えちごトキめきリゾート雪月花
えちごトキめきリゾート雪月花(えちごトキめきリゾートせつげっか)は、えちごトキめき鉄道が2016年(平成28年)から保有する気動車のET122形1000番台、およびその車両を用いて同年4月23日から運行されている列車の愛称である。いわゆる「ジョイフルトレイン」と呼ばれる車両の一種である。本項目では車両と列車の双方について述べる。
| えちごトキめき鉄道 ET122形1000番台気動車 えちごトキめきリゾート雪月花 | |
|---|---|
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| 基本情報 | |
| 製造所 | 新潟トランシス |
| 主要諸元 | |
| 編成 | 2両編成 |
| 最高運転速度 | 100km/h |
| 編成定員 | 45人 |
| 車両定員 |
23人(ET122-1001) 22人(ET122-1002) |
| 編成重量 | 85.6t |
| 車体 | ステンレス |
| 台車 |
円錐積層ゴム式ボルスタレス台車 NF08D形 (動力台車・2軸駆動) NF08T形(付随台車) |
| 機関 | SA6D140HE-2 |
| 機関出力 | 331kW(450ps) |
| 搭載数 | 1 |
| 駆動方式 | 液体式 |
| 編成出力 | 662kW(900ps) |
| 制動装置 | 機関ブレーキ併用電気指令式空気ブレーキ(増圧付き) |
| 保安装置 | ATS-Ps・ATS-P・EB・TE装置 |
| えちごトキめきリゾート雪月花 | |
|---|---|
| 運行者 |
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| 運行区間 | 主に上越妙高駅 - 糸魚川駅(途中妙高高原駅経由、冬季は糸魚川駅→(二本木駅)→上越妙高駅の予定) |
| 経由線区 | 主にえちごトキめき鉄道妙高はねうまライン・日本海ひすいライン |
| 使用車両 |
ET122形1000番台気動車 (直江津運転センター) |
| 運行開始 | 2016年4月23日 |
| 備考 | 団体専用列車扱い |
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日本産業デザイン振興会の2016年度グッドデザイン賞受賞[1]。
ウッドデザイン賞運営事務局のウッドデザイン賞2016(林野庁補助事業)受賞(入賞)[2]。
香港デザインセンターの2016年アジアデザイン賞銀賞受賞[3]。
概要
北陸新幹線などで上越地方をはじめとする新潟県へやってくる外部からの観光客を主要ターゲットに「週末の贅沢、すこし遠くまで。」をキャッチコピーとして、主にえちごトキめき鉄道線内を周遊し、車内では「えちごを、めしあがれ」を基本コンセプトとする新潟にこだわった食事を提供する列車である。プロデュースは新潟県に拠点を持つ株式会社自遊人の岩佐十良と、株式会社イチバンセン/ネクストステーションズの川西康之である。
2016年3月14日の北陸新幹線金沢延伸に伴い、新潟県内の並行在来線であるJR東日本信越本線・JR西日本北陸本線はそれぞれえちごトキめき鉄道妙高はねうまライン・日本海ひすいラインとしてJRから分離されることとなった。この移管に当たって2014年に策定された同社の「経営基本計画」中で利用促進のために新製・譲渡される一般運用用の車両のほかに「リゾート列車の車両(ディーゼル車)」2両の新製が触れられていた[4]。その後、デザイン案の公開と列車愛称の公募が開業前の2015年1月から行われ[5]、同年7月に愛称が決定[6]、2016年に車両が落成し3月24日から翌日にかけ甲種輸送された。
愛称の「雪月花」は白居易の詩に使われた、雪・月・花という自然の美しい景物を指し、転じて日本の美意識を象徴する語に由来する。選定理由については「夜桜の春、山と海を体感できる夏、紅葉と収穫の秋、雪景色の冬など四季明瞭な沿線の折々の景色を愛で地元の旬の食材が堪能できる極上リゾート車両をイメージした名称」とされている。
車両(ET122形1000番台)
本車両は川西康之率いる株式会社イチバンセン/ネクストステーションズによりデザインされた。なお、彼はトキてつの車両・サイン類のトータルデザインを手掛けてはいるが、単なる塗装デザインに留まらない、基本設計も含めた鉄道車両のデザインを行うのは本車が初めてであった。
本車両はジョイフルトレインとしては珍しく完全な新造車として落成している。ただし、トキてつが保有する日本海ひすいライン向け一般型車両ET122形基本番台と機器類・性能をはじめとした多くの部分が共通化されたことで、製造・運用コスト削減と取り扱いの容易化が図られている。形式はベース車両となったET122形と同一とされ、1000番台に区分された[7]。
