所の共同経営者。中堅・大手事務所において複数名の弁理士が経営に当たる場合に置かれることがある。特許事務所によって異なるが、出願明細書の代理人欄に名前が記載される弁理士は、代表パートナーとしての所長と他のパートナー弁理士であり、出願明細書作成などの実務作業にはあたらない場合が多い。企業の「代表取締役(社長、会長、副社長等)」に相当する。
担当弁理士(勤務弁理士)
所長弁理士あるいはパートナー弁理士の指揮監督下において、出願明細書作成などの実務作業にあたる。弁理士資格の無い所員を束ねて仕事にあたる管理職的な役割を持たせている特許事務所もある。このクラスの弁理士は、出願明細書の代理人欄に名前を記載しないところが多いが、逆に責任感を持たせるために所長弁理士とパートナーに加えて名前を入れるところもある。
所員
弁理士資格を持たない事務員で、実務担当者と事務担当者に大別される。大手・中堅の事務所では、さらに、調査担当者、翻訳者図面トレーサー、情報システム管理者などが置かれる場合も多い。実務担当者には、特許出願用の明細書の作成補助にあたる補助者や、意匠・商標の出願業務の補助者がいる。実務担当者の中には、将来の弁理士を目指して特許事務所に入り、実務を習得しながら試験対策指導を受ける者もいる。一方、事務担当者は、国内外の出願業務に関する特許庁手続き、顧客や外国代理人とのコレスポンデンス(Correspondence)、各種の期限管理、経理、人事、総務、秘書などの業務を担当する。

特許事務所の待遇

ほとんどの事務所は実績主義あるいは出来高主義により、弁理士や実務担当者の給与(年俸)を決めている。能力・経歴によっては弁理士資格の有無に関わらず数年で1000万円以上を稼ぐ者も少なくない。但し、他の士業と同様、大手特許事務所では所長弁理士とパートナーの待遇は比較的良いが、担当弁理士の待遇は必ずしも良いとは限らず独立開業を目指す者も少なくない。事務所内の職制に応じて歩合の比率を上げていくところもある(実務担当者は25%、勤務弁理士は35%、管理職は40%など)。なお、パートナーは、担当部門の実績に応じて報酬が決められることが多い。一方、日常的に手続依頼をしている大手企業では、事務所単位のみならず、所長、パートナー、勤務弁理士あるいは所員の区別なく、外注業者として「実績評価」を行っている企業も少なくなく、実績があり信頼を置く弁理士が独立あるいは他の事務所に移った場合にはその事務所への委任案件を引き上げる企業もある。そのため、有能な弁理士をどれだけ確保できるかが経営上の重要課題のひとつでもある。

企業内弁理士

インハウスローヤーのように、企業内知財部等で活躍する弁理士のことである。企業・部署・ポジションにより業務内容が大幅に異なる。例えば、有資格者として、法改正時の法制度普及促進を担ったり、審決取消訴訟時の社内代理人、付記をしていれば侵害訴訟時に代理人として手続きを行う場合がある。また、近年の民事訴訟法改正や、米国での判例に基づき、守秘特権(すなわち社内弁理士が法的にアドバイスした書類等の裁判所への証拠提出の免除)の活用の可能性について模索している会社もあるようである。また、企業においてその企業の出願等の知財業務を行う場合は弁理士資格は必要ではないので、弁理士の資格を持っていても、無資格の知財部員と業務内容は殆ど同じ会社もある。

知財部員数に比して出願件数・その他の仕事が膨大なケースが多く、自社内で明細書等出願書類を全て内製できる企業は殆どない。よって、社内弁理士による社内出願に加えて、特許事務所を外注として活用することが多い。近年は弁護士の場合と同様に社内弁理士は増加傾向にある。一部の会社では、弁理士数の増加の時期と同じくして、自社の知財部員が試験に合格しても弁理士登録料や弁理士会費など各種手数料を負担しない会社もある。

