JR東日本719系電車
719系電車(719けいでんしゃ)は、東日本旅客鉄道(JR東日本)の交流近郊形電車である。
JR東日本719系電車 | |
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719系0番台 H-38編成 | |
基本情報 | |
製造所 |
東急車輛製造(0番台) 日本車輌製造(5000番台) |
主要諸元 | |
編成 | 2両 (1M1T) |
軌間 |
1,067mm(0番台) 1,435mm(5000番台) |
電気方式 | 交流20,000V (50Hz) |
最高運転速度 | 110 km/h |
起動加速度 | 2.0 km/h/s |
編成定員 | 273名 |
編成重量 | 73.5t(0番台)72.0t(5000番台) |
最大寸法 (長・幅・高) | 20,000 × 2,966 × 4,086 (mm) |
車体 | ステンレス |
主電動機 | 整流子電動機(他励方式) |
駆動方式 | 中空軸平行カルダン駆動方式 |
歯車比 | 85:14 (6.07) |
制御装置 | サイリスタ位相制御 |
制動装置 |
回生ブレーキ併用電気指令式空気ブレーキ 抑速ブレーキ・耐雪ブレーキ付き |
保安装置 |
0番台:ATS-Ps 5000番台:ATS-P |
概要
1980年代後半のJR東日本仙台支社管内普通列車には、主に451・453・455・457系急行形電車が充当されていたが、以下の問題があった。
- 車両は1両あたり客用扉が端部2ヶ所設置の上に客室・デッキ間に仕切りがあり、座席はクロスシート主体であったことから、ラッシュ時の混雑に対応しにくくアコモデーションが陳腐化していた。
- 最低の編成組成が3両となることから柔軟な輸送力調整に難点があった。
- 1960年代前半に製造された451・453系は老朽化が深刻化していた、
以上の問題を改善する目的から開発されたのが本系列0番台である。
さらに山形新幹線運転開始による奥羽本線福島 - 山形間1,435mm改軌に対応させて一部仕様変更をした5000番台が開発された。
構造
車体
211系を基本とした半自動機能付き片側3扉のステンレス車体であるが、側面窓配置は211系と異なり扉間窓は大型3枚、戸袋窓は乗務員室と前位扉間と制御車トイレ隣にのみ設置。また室内からの展望に配慮して、前面貫通扉と運転室助士席側の窓を下方に拡大した。
クモハ719形 (Mc) + クハ718形 (Tc') の2両編成を基本とし、最大8両編成まで併結が可能である。分割・併合を容易にするために自動解結装置ならびに電気連結器を装備するほか E721系と併結し相互に救援が可能である。
電源・制御方式
電機子と界磁を個別に制御する他励方式で回生ブレーキが使用可能。
阿武急8100系で実績のあるサイリスタ連続位相制御を採用し、4基の直流主電動機を直列で制御する[1]。
- 本方式は直流電気車に見られる抵抗制御とは異なり、衝動のない滑らかな加速が可能で電力の損失も小さい利点がある。
本系列では主回路電機子の2分割サイリスタブリッジと界磁制御用サイリスタブリッジを個別に配置する他励方式(分巻方式)を採用した。
- 通常の電車に用いられる直流電動機は、電機子と界磁を直列に配置する直巻整流子電動機が用いられるが、本系列では電機子と分巻界磁を個別に連続制御し、回生ブレーキの使用