なお、えちごトキめき鉄道は全線で電化されているが、日本海ひすいラインについては経営分離区間の中でも特に輸送密度が低いことに加えて糸魚川駅 - 梶屋敷駅間のデッドセクションを境に以東が直流1500V、以西が交流20kV60Hzと電化方式が異なっており、交直流電車の新造・購入費および維持費などのコストを考慮し気動車で運転していることから、本車両も気動車として製造されている[8]。
トータルコンセプト
デザインコンセプトは「新潟県にしかない観光列車の決定版を創り上げ、全く新しい視点と車窓、五感を楽しむ旅の時間を提供する」である[1]。
また、全国に観光列車が乱立していることを踏まえ、「新潟県ならではのデザイン、雪月花にしかないサービスを提供し、インパクトのある鉄道車両デザイン」が指向されている[1]。
車体はベース車両の両運転台貫通型車両から、前面展望を意識した非貫通の片運転台車両に変化し、国内最大級の展望を確保するべく、車両限界ぎりぎりまで天井高が確保され、側面窓は屋根片部まで伸びている。この側面窓は日本国内最大級の大きさかつ遮熱性も備えたUVカットガラス(紫外線透過率0.01%以下)を用いている。外部塗装は「銀朱色」をベースとし、新潟の四季や「雪月花」をモチーフとした意匠が施された。内装は和モダンを基調とした「一等車クラスの居住性」を持つ内装となっている。
また、「all made in NIIGATA」を合言葉として、製造を新潟トランシス[9]で行っただけでなく、意匠の多くに新潟産品が使用されている。例えば車内外に使用される金属類(エンブレム・サボ・カーテン留金具など)はすべて燕・三条地域のものであるほか、内装に用いられる木材は村上地域の越後杉や樺桜などの国産木材、デッキ・バー部などの床材は滑り止めも兼ね鉄道車両では史上初となる瓦床材として阿賀野地域の安田瓦が用いられている。
1号車(ET122-1001)
市振・妙高高原方の先頭車で、主に食事なしプランの商品で使用される。内装は「木目が鮮やかな越後杉と豊かな実りの黄金色がモチーフ」であり、越後杉の家具が使用されている。
車内は座席が日本海ひすいライン内で日本海、妙高はねうまライン内で妙高山を向くよう配置されたラウンジ席を主体に構成され、運転室直後のハイデッキ部はフリースペースとなり、全ての乗客が利用できる。また、後位側に設けられたデッキの連結面寄りには車椅子対応の多目的トイレ・男性用トイレ・洗面所を備え、車いす対応座席(ボックス席)も当車に設けられている。
乗降扉は片開き式のものが後位側に配置され、押しボタン式の半自動扱いが可能となっている。
定員は23名である。
2号車(ET122-1002)
直江津方の先頭車で、レストラン車両としての使用を念頭に、ブナ材の家具を用いた落ち着いた風合いの内装となっている。
車内は日本海・妙高山側から1+2配列のテーブル付きボックスシート(2名がけ・4名がけ各3卓)を基本とし、運転室直後のハイデッキ部については定員4名のコンパートメント(1卓)となっている。また、客室後位側にはカフェ・バー「さくらラウンジ」を設けており、すべての乗客が利用可能である。
1号車同様、乗降扉は片開き式のものが後位側に配置され、押しボタン式の半自動扱いが可能となっており、付近にLED行き先表示器も装備している。
定員は22名である。
機器類
先述の通り機器類はET122形基本番台と共通化されており、最高速度100km/hでの運転も可能である。
走行機関としては過給機および吸気冷却装置付きのコマツ製SA6D140HE-2 (450ps/2,100rpm) を1台搭載する。このほか空調装置などのサービス用電源装置として、エンジンの駆動力を利用した発電機と整流装置が搭載されている。空気圧縮機はベルト駆動式 (C600) である。
台車は、円錐積層ゴム式軸箱支持方式を採用したボルスタレス台車である。前位寄りには2軸駆動式の動力台車(NF08D)、後位寄りには付随台車(NF08T)を配置する。ブレーキは機関ブレーキ・排気ブレーキ併用電気指令式空気ブレーキが採用されており、台車ごとの制御が行われるほか滑走防止機能を持つ。基礎ブレーキ装置は動軸が踏面ユニットブレーキ、従軸がディスクブレーキと踏面ユニットブレーキの併用となっている。
冷房装置も基本番台と同様、集中分散式のものを各車2台搭載するが、客室部の天井高を確保するため、2台とも後位側車端部(デッキ・便洗面所やバーカウンターのスペース)に集中配置されている。
運転台についても基本番台に準じた左側に主幹制御器、右側にブレーキのハンドルを配置した、横軸2ハンドル仕様であるが、非貫通型となったことなどにより若干レイアウトが中央に移動している。運転台には車両情報制御システムとして搭載されているTICSのモニターも搭載されている。保安装置については基本番台と同様ATS-Psのほか、近隣では北越急行ほくほく線などで使用されるATS-Pも搭載し、広範囲の運用を考慮している。