企業内弁理士の主業務

なお、以下には弁理士資格を持たない知財部員と同等の業務が含まれる。

  • 自社内の有望な技術を発掘し、権利化する(主業務)。
    • 一部の大企業を除き出願書類の作成は外部の特許事務所に依頼しており、その内容チェックも主業務である。
    • 開発部門が積極的に特許出願を希望する場合や、知財部員が積極的に開発部門に赴いて技術を発掘する場合など社風によっても様々である。
  • 自社出願の中間処理方針を指示する。
    • 自社製品に搭載されている技術などを勘案しながら、事務所に権利化方針を伝える。
  • 自社製品が他社特許等を利用していないか調査し、必要な場合は外部事務所に第三者的な意見~鑑定を依頼する(クリアランス)。
  • 重要案件について審判を行う(大企業では、企業内弁理士自らが代理人となる場合も少なくない)。
  • 他社とライセンス交渉を行う(大企業では、ライセンス専門の部署を置いている場合も少なくない)。
  • 特許・実用新案、意匠、商標権に関する訴訟をサポートする。

企業内弁理士の待遇

基本的には資格を持たない知財部門社員に準じている場合が多いが、その企業の知財への取り組み方針の違いによって企業間ではかなり差がある。また、知財部門社員との間で待遇格差がなかったとしても、弁理士は知財業界において権威ある国家資格(名称及び専権業務独占資格)として広く認識されているため、弁理士資格取得を機により待遇の良い企業、特許事務所等に転職する機会が得られるといった間接的な形での「資格取得による収入面での」メリットもあげられる。

  • 中小企業によっては資格手当が支給される場合がある。
  • 大企業では、給与面での優遇は乏しいものの昇進面で加味する企業は多い。その理由として、単純に弁理士資格により法律面の知識・能力が客観的に担保できていると判断される点のみならず、海外や業界団体への出席が認められたり、社外弁理士との横のつながりの点において社外・世界的な知財情勢についての幅広い知識と人脈が得られ、幅広い視点をもって仕事ができる点等が評価されるためである。また、第二の理由としては、昇進において仕事上での資格の利用価値に重みをおいているか、あるいは資格を取得したことの努力・能力を評価する場合があるためである(昇進面で学歴等を加味することと類似している)。但し、弁理士会の会費が高いこと(会費月1.5万円)・近年合格者が増えていることから、試験に合格したからといって、職場から全員分の弁理士会費が支払われないケースも近年見受けられる。例えば、キヤノンでは弁理士試験の合格者が35、36人ほどいるが、弁理士登録をしているものは半分程度である[5]

非弁行為

弁理士又は特許業務法人でない者が、他人の求めに応じ報酬を得て、特許庁における手続の代理行為等を業とすること(いわゆる「非弁行為」)は弁理士法第75条により禁止されており、非弁行為を行った者は、同法第79条第3号により一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処される。

専権業務(弁理士法4条1項)

弁理士は、他人の求めに応じ報酬を得て、特許、実用新案、意匠若しくは商標若しくは国際出願若しくは国際登録出願に関する特許庁における手続若しくは特許、実用新案、意匠若しくは商標に関する異議申立て若しくは裁定に関する経済産業大臣に対する手続についての代理又はこれらの手続に係る事項に関する鑑定若しくは政令で定める書類若しくは電磁的記録の作成を業とすることができる。

上記業務は弁理士以外の者は業として行うことはできない(弁理士法75条)。違反した場合には刑事罰の対象となる(弁理士法79条)。そのため、上記業務は弁理士の専権業務とよばれている。

周辺業務(弁理士法4条2項~6条の2)

  • 侵害品輸入時における、輸入差止手続き時の代理業務(4条2項1号)。
  • 特許実用新案意匠商標回路配置又は特定不正競争に関する仲裁事件の手続についての代理(4条2項2号)。
  • 特許、実用新案、意匠、商標、回路配置若しくは著作物に関する権利若しくは技術上の秘密の売買契約、通常実施権の許諾に関する契約その他の契約の締結の代理若しくは媒介を行い、又はこれらに関する相談に応ずることを業とすることができる(4条3項)。
  • 特許、実用新案、意匠若しくは商標、国際出願若しくは国際登録出願、回路配置又は特定不正競争に関する訴訟について、補佐人として陳述又は尋問をすることができる(5条)。
  • 特許、実用新案、意匠若しくは商標に係る審決又は決定の取消に関する訴訟について、訴訟代理人となることができる (6条)。
  • 特許、実用新案、意匠、商標、回路配置に関する権利の侵害又は特定不正競争による営業上の利益の侵害に関する訴訟について、訴訟代理人となることができる(6条の2・但し、一定の研修修了と認定試験(特定侵害訴訟代理業務試験)の合格、そして弁護士との共同受任が条件)。

