シクラメン

サクラソウ目サクラソウ科の植物

これはこのページの過去の版です。219.115.5.69 (会話) による 2015年12月10日 (木) 21:32個人設定で未設定ならUTC)時点の版 (シクラメンの種類)であり、現在の版とは大きく異なる場合があります。

シクラメン学名Cyclamen persicum)はサクラソウ科シクラメン属に属する多年草。地中海地方原産で、花期は秋から春。の花として有名[3]。和名は「豚の饅頭(ブタノマンジュウ)」と「篝火花(カガリビバナ)」の2つある。前者の『豚の饅頭』は、植物学者大久保三郎[4]がシクラメンの英名:sow bread(雌豚のパン=シクラメンの球根が豚の餌になることから命名)を日本語に翻訳した名である。後者の『篝火花』のはシクラメンを見たある日本の貴婦人(九条武子だといわれている)が「これはかがり火の様な花ですね」と言ったのを聞いた植物学者牧野富太郎が名づけた。前者は球根を、後者は花を見て名づけている。現代ではシクラメンに対して和名を用いることはほとんどない。

シクラメン
シクラメン
分類
: 植物界 Plantae
: 被子植物門 Magnoliophyta
: 双子葉植物綱 Magnoliopsida
: サクラソウ目 Primulales
: サクラソウ科 Primulaceae
: シクラメン属 Cyclamen
: シクラメン C. persicum
学名
Cyclamen persicum Mill.[1][2]
和名
シクラメン[1][2]、カガリビバナ[1][2]、ブタノマンジュウ[1][2]
英名
Cyclamen

また、シクラメン属の総称としてシクラメンということもある。

本記事におけるシクラメンは、特に明記しない限りC. persicumとその品種、変種の意味である。

なお、属名の Cyclamen を発音に忠実にして表記すると「キクラメン」となり、文献によっては、「キクラメン・〜」と表記する場合もある[2][5]

シクラメンの生態

シクラメンは双子葉植物として分類されているが、実際に土から芽を出す時は一枚しか出てこない。また、子葉から数えて7、8枚目の葉が出た頃から花芽の形成が始まる。また、葉芽と花芽は一対一で発生して行く。花を放って置くとすぐ結実するが、結実させたままにすると株が弱り、最悪枯れてしまうので、採種が目的でも数輪残すだけ、目的でなければ全て取り除くのが好ましい。球根は茎が肥大したもので、乾燥に弱く、分球しない。芽は球根の上部にかたまってつく。

シクラメンの歴史

シクラメンは元々地中海沿岸、トルコからイスラエルにかけて原種が自生している。名前は受粉後に花茎が螺旋状に変化する性質からギリシア語のキクロス(kiklos:螺旋・円)から命名された。ただしぺルシカム種、ソマレンセ種では、花茎は巻かずに垂れる。[6]古来は花ではなく、塊茎澱粉を注目され、サポニン配糖体シクラミンCyclamin)を含む有毒にもかかわらず「アルプスのスミレ」などの美称があり、食用とされていた。大航海時代以後ジャガイモがもたらされると、シクラメンを食用にする習慣はなくなった。

シクラメンの花に着目して品種改良が行われたのはドイツである。シクラメンの原種の中でもシクラメン・ペルシカムに注目して、品種改良が進められた。

花色もピンクほか白、赤、黄などバラエティに富んだものができた。

シクラメンに関する伝説で、草花好きだったソロモン王王冠に何か花のデザインを取り入れようと思い様々な花と交渉するが断られ、唯一承諾してくれたシクラメンに感謝すると、シクラメンはそれまで上を向いていたのを、恥ずかしさと嬉しさのあまりにうつむいてしまった、というものがある。

アプレイウスは著書「本草書」の中で、シクラメンを鼻に詰めると脱毛に効果があると指摘している[7]

日本でのシクラメン

 
鉢植えのシクラメン。日本ではシクラメンは最も生産されている鉢植え植物である。

日本には明治時代に伝わった。日本での本格的な栽培は、岐阜県恵那市の伊藤孝重の手により始まった。シクラメンは高温多湿の日本の気候に合わず、様々な栽培方法が模索された。

戦後、急速に普及し、日本での品種改良も進められ、花色も黄色や二色、フリンジ咲き、八重咲きなどが登場。日本における鉢植え植物では生産量はトップクラスで、冬の鉢植えの代表格として定着している[8]

「死」「苦」との語呂合わせ、花の赤色は血をイメージするなど、病院への見舞いにこの花や鉢植えを持っていく事は縁起が悪い組み合わせとされている(鉢植えは「植え」が「飢え」、「根付く」が転じて「寝付く」となる語呂合わせのため)。

ミニシクラメン

従来、鉢で育てる室内観賞用のシクラメンが一般的であったが、原種との交雑により、1996年(平成8年)に埼玉県児玉郡児玉町(現本庄市)の田島嶽が屋外に植栽可能な耐寒性のあるミニシクラメンの系統を選抜し、「ガーデンシクラメン」として売り出したのがこの種類のシクラメンの始まりである(ただし最初にガーデンシクラメンとして選ばれたのは、古くからミニシクラメンとして流通していた「F1ミニメイト」という品種)。この「ガーデンシクラメン」はガーデニングブームの波に乗り流行し、全国で生産が始まり、瞬く間に普及した。[9]