運行
列車はすべて旅行商品として設定され、乗車の際は電話による事前予約が必要である。
プランは食事なしのプランと食事つきのプランの2種が設定されている。いずれも1人から予約可能であるが、1人の場合原則1号車へ案内される[10]。また、2016年8月6日の運行よりプランを問わず外部からの食品の持ち込みは基本的に禁止されている[11]。
2016年度は土曜・休日中心に上越妙高駅 - 糸魚川駅間で1日1往復運転している。往路は上越妙高駅から一旦妙高高原駅に向かい、途中二本木駅で2回ともスイッチバックを体験する。直江津駅で進行方向を変えたのち、途中名立駅に停車して糸魚川へ向かう。なお、名立駅の停車に関しては桜の開花期間中は能生駅に変更する予定である旨がアナウンスされていた。一方復路は糸魚川駅を発車後直接直江津駅へ向かい、上越妙高駅を通過し二本木駅でスイッチバックを体験したのち、妙高高原駅を経由、そのまま二本木駅を通過して上越妙高駅へ向かう。
途中下車は原則としてできないが、妙高高原駅での往路への乗車、復路からの下車が可能である。なお往路・復路は別商品として発売されているため、続けての乗車時はそれぞれ予約が必要である。なお、予約した乗車日当日は乗車証の提示でえちごトキめき鉄道全線が無料で乗車可能となる。
なお、2016年度冬季(12月~2月)については一日一便(糸魚川駅→上越妙高駅)の運行となり、高田駅で下車しての「雁木ツアー」や二本木駅見学を含むAコースと能生駅などでの下車を含み(高田は停車するが「雁木ツアー」はなし)、二本木駅へは立ち寄らず、上越妙高駅へ向かうBコースが設定される予定である。いずれのコースでも妙高高原までは入線しない。また、悪天候の場合、AコースをBコースに振り替えて運行する場合がある旨が発表されている。
なお、雪月花はドア扱いなどを運転士が行うワンマン運転を行うが、食事の提供などを行う「アテンダント」、観光案内などを行う「専属車掌」がそれぞれ乗務する。
食事
食事つきプランの場合、往路・復路で異なった弁当が提供される。往路はミシュランガイド東京二つ星シェフ飯塚隆太(十日町市出身)監修、ホテル・センチュリーイカヤ[12](直江津)調製のフレンチ、復路は鶴来家(糸魚川)監修・調整の和食、となっている。
このほか、「さくらラウンジ」では沿線の地酒・ワインなどをはじめとするアルコール・ソフトドリンク類や食事なしプランの客向けに弁当、おつまみセットが提供されるほか、ウェルカムドリンク、食後のコーヒーのサービスがある。
このほか、各停車駅では駅弁の販売が行われ、これらについては車内への持ち込みが可能となっている。
脚注
- ^ a b c えちごトキめきリゾート雪月花 [ET-122 1001-1002]|受賞対象一覧] - 日本産業デザイン振興会
- ^ “ウッドデザイン賞2016 建築・空間・建材・部材分野 受賞作品一覧” (PDF). ウッドデザイン賞運営事務局 (2016年10月24日). 2016年11月17日閲覧。
- ^ “2016 //DFA Design for Asia Awards - Category Awards Winner Silver Award”. Hong Kong Design Centre(香港設計中心). 2016年11月17日閲覧。
- ^ “えちごトキめき鉄道経営基本計画” (PDF). えちごトキめき鉄道. 2015年1月23日閲覧。
- ^ リゾート列車 愛称名募集 - えちごトキめき鉄道(2015年1月16日付)2015年1月16日閲覧
- ^ 新型リゾート列車の愛称名が決定しました - えちごトキめき鉄道(2015年7月24日付)2015年7月24日閲覧
- ^ ET122形のベースとなったJR西日本キハ122形には系列として本番台と同様片運転台のキハ127系があるが、「ET127」の形式は既に同社のET127系電車の電動車に用いられている。
- ^ なお、経営基本計画においては「ほくほく線やしなの鉄道、大糸線など他社線への乗り入れも含め運行ルートなど様々な検討を進めます」との記載がある。うち大糸線は糸魚川から南小谷までが非電化である。
- ^ ET122形基本番台およびそのベースであるJR西日本キハ122・127形も全車新潟トランシス製造である。
- ^ “食事付きコースの提供座席について” (PDF). えちごトキめき鉄道 (2016年5月31日). 2016年11月17日閲覧。
- ^ “飲食物のお持ち込みについて” (PDF). えちごトキめき鉄道 (2016年5月31日). 2016年11月17日閲覧。
- ^ 「~イカヤ」は2008年春まで直江津駅で駅弁の調製・販売を行っていた。
関連項目
外部リンク
- えちごトキめき鉄道
- 雪月花公式ウェブサイト(えちごトキめき鉄道)
- えちごトキめきリゾート 雪月花 - 株式会社イチバンセン/ネクストステーションズによる作品紹介