上記業務は、弁護士法72条の例外として弁理士が行うことのできる業務であり、弁護士又は弁理士以外の者は業として行うことはできない(弁護士法72条)。 違反した場合は刑事罰の対象となる(弁護士法77条)。そのため、上記業務は、弁理士の周辺業務とよばれている[要出典]

なお、弁理士の扱う知的財産関連業務への一貫した関与を求めるユーザーの声や、司法制度改革や規制緩和による弁護士独占業務の隣接職種への開放の流れを受けて弁理士の業務範囲は年々拡大しており、関税法、著作権法(契約締結代理・関税法関連業務)、種苗法(関税法関連業務)、不正競争防止法に関する事務等も弁理士の業務に含まれるようになっている。また、平成12年の弁理士法改正(平成13年1月6日施行)によって、知的財産権に関する契約締結交渉の代理業務は契約書の作成代理を含め(行政書士法1条の3の解釈から)弁理士にも可能となり、同時に特許料・登録料の納付手続、住所・氏名等の変更手続など、権利確定後の手続きについては行政書士との共管業務となった。

特定侵害訴訟代理業務

弁理士は、日本弁理士会において特定侵害訴訟代理業務試験に合格した旨の付記を受けることにより、特定侵害訴訟の代理人になることができる。付記を受けている弁理士は3,034人である(平成27年2月現在)[6]

特定侵害訴訟代理業務試験は、特定侵害訴訟に関する訴訟代理人となるのに必要な学識及び実務能力に関する研修を修了した弁理士を対象に、当該学識及び実務能力を有するかどうかを判定するために実施するものである。本試験に合格後、日本弁理士会において本試験に合格した旨の付記を受けた弁理士は、弁護士が同一の依頼者から受任している事件に限り、その事件の訴訟代理人となることができる(弁護士との共同受任であるほか、弁理士の出廷についても、共同受任している弁護士との共同出廷が原則)。

ここで、特定侵害訴訟とは、特許、実用新案、意匠、商標若しくは回路配置に関する権利の侵害又は特定不正競争による営業上の利益の侵害に係る訴訟をいう。研修は、民法、民事訴訟法の基本的知識を修得した弁理士を対象に、特定侵害訴訟に関する実務的な内容を中心とした合計45時間の講義及び演習により日本弁理士会が行っている[7]

その他

弁理士は行政書士となる資格を有している(行政書士法2条3号)。

国際業務

日本では1899年不平等条約改正とともに工業所有権の保護に関するパリ条約に加盟し、同年、日本初の特許申請代理人が誕生した[8]。知的財産の保護を各国独自で行うことの問題点〜知的財産権は世界的に権利化する必要性があることについては100年以上前から認識されており、弁理士資格は日本において知的財産業務を業とする唯一の国家資格として誕生時点においてすでに国際的な業務を担うことを期待されていた。現在での日本から外国への特許出願件数は、2004年ベースで125,000件前後[9]となっており、全出願件数の約1/4は海外へ出願されていることになる。日本企業の一層の国際展開とともに、日本法のみではなく米国法、ヨーロッパ法に関しての最低限の知識、あわせて英語能力をより要求されつつある。

現状、日本の出願人が外国の有資格者を介して外国特許庁へ出願する際の当該出願に係る書類の翻訳文及びドラフトの作成業務や外国有資格者への媒介(以下「外国出願関連業務」という)については、誰でも行うことが可能な業務である。この点に関して、外国出願関連業務を弁理士としての義務と責任をもって遂行する、いわゆる標榜業務とすることが、改正弁理士法に盛り込まれている。