香りシクラメン

通常、栽培種のシクラメンは全く香りがしないか、香りが薄いのが一般的である。前述のとおり栽培種のシクラメンはドイツにおいてC.persicumという種から花が大きくて綺麗なものを長年に渡り選抜していった結果、香りは注目されずに徐々に失われていったためである。これは、この種のシクラメンの香気は埃・乾燥した木材様のセスキテルペンという成分が主体であり、一般に臭いと感じる事に起因する。

なお、日本では布施明の歌『シクラメンのかほり』(小椋佳作詞・作曲)が1975年(昭和50年)にヒットしたことによってシクラメンの香気に対する期待感や要望が表れるようになった。

このため、一般の栽培種のシクラメン生産者や育種家らの手によって香りのシクラメンの育成がされてきた。これは、C. persicum種の中に僅かに含まれる香気であるシトロネロールというバラ様の香気成分が突然変異などにより比較的に多く含まれるものを選抜したものであるが、親の遺伝によって香りが良くないとされるセスキテルペンの香気成分も無くならない事が多いため、基本的な香り成分の種類には差が少なく芳香なシクラメンの作成は困難であった。

このようななか、1996年(平成8年)に埼玉県農林総合研究センター園芸支所(現園芸研究所)がバイオテクノロジーを用いて、栽培種であるC.persicum種と芳香を有する野生種であるC.purpurascens種との種間交雑[(2n=2x=48)×(2n=2x=34)=(n=41)]を行い(受精直後の未熟胚を培養)、種子で増殖可能な交雑種(2n=82)の2系統の育成(胚培養で得られた個体は不稔のため、組織培養とコルチヒン処理で染色体数を増やす)に世界で初めて成功した。なお、ぺルシカム種を用いた種間交雑種はこれが初めてであるが、異種間交配種は自然交雑種も含めていくつか存在する[10]

C.purpurascensの原種は、花は小さく質素であるが、バラ様の香気成分であるシトロネロールやシナミルアルコールというヒアシンス様の香気成分、スズラン様の香気成分を発する種である。

この種間交雑により、花や株は一般の園芸種のように大きく、香りはこの野生種の芳香が大きな花から多く発せられる、いわゆる「芳香シクラメン」が誕生することとなり、従来の園芸種とは全く違うバラとヒアシンスを合わせたような香気を持つ栽培用シクラメンが一般に流通するに至った。

現在、埼玉県がこの芳香シクラメンについて花色の違う3品種の育成を行い、「孤高の香り」(紫) 「麗しの香り」(ピンク)の2品種を種苗登録するとともに「香りの舞い」(濃紫)の1品種を出願している。

その後これら第一世代の品種を組織培養し、イオンビーム照射でDNAに変異を起こさせることで、親品種と花色の異なる「天女の舞」(サーモンピンク・麗しの香りの変異) 「絹の舞」(白・孤高の香りの変異)「みやびの舞」(赤紫・香りの舞いの変異)が生み出された。[11][12][13][14]

このことにより、これまで花の“色”と“形”しか品種の違いがなかったシクラメンに“香り”という新たなアイテムが加えられ、消費者の選択肢が広がった。[15]

原種シクラメン

これまでの園芸用のシクラメンはC.persicumという一種から改良された品種であった。しかし、ガーデンニング人気の高まりとともに、野趣の富む「原種シクラメン」にも注目が集まり、園芸種の原種のほか、別の種に属する野生種が一部の収集家によって栽培されている。特に、C.hederifoliumC.coumなどの種は流通量が多く購入しやすい。

なお、これら野生種の多くはヨーロッパ原産であるが、現在は条約により輸入できなくなっている。

シクラメンの種類

現在、鉢植えとして品種改良が進められ、一般に入手できるのはシクラメンのなかでもシクラメン・ペルシカム(Cyclamen persicum)である。

シクラメンの仲間(シクラメン属Cyclamen)は中近東及び地中海沿海地域に自生しており、多くの種類が知られている。それらの一部は「原種シクラメン」として市場に出回っている。以下に原種を挙げる。

