ノースウエスト航空85便緊急着陸事故
ノースウェスト航空85便緊急着陸事故(ノースウェストこうくう85びんきんきゅうちゃくりくじこ)とは、2002年10月9日、デトロイト・メトロポリタン・ウェイン・カウンティ空港から成田国際空港へ飛行中のノースウェスト航空85便(NW85)がアラスカ・アンカレジ付近で、方向舵[注釈 1](ラダー)が制御不能(左方向一杯になって停止)となって操縦が不安定となり、目的地を変更しテッド・スティーブンス・アンカレッジ国際空港に緊急着陸を行った航空事故である[1]。この事故による負傷者は無く、乗員乗客とも全員無事であった。この事故により、以後の事故防止のため、耐空性改善命令が出されることとなった[2]。
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成田空港で撮影された事故機 | |
| 出来事の概要 | |
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| 日付 | 2002年10月9日 |
| 概要 | 下部方向舵の故障 |
| 現場 | ベーリング海上空 |
| 乗客数 | 386 |
| 乗員数 | 18 |
| 負傷者数 | 0 |
| 死者数 | 0 |
| 生存者数 | 404(全員) |
| 機種 | ボーイング747-451 |
| 運用者 |
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| 機体記号 | N661US |
事故当日のNW85便
事故発生時の飛行状況
事故機は東部夏時間14:30[注釈 2]にデトロイト・メトロポリタン・ウェイン・カウンティ空港を出発し、アラスカ夏時間17:40[注釈 3]に高度35,000フィート(約10,000m)で異常が起きた[4][2]。その時の機長フランク・ゲイブと副操縦士マイク・ファーガンは、シニア機長ジョン・ハンソンと副操縦士デビット・スミスが休憩に入り、操縦を交代したところだった[5]。
突然機体が30∼40度左に傾いたのでゲイブは当初エンジンに故障が生じたと考え[2]、ハンソンは操縦室に戻りファーガンとともに手動で操縦した。ゲイブは緊急事態を宣言しアンカレッジへダイバートを開始したが[5]、飛行機は北アメリカとアジアの間の無線不感帯[注釈 4]を飛行していたため電波が弱く、アラスカ付近を飛行していたノースウェスト航空19便が85便と連絡を取って支援した。
85便のクルーは利用可能な応急処置のどれも問題を解決できないと報告した。操縦士たちはミネアポリスとセント・ポール地区のノースウェスト航空と電話会議を行ったが、従業員は突然の傾き解決策を見つけ出すことはできなかった[5]。このためクルーは補助翼(エルロン)が使用できないことから左右エンジンの推力を別々に細かく調整させ[2]、機体操作を取り戻してテッド・スティーブンス・アンカレッジ国際空港に着陸させた。
ハンソンは「乗務員のチームワーク(en:Crew Resource Management)がアンカレッジでの安全な着陸に貢献した。これがCRMの最高水準の実践例である。操縦士がこれほど充分に乗務していたことは幸運で恵まれていた。操縦室では4人のパイロットが協力して作業に当たった。客室乗務員たちも優れたメンバーで、緊急レベルが赤、すなわち避難しなければならなくなる可能性が高いと指示を受けた。それは後に重要となるが、我々は機体を滑走路上に保てるか定かではなかったからだ[5]。」と語った。
なお本事故は当初メディアからの注目を受けなかった[4]。
調査
アメリカ国家運輸安全委員会(NTSB)およびボーイング社は、事故調査を開始した[4]。NTSB調査者キャロリン・デフォージはNW85の調査を監視していたが、この事故を取り上げたテレビ番組「メーデー!:航空機事故の真実と真相[注釈 5]」第9シーズン第4話[6]にて、「その事故は、まさに劇的であり、何が起こったのかを理解し、引き続き調べていく必要があるものだと思う。」と語った。
NTSBは、動力制御モジュールの中の金属疲労による欠損があり、それは目視では発見できる種類の破損ではないことに気づいた。下部方向舵の制御モジュールを囲む鋳造金属の筐体は破損していた。ヨーダンパー[注釈 6]アクチュエーターを収納していた制御モジュールの筐体の後部の一端は、筐体の本体部分から外れていた。デフォージは、通常は内部の部品に異常が起きることが多いが、今回は筐体自体が異常をおこしたものであり、極めてまれなことだと語った。
NTSBは可能性の高い原因として「下部方向舵の動力制御装置の金属疲労による破断の結果が引き起こした下部方向舵の操作不能」と裁定した。
事故後
(2009年11月8日 成田空港)
モジュールを傷をつけない検査手段が開発され、その結果、ボーイング社はアラート・サービス告示747-27A2397を出した。2003年7月24日付の告示は、ボーイング747の整備士が適切な時期に上・下部の方向舵の動力制御装置の超音波探傷検査を実施するよう勧告した[2]。