弁理士業務の課題

特許権者の訴訟費用低減の観点から単独侵害訴訟代理の解除などへの議論[10]が続けられているが、現在のところ、法曹界の慎重意見により弁理士単独の訴訟代理は認められるには至っていない[11]

弁理士は特許出願代理を主に行っているものの、ライセンス交渉、技術経営的な知識を持っている者は乏しく、経営的なセンスを有している弁理士の育成が急務の課題と考えられている。そのためこれからは、知財戦略などのコンサルティング事業といった付加価値の高いサービスを知財部を持つ事が出来ないベンチャー、中小企業などに提供していくことが弁理士には期待されている。

弁理士資格

弁理士となる資格を有するのは、

  1. 弁理士試験に合格した者
  2. 弁護士となる資格を有する者
  3. 特許庁の審査官または審判官として通算7年以上審査または審判の事務に従事した者

である。(弁理士法7条各号)

ただし、弁護士となる資格を有する者が弁理士となるには、日本弁理士会に弁理士登録する必要がある(弁理士法17条)。

弁理士試験

試験内容

弁理士試験は、弁理士になろうとする方が弁理士として必要な学識及びその応用能力を有するかどうかを判定することを目的とした試験である。弁理士試験に合格し、実務修習を修了された方は、「弁理士となる資格」が得られる。

弁理士試験は、筆記試験と口述試験により行い、筆記試験に合格した方でなければ口述試験を受験することはできない。また、筆記試験は短答式と論文式により行い、短答式に合格した方でなければ論文式を受験することはできない。

短答式筆記試験

短答式(択一式)で行われ、特許法実用新案法意匠法商標法工業所有権に関する条約パリ条約特許協力条約など)、著作権法不正競争防止法が出題される。毎年5月に仙台市、東京都、名古屋市、大阪市、福岡市で行われている。

合格基準:得点が一定比率(おおむね65%)以上の人のうち、論文式筆記試験を適正に行う視点から許容できる最大限度の受験者数を設定する。

論文式筆記試験

短答式筆記試験に合格した者のみが受験する。前年またはその前の年の短答式筆記試験に合格し論文式筆記試験に不合格となった者も受験できる。論文式で行われ、工業所有権に関する法令(特許法、実用新案法、意匠法、商標法)と、以下の選択科目が出題される。選択科目は、受験者が受験申請時に選択した次の科目群の中から当日1科目を選択する。

  • 理工I(工学) - 基礎材料力学、流体力学、熱力学、制御工学、基礎構造力学、建築工学、土質工学、環境工学
  • 理工II(数学・物理) - 基礎物理学、計測工学、光学、電子デバイス工学、電磁気学、回路理論、エネルギー工学
  • 理工III(化学) - 化学、有機化学、無機化学、材料工学、薬学、環境化学
  • 理IV(生物) - 生物学一般、生物化学、生命工学、資源生物学
  • 理工V(情報) - 情報理論、情報工学、通信工学、計算機工学
  • 法律(弁理士の業務に関する法律) - 民法、民事訴訟法、著作権法、不正競争防止法及び私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律、行政法、国際私法

理系あるいは法学の修士号を有する者や一定の資格(技術士一級建築士情報処理技術者試験のうち一部の試験区分の合格者、薬剤師司法書士登録者、行政書士登録者など)を有する者は選択科目が免除される。工業所有権に関する法令の試験と選択科目の試験は別の日に行われるようになった。毎年7月頃に東京都と大阪府で行われている。

合格基準:必須科目については、得点の合計が、満点に対して54%の得点を基準として工業所有権審議会が相当と認めた得点以上であること。ただし、47%未満の得点の科目が1つもないこと。この得点は、偏差値方式に準じて算出される。選択科目については、素点が満点の60%以上であること[12]

口述試験

論文式筆記試験に合格した者が受験する。前年またはその前の年の論文式筆記試験に合格し口述試験に不合格となった者も受験できる(ただし、短答式筆記試験の免除が受けられない場合を除く)。口述式で行われ、工業所有権に関する法令が出題される。口述試験の不合格者は平成16年度以前は約十数人と少なかったが、以降増加し、ここ2年200人超が不合格となる試験となっている。毎年10月に東京都で行われている。

