低磁場核磁気共鳴画像法

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低磁場核磁気共鳴画像法(ていじばかくじききょうめいがぞうほう、英語: Low field magnetic resonance imaging)とは、低磁場で核磁気共鳴nuclear magnetic resonance, NMR)現象を利用して生体内の内部の情報を画像にする方法である。

概要

分類で0.2T未満の磁場を利用するMRIが該当する。MRIの黎明期には高磁場を得る事が困難だったため、低磁場MRI装置が一般的だった。1982年に最初に診療用に日本国内の病院に設置された永久磁石式のFONAR QED 80-αも現在の基準では低磁場MRIに分類される装置だった[1][2][3]

その後、超伝導磁石の導入により、画質の優れた高磁場MRI装置が普及して低磁場MRI装置は廃れたが、近年、高磁場化の行き詰まりと技術革新により、低磁場MRI装置での撮像技術が向上したことによって、開発途上国等、これまで導入の困難だった地域への普及を視野に開発が進められつつある[4][5]

背景

開発された当時からMRI装置の費用は磁石とコンピュータが大部分を占めていた。1990年代以降、ムーアの法則により、中央演算処理装置(CPU)の性能が飛躍的に上がったことにより、MRI装置全体の価格に占めるコンピュータの割合は相対的に低下したものの、磁石の値段は下がらず、MRI装置の値段は依然高額だった[6][7]

低磁場MRI装置の状況

近年、低磁場中の低周波の周波数帯域で高感度な超伝導量子干渉素子(SQUID)や光ポンピング磁力計が開発され[8]、それらの導入とスパースモデリングをはじめとする圧縮センシング医用画像処理への導入により低磁場MRIでも実用的な撮像が可能になりつつある[9][10][11]

2013年には80mTの分極磁場で印加して4mTの静磁場で核磁気共鳴画像の撮像が報告された[10]

課題

低磁場MRI装置には超低磁場中での勾配磁場の精度の問題や共鳴信号の低周波化に伴う周波数分解精度の問題などがある[12]。例えば、静磁場を1mTとした場合、その核磁気共鳴周波数は約43kHzとなる。離散フーリエ変換を用いる場合、その周波数分解能は時間長の逆数になるため、0.1Hzの周波数分解を得るためには0.01秒の時間長が必要になる。

高磁場MRIと比較した長所・短所

長所

  • 磁場の遮蔽が容易で強力な静磁場による力学的作用(ミサイル効果)および磁気的作用が軽微
  • 傾斜磁場の変動による神経刺激が軽微
  • RFパルスの吸収による発熱作用が軽微
  • ローレンツ力による傾斜磁場コイルの振動で発生する騒音が軽微
  • 高価な液体ヘリウムの補充が不要
  • 機器の値段、維持費が安い
  • 静磁場の強度が弱ければ強い傾斜磁場強度は不要なので、受信する信号の帯域幅を狭くすることができ、それに伴い信号雑音比 SNRが向上する[13]
  • 強い傾斜磁場を作れる低磁場MRI装置では、さらにスライス厚を薄くしたり、撮影視野(FOV)を小さくできる[13]

つまり、高い空間分解能の画像を得ることができる[13]

  • TRをより短くできる[13]
  • 化学シフト、磁化率の違い、流れ、動きによるアーチファクトは高磁場MRI装置と比較して軽減される[13]
  • 高感度のソレノイド型コイルが使用できる

短所

  • 解像度が劣る
  • 信号雑音比(SNR)は大まかに静磁場強度に比例するため装置の他の全ての要素が同等だとした場合、低磁場MRIのSNRは相対的に低くなるので、信号の加算回数を増やす必要があり、撮像時間が長くなる[13]
  • 磁化率効果が低くなるため、石灰化巣や鉄の沈着、出血の検出に劣る[13]

脚注

  1. ^ 古瀬 和寛「磁気共鳴診断装置FONAR QED 80ーaIpha導入の思い出」『MEDICA1 IMAGING TECHNOLOGY』第17巻第3号、1999年5月。 
  2. ^ 古瀬 和寛「地域医療における画像診断の役割と展開とくに磁気共鳴診断装置登場の背景とその後の歩み」『全国自治体病院協議会雑誌』第373号、全国自治体病院協議会、1999年7月、35-49頁。 
  3. ^ 井澤 章「2001年号記念企画 1号機物語・MRI編 FONAR QED80α導入の想い出」『日本放射線技術学会雑誌』第57巻第3号、2001年3月、302-307頁。 
  4. ^ 田中三郎 (2013年8月1日). “特集:SQUID 応用・医療応用「超低磁場 NMR/MRI」” (PDF). 超電導 Web21 (国際超電導産業技術研究センタ). http://www.istec.or.jp/web21/pdf/13_08/J3.pdf. 
  5. ^ “廉価でコンパクトな携帯型 MRI” (PDF). NEDO海外レポート (986). (2006-10-04). http://www.nedo.go.jp/content/100106889.pdf. 
  6. ^ Louise Knapp ( 2001年03月28日 エラー: 日付が正しく記入されていません。(説明). “安価な磁石を採用した超低価格MRI、開発へ(上)”. wired.jp. http://wired.jp/2001/03/28/安価な磁石を採用した超低価格mri、開発へ上/ 2016年9月21日閲覧。 {{cite news}}: CS1メンテナンス: 先頭の0を省略したymd形式の日付 (カテゴリ)
  7. ^ Louise Knapp ( 2001年03月28日 エラー: 日付が正しく記入されていません。(説明). “安価な磁石を採用した超低価格MRI、開発へ(下)”. wired.jp. http://wired.jp/2001/03/29/安価な磁石を採用した超低価格mri、開発へ下/ 2016年9月21日閲覧。 {{cite news}}: CS1メンテナンス: 先頭の0を省略したymd形式の日付 (カテゴリ)
  8. ^ Shoujun Xu; Valeriy V . Yashchuk; Marcus H. Donaldson; Simon M. Rochester; Dmitry Budker; Alexander Pines (2006-08-22). “Magnetic resonance imaging with an optical atomic magnetometer” (PDF). 全米科学アカデミー会報 103 (34): 12668-12671. doi:10.1073/pnas.0605396103. http://www.pnas.org/content/103/34/12668.full.pdf. 
  9. ^ Mathieu Sarracanie; Cristen D. LaPierre; Najat Salameh; David E. J. Waddington; Thomas Witzel; Matthew S. Rosen (2015-10-15). “Low-Cost High-Performance MRI”. Scientific Reports 5. doi:10.1038/srep15177. http://www.nature.com/articles/srep15177. 
  10. ^ a b Savukov, I; Karaulanov, T (2013年). “Magnetic-resonance imaging of the human brain with an atomic magnetometer”. Applied Physics Letters 103 (043703). doi:10.1063/1.4816433. 
  11. ^ Mathieu Sarracanie; Cristen D. LaPierre; Najat Salameh; David E. J. Waddington; Thomas Witzel; Matthew S. Rosen (2015年). “Low-Cost High-Performance MRI”. Scientific Reports 5. doi:10.1038/srep15177. 
  12. ^ 超低磁場核磁気共鳴画像装置(ULF-fMRI)の開発”. 2016年9月22日閲覧。
  13. ^ a b c d e f g MRIの基本原理”. 2016年9月22日閲覧。

参考文献

関連項目

外部リンク