  • Cyclamen africanum Boiss. et Reut.
  • C. alpinum Dammann ex Sprenger
  • C. atkinsii T. Moore ex Lem. 19世紀半ばに作出されたC. persicumC. coumの交配種とされるが、反論する意見もある。[16]実際、香りシクラメン作出のためにC. persicum(ぺルシカム亜属)とC. purpurascens(シクラメン亜属)を交配した時、まず未熟胚培養という20世紀以降に確立された技術を用いる必要があった(植物の組織培養全体でも最初の試みは1902年である[17])。C. coumもまた、C. persicumとは別のGyrophoebe亜属に属する。異種間交配が成功しやすいかどうかは分類上の近縁度のほか、染色体数も関係する。C. persicumは2n=48,C. purpurascensは2n=34,C. coumは2n=30である。[18]
  • C. balearicum Willk.
  • C. cilicium Boiss. et Heldr.
  • C. colchicum (Albov) Albov
  • シクラメン・コウム C. coum Mill.
  • C. creticum (Dorfl.) Hildebr.
  • C. cyprium Kotschy
  • C. elegans Boiss. et Buhse
  • C. graecum Link
  • C. hederifolium Aiton
  • C. intaminatum (Meikle) Grey-Wilson
  • C. libanoticum Hildebr.
  • C. maritimum Hildebr. 最初この名で記載されながら、その後C. graecumの亜種anatolicumとされていたもの。C. graecumとの分岐年代が290万-340万年前と判明し、この属での平均的な種の分岐年代の230万年を上回ることから、別種として再び記載されることとなった。[19][20]
  • C. mirabile Hildebr.
  • C. parviflorum Pobed.
  • C. peloponnesiacum (Grey-Wilson) Kit Tan 現在は新設されたC. rhodiumの亜種peloponnesiacum という扱いである。
  • C. persicum Mill.
  • C. pseudibericum Hildebr.
  • シクラメン・プルプラセンス C. purpurascens Mill.
  • C. repandum Sm.
  • C. rhodium Gorer ex O. Schwarz & Lepper C. repandumから独立させたもの[21]
  • C. rohlfsianum Asch.
  • C. somalense Thulin et Warfa
  • C. trochopteranthum O. Schwarz C. alpinumシノニム[22]

このほか、C. fatrenseを認める見解もある

ギャラリー

脚注

  1. ^ a b c d <米倉浩司・梶田忠「シクラメン」『BG Plants 和名−学名インデックス(YList)』、2003年-。(2015年5月9日閲覧)
  2. ^ a b c d e 大場秀章編著『植物分類表』アボック社、2009年11月2日(2010年4月20日初版第2刷(訂正入))、177頁、ISBN 978-4-900358-61-4
  3. ^ ただし、俳句では春の季語である。
  4. ^ 東京大学植物標本室に関係した人々」『日本植物研究の歴史 - 小石川植物園300年の歩み』。
  5. ^ 中山昌明「シクラメン」『週刊朝日百科 植物の世界61 サクラソウ シクラメン』岩槻邦男ら監修、朝日新聞社、1995年6月18日、6-18-19頁。
  6. ^ NHK趣味の園芸プラスワン もっとシクラメン NHK出版編、金澤美浩・横山直樹監修、NHK出版、2015年12月25日、7頁・57頁・79頁
  7. ^ アリス・M・コーツ『花の西洋史事典』(白幡洋三郎・白幡節子訳、八坂書房、2008年) 177項
  8. ^ 鉢植えの主役 - シクラメン」『株式会社エイト』。
  9. ^ NHK趣味の園芸プラスワン もっとシクラメン NHK出版編、金澤美浩・横山直樹監修、NHK出版、2015年12月25日、98-99頁
  10. ^ NHK趣味の園芸プラスワン もっとシクラメン NHK出版編、金澤美浩・横山直樹監修、NHK出版、2015年12月25日、58-59頁
  11. ^ https://www.pref.saitama.lg.jp/a0001/news/page/documents/151110-0502.pdf
  12. ^ https://www.pref.saitama.lg.jp/a0001/news/page/151110-05.html
  13. ^ https://www.pref.saitama.lg.jp/a0001/news/page/news140724-06.html
  14. ^ http://archive.pref.saitama.lg.jp/uploaded/attachment/595528.pdf#search='%E5%A4%A9%E5%A5%B3%E3%81%AE%E8%88%9E+%E3%82%B7%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%A1%E3%83%B3'
  15. ^ NHK趣味の園芸プラスワン もっとシクラメン NHK出版編、金澤美浩・横山直樹監修、NHK出版、2015年12月25日、103頁
  16. ^ https://www.rhs.org.uk/about-the-rhs/publications/magazines/the-plantsman/2011-issues/march/James-Atkins P.55
  17. ^ http://www1.gifu-u.ac.jp/~fukui/04-9-1.html
  18. ^ 原種と属する亜属,染色体数の詳細は NHK趣味の園芸プラスワン もっとシクラメン NHK出版編、金澤美浩・横山直樹監修、NHK出版、2015年12月25日、18頁
  19. ^ http://centaur.reading.ac.uk/38956/
  20. ^ NHK趣味の園芸プラスワン もっとシクラメン NHK出版編、金澤美浩・横山直樹監修、NHK出版、2015年12月25日、30頁
  21. ^ NHK趣味の園芸プラスワン もっとシクラメン NHK出版編、金澤美浩・横山直樹監修、NHK出版、2015年12月25日、56頁
  22. ^ NHK趣味の園芸プラスワン もっとシクラメン NHK出版編、金澤美浩・横山直樹監修、NHK出版、2015年12月25日、41頁

外部リンク