合格基準:採点基準をA、B、Cのゾーン方式とし、合格基準はC評価の科目が2科目以上ないこととする。

難易度

平成26年度弁理士試験では、受験者数5,599人に対し最終合格者数は385人であり、合格率は6.9%となった。平成24年度及び平成25年度の合格率は10%を上回っていたので、合格率の点でかなり難化したといえる。合格者数は平成13年度以来の400人割れとなった。

合格者数が減少した理由として、知財立国を目指す国の政策として弁理士1万人確保するとの目標の達成(平成26年12月時点で10,680人[13])、合格者の未登録率の増加、弁理士一人当たりの出願業務取り扱い件数の減少、そして「弁理士試験の適正合格者数は220名程度が上限である」との日本弁理士会による「知的財産推進計画2013」及び「知的財産政策ビジョン」の策定に向けての提言等が影響していると考えられる。

合格者の平均年齢は概ね、30歳~39歳の間で推移している。平成26年度の合格者の女性比率は23.1%であり、前年度より3.5ポイント上昇し、過去最高となった。

受験者層は、理工系出身者が全体の80%を占め、さらに最終学歴が修士号又は博士号である者は40%前後を占める点から、受験者のうち理工系の高等教育を受けた者の割合が著しく高い点が特徴である。従って、理工系の研究職を経た者の中から、様々な事情で転職を考える際に「発明の権利化業務」として弁理士を志す者が少なくない。また、最近では短期合格者が増えたが、元々は「仕事しながら受験勉強する」者が多い点でも珍しい資格だった。

なお、最近の弁理士試験の特徴として、口述試験の難化が挙げられる。以前の口述試験の合格率は95%以上であり、不合格者がほとんど出ない試験であったが、平成21年度以降の急激な受験者数の増加に合わせて合格率が低下し70%台に難化した。特に、平成24年度では口述試験不合格者は300人を超え、合格率は70%を大きく割り込んだ(平成25年度は81.7%で前年より容易化したが、平成26年度は74.6%で再び難化した)。口述試験については試験官によって合否が大きく左右される等、その公平性について疑問視する意見もある。

弁理士試験改正

弁理士法施行規則の一部を改正する省令が平成26年12月26日に公布され、平成28年1月1日に施行される。この法改正により、平成28年度弁理士試験から短答式筆記試験への科目別合格基準の導入及び、論文式筆記試験(選択科目)における選択問題の集約が行われる。試験制度改正の概要は以下の通りである[14]

1. 短答式筆記試験における改正点

 これまでの工業所有権に関する法令の科目を、特許・実用新案に関する法令、意匠に関する法令及び商標に関する法令の3つに分けて実施される。現行では、総合点のみで合否の判定を行っていたが、試験科目別に合格基準(40%程度を想定)を導入する。

2. 論文式筆記試験(選択科目)における改正点

 論文式筆記試験(選択科目)の選択問題を各科目の基礎的な分野に集約する。

試験制度の課題

若い人材の参入

平成26年に公表された産業構造審議会知的財産分科会弁理士制度小委員会による「弁理士制度の見直しの方向性について」では、学生や 20 歳代の若い人材の参入は進んでおらず、司法試験、公認会計士試験と比較しても、弁理士試験については、合格者平均年齢が40歳前後と高く、学生の割合が低い状況にある旨が指摘されている[15]。更に、受験生や合格者の平均年齢が増加していることに加え、弁理士制度小委員会では、若い人は合格しても弁理士登録をしない旨の懸念が指摘されている。この原因について、弁理士会からは、弁理士制度がやや変質してきて魅力が薄れており、かつては難しい試験、しかし資格を取れば十分な、十二分な職がはぐくまれるというような意識があったが、今では競争原理を働かせた結果、必ずしもそのような状況になっていない旨の指摘が出されている。また、同委員会に出席したキヤノンからは、同社の試験合格者のうち、弁理士登録をしているのはそのうちの約半分ぐらいである旨の指摘がされている。この理由として、弁理士の会費を全員分を負担するのは、登録料が高いこともありできない旨が指摘されている[16]。職場が全員分の弁理士会費を支払わない場合、役職も実務経験もほとんどない若い世代よりも、役職が上で実務経験が豊富な年配の世代に予算が配分される傾向があるため、若い世代にとって弁理士を目指す動機付けが低下し、結果、若い弁理士の数が減少する。このように、若い世代の弁理士離れの原因の一部として、競争原理を徹底したことによる弁理士という職業的魅力の低下に加え、合格者が増えた結果、職場での弁理士会費負担が難しくなったことが指摘されている。