連邦航空局(FAA)は、この検査をボーイング747-400(国際線仕様)、400D(国内線仕様)、400F(貨物機仕様)において義務化する耐空性改善通報のための規則策定の通知(en:Notice of Proposed Rule Making (NPRM))を公表した[2]。
2003年8月28日に「耐空性改善通報:ボーイング747型-400、-400Dおよび-400Fのシリーズ機」が連邦官報に公表された。
2003年11月3日に発行された、指令2003-23-01は同年12月18日に発効され[7]、後に2006年8月30日に発行、同年10月13日発効となった指令2006-18-17に置き換えられた[8]。さらに2008年には、この指令に対する代案が公表された[9][10]。
2004年1月に、定期航空操縦士協会はNW85便の乗組員に「優秀飛行技術賞」を与えた。
2009年2月24日に、ノースウエスト航空所属のボーイング747-400シリーズは、経営統合に伴いデルタ航空に移籍し[注釈 7]現在も運用中だが、2017年までの完全退役が決定。このうちNW85便当該機でもある「N661US」は、747-400型機のプロトタイプの1機のため、博物館で保存される予定。また現在も成田-デトロイト線は747-400またはボーイング777を使用し1日1往復(デルタ276便(成田発)・275便(デトロイト発))で運航している。
注釈
- ^ 機首方向の姿勢を制御するために垂直尾翼の後縁に取り付けられている操縦翼面。この機種では上下2枚ある。
- ^ 東部夏時間(EDT)は世界標準時(UTC)-4
- ^ アラスカ夏時間(ADT)は世界標準時(UTC)-8
- ^ 航空機と基地局の距離や位置により、電波の伝わりが悪く無線通信に支障を来たすエリア。
- ^ 言葉の意味はメーデー (遭難信号)を参照のこと。
- ^ ダッチ・ロールを防止する目的で用いられる安定増加装置の一種。この装置は,機首の左右方向の角加速度を検知して電気的信号を作り出す部分、その信号を増幅し、方向舵を動かすアクチュエーター(油圧シリンダによる駆動装置)と、それに指令を出す部分などから構成されており、これにより自動的に方向舵を適正に操舵することで、ダッチ・ロールの発生を防止することができる。平面の鉄道では蛇行動と称されるが、横揺れとしての理屈は同じ。
- ^ ノースウエスト航空は2008年10月にデルタ航空と合併し、「クロス・フリーティング」と呼ばれる方法で互いの機材を運用。2010年1月30日に経営統合を完了し、ノースウエスト航空は完全に幕を閉じた。
出典
- ^ Aviation Safety Net
- ^ a b c d e f "ANC03IA001." (Archive)
- ^ "2002-10-09-US.pdf." (Archive) 国家運輸安全委員会. Retrieved on December 23, 2012.
- ^ a b c Wallace, James. "Aerospace Notebook: Boeing, NTSB investigating 747 rudder incident." en:Seattle Post-Intelligencer. Tuesday November 5, 2002. Retrieved on December 25, 2012.
- ^ a b c d Steenblik, Jan W. "ALPA's Annual Air Safety Awards." (Archive) en:Air Line Pilot. en:Air Line Pilots Association. January 2004, p.19. Retrieved on December 25, 2012.
- ^ "Turning Point."という題名で放送された。調査の情報は番組の後半、事故の終わりに放送された。
- ^ "Docket No. 2003-NM-173-AD; Amendment 39-13364; AD 2003-23-01." (Archive) 連邦航空局. Retrieved on December 23, 2012.
- ^ "Docket No. FAA-2006-23873; Directorate Identifier 2005-NM-110-AD; Amendment 39-14756; AD 2006-18-17 RIN 2120-AA64." (Archive) en:Federal Aviation Administration. Retrieved on December 23, 2012.
- ^ “Federal Register | Airworthiness Directives; Boeing Model 747-400, 747-400D, and 747-400F Series Airplanes”. Federalregister.gov. 2012年12月25日閲覧。
- ^ “Federal Register, Volume 68 Issue 167 (Thursday, August 28, 2003)”. Gpo.gov. 2012年12月25日閲覧。
関連事項
- メーデー!:航空機事故の真実と真相第9シーズン第4話(『 Mayday 』)の原題"Turning Point")