試験内容の課題

弁理士の業務範囲については、上述のとおり実用新案意匠商標の権利化も含むものの、現実には、発明者の依頼によって特許の権利化を図ることが主業務である。そこで要求されるスキルは、発明者自身未だ思いついたばかりで漠然とした概念にある発明について、その本質を理解する能力が要求され、かつ、その発明が、他の既存技術に対して如何に優れているかについて、客観的に技術的長所を見出す論理展開力も要求される。近年の技術の高度化、業務の国際化に伴い、弁理士に要求される技術力は極めて高度なものとなっている。

一方、弁理士試験では、基本的には産業財産権法といった法律の学識を問うもので、試験では判例等膨大な法的知識のみが要求される。その反面、近年では理工系以外出身の受験者が増えるとともに折角試験に合格しても比較的高齢で合格した場合や文系出身の場合には実務に必要な基礎知識・周辺知識が不十分なために知財業界に就職出来ない者が生ずる現象が起きている[要出典]。近年の新試験制度導入により、論文が知識偏重形式から事例形式に変更されたものの、そこで要求されるスキルは、実務上要求され得ない圧倒的スピードであり、しかも複雑怪奇な引っ掛け問題で、日常の実務と乖離した事例である。そのため、業界では「資格有無よりも実務経験有無」といった風潮が一般化してしまったことも原因であろう。

また、上記日本特有の問題を解決するために、国際調和の観点[17]から弁理士試験の受験要件の一つに理系学士を課すことも議論されているが実現してはいない。

更に、近年の新試験制度導入により論文受験者数が激増した。そのため、同じ科目についても、複数の論文採点官が分担して採点を行なうことから「採点官の当たり外れや相性」により、合否が露骨に左右されると不満を持つ受験生も存在するようである。これを解消するべく特許庁では予め統一した模範解答にしたがって採点するよう配慮しているが、現実には採点官への拘束力は無く、しかも具体的な模範答案ですらブラックボックスであるため、受験生の再現答案に基いて模範答案を作成する各種受験機関ですらお手上げ状態である(特許庁としては各種受験機関に模範答案を作成されることを忌避する意図もある)。

諸外国の制度と比較した場合、日本の弁理士は、規制緩和によって諸外国と比較しても弁護士類似の広い権限を有する一方、資格取得においては、特許法、実用新案法、意匠法、商標法といった狭い範囲の周辺法の法的知識のみが弁理士試験で担保され、一般法についての法的素養が問われることもなく実務経験や実務能力も要求されない点で欧州諸国とは顕著に相違する。さらに、弁理士試験は受験資格が無制限で誰でも受験可能であり、論文試験は、特許法・実用新案法(2時間)、意匠法(1.5時間)、商標法(1.5時間)の計5時間(1日で終了)で全てとなっており、Patent Agent試験に次ぐ簡素な試験となっている。

このような状況に対して、日本弁理士の資格要件(Credential requirements)と資格権限のミスマッチによって、利用者への不測の不利益が発生するおそれがあるとの懸念を示す意見も存在する[18]。ただし、この意見は、日本の弁護士に技術的素養が要求されていない点も問題としており、双方の調和を提案している。すなわち、日本弁理士は法的素養を担保すべきである一方、日本弁護士も技術的素養を担保すべきであるとする。

このような懸念に対して、日本の現状では、資格要件が逆に規制緩和によってさらに簡素化されつつあり、ミスマッチが増大している。一方、急激な弁理士数の増加目標は達成され、弁理士登録年数5年未満の新人弁理士が40%を占める状態となっている。これにより、日本の弁理士数(7,500人)は、英国弁理士数(3,230人=1,730人+1,500人)、ドイツ弁理士数(2,300人)、およびフランス弁理士数(500人=230人+270人)の合計数(約6,000人)を大幅に上回っている。しかしながら、出願数比では、依然として米国はもちろん、欧州特許弁理士にも遠く及ばない(日本は7,500人/約40万件、米国は特許弁護士(Patent Attorney)約27,000人+特許出願代理人(Patent Agent)約8,500人=35,500人/約44万件、欧州特許庁への代理権保持者(大半が欧州特許弁理士)は8,500人/約14万件[19][20])。

2006年度からは科目合格制度その他の弁理士試験の緩和制度が整備された一方、合格率が50%近くから33%へと低下した法曹の増員ペースの鈍化の例もある。よって、今後の弁理士の増加のペースについては次第に明らかになるはずである[21]

このような資格(ライセンス)の大量発行と権限拡大は、資格要件と資格権限のミスマッチとして前述のように日本国外から懸念も提起されてはいるが、規制緩和と利用者の自己責任の原則の徹底とが追求されている日本においては特に大きな問題とはされていなかった。このような問題に対して、日本弁理士会は、試験合格後の登録前研修による能力担保を要求していた。一方、登録前義務研修は、試験に加えた新たな参入障壁につながると考える学者も存在し[22]、「産業構造審議会知的財産政策部会弁理士制度小委員会報告書」では、登録前義務研修と、登録後の義務研修とが両論併記されていた。その後、弁理士会の働きかけの結果[21]。 2007年(平成19年)6月に衆議院で可決成立した改正弁理士法により、2008年10月より登録前実務修習が導入された[23]

合格者出身校別内訳

 特許庁が毎年公表する「弁理士試験統計」によれば、最終合格者の出身校では東京大学、京都大学、大阪大学、東京工業大学、早稲田大学がほぼ毎年上位を占めており、合格者数上位5校中4校が国立大学という、司法試験とも異質な国立大学出身者の多い法律系資格である。なお、上記「弁理士試験統計」では最終合格者の学歴別人数を挙げているが、受験者層もほぼ相関して、大学出身者が大半を占めている。発明を扱うという実務の性質上、物理・電気電子・機械・情報通信・材料や化学等あらゆる工学分野の知識が要求され、必然的に大学出身者程仕事が捗ることが一因であると思われる。各年度弁理士試験の合格者数の多い上位出身大学は以下の通りである。

平成26年度

  1. 京都大学 - 27名
  2. 東京大学 - 26名
  3. 早稲田大学 - 25名
  4. 大阪大学 - 19名
  5. 東京工業大学 - 17名

平成25年度

  1. 東京大学 - 65名
  2. 京都大学 - 51名
  3. 大阪大学 - 38名
  4. 東京工業大学 - 35名
  5. 早稲田大学 - 28名

平成24年度

  1. 東京大学 - 70名
  2. 京都大学 - 55名
  3. 東京工業大学 - 48名
  4. 大阪大学 - 48名
  5. 早稲田大学 - 39名

平成23年度

  1. 東京大学 - 69名
  2. 京都大学 - 55名
  3. 東京工業大学 - 40名
  4. 早稲田大学 - 36名
  5. 慶應義塾大学 - 34名

平成22年度

  1. 東京大学 - 65名
  2. 京都大学 - 55名
  3. 早稲田大学 - 42名
  4. 大阪大学 - 37名
  5. 東京工業大学 - 36名

平成21年度

  1. 東京大学 - 75名
  2. 京都大学 - 67名
  3. 大阪大学 - 45名
  4. 東京工業大学 - 42名
  5. 早稲田大学 - 39名

平成20年度

  1. 東京大学 - 61名
  2. 大阪大学 - 42名
  3. 京都大学 - 41名
  4. 早稲田大学 - 39名
  5. 東京工業大学 - 33名

平成19年度

  1. 京都大学 - 54名
  2. 東京大学 - 53名
  3. 大阪大学 - 50名
  4. 早稲田大学 - 37名
  5. 東京工業大学 - 25名

平成18年度

  1. 京都大学 - 59名
  2. 東京大学 - 57名
  3. 大阪大学 - 44名
  4. 早稲田大学 - 41名
  5. 東京工業大学 - 38名

平成17年度

  1. 東京大学 - 73名
  2. 京都大学 - 62名
  3. 東京工業大学 - 47名
  4. 大阪大学 - 42名
  5. 早稲田大学 - 38名

平成16年度

  1. 京都大学 - 51名
  2. 東京大学 - 47名
  3. 早稲田大学 - 47名
  4. 東京工業大学 - 36名
  5. 大阪大学 - 30名

平成15年度

  1. 東京大学 - 52名
  2. 京都大学 - 44名
  3. 東京工業大学 - 37名
  4. 早稲田大学 - 37名
  5. 大阪大学 - 32名

弁理士という言葉の意味

弁理士の弁と弁護士の弁は、現在では同じ字を使っているが、かつては、辨理士、辯護士と書いた。「辨」という字の意味は「わきまえ知る」であり、「理」という字の意味は「筋道」/「物事の道理」である。従って、弁理士とは、筋道あるいは物事の道理をわきまえ知る者という意味になる。一方、「辯」という字の意味は「言い開く」「言葉が自在に説法できること」であり、「護」という字の意味は「まもる」である。従って、弁護士とは、人のために言葉を自在に駆使してその人を護ることを役割とする者という意味になる。なお、日本では、弁護士となる資格を有する者は、弁理士登録をすることができる。もっとも、弁護士は、弁理士登録をせずとも弁理士業務を行うことができる。これは、弁護士法第3条の第2項に「弁護士は、当然、弁理士及び税理士の事務を行うことができる。」と規定されているためである。

弁理士の日

毎年7月1日は、日本弁理士会によって弁理士の日に定められている。これは、1899年(明治32年)のこの日に、現在の「弁理士法」の前身にあたる「特許代理業者登録規則」が施行されたことにちなむものである。この日の前後には、日本弁理士会や各地の支部により、講演会、シンポジウム、特許無料相談会などのイベントが開催されている。

脚注

  1. ^ 特許庁弁理士試験の案内
  2. ^ 日本弁理士会HP
  3. ^ 弁理士ナビ
  4. ^ 日本弁理士会HP
  5. ^ 第6回弁理士制度小委員会 議事録
  6. ^ 弁理士ナビ
  7. ^ 特定侵害訴訟代理業務試験の案内
  8. ^ 弁理士の歴史日本弁理士会
  9. ^ 出願動向に関する国際比較日本国特許庁
  10. ^ 記者懇談会・議事録(2005年04月)日本弁理士会
  11. ^ 産業構造審議会 知的財産政策部会 弁理士制度小委員会報告書 - 特許庁
  12. ^ 平成23年度弁理士試験の実施について
  13. ^ 弁理士ナビ
  14. ^ /パンフレット「平成28年度から弁理士試験制度が変わります」
  15. ^ 弁理士制度の見直しの方向性について
  16. ^ 第6回弁理士制度小委員会 議事録
  17. ^ 海外の弁理士制度の状況及び他の士業における状況 - 特許庁
  18. ^ Japan's New Patent Attorney Law Breaches Barrier Between the Legal and Quasi-legal Professions: Integrity of Japanese Patent Practice at Risk? - Lee Rousso]
  19. ^ 産業財産権の現状と課題 ~グローバル化に対応したイノベーションの促進~ <特許行政年次報告書2008年版>
  20. ^ Annual report 2005 / Business report / Knowledge & learning - European Patent Office
  21. ^ a b 産業構造審議会 知的財産政策部会弁理士制度小委員会報告書(案)~弁理士の質的及び量的充実と専門職としての責任の明確化に向けて~(pdf) 引用エラー: 無効な <ref> タグ; name "report"が異なる内容で複数回定義されています
  22. ^ 第6回弁理士制度小委員会 議事録
  23. ^ http://www.jpaa.or.jp/goukakuinfo/jitsumushushu/oshirase091020.pdf 実務修習のお知らせ - 日本弁理士会 (PDF)

関連項目

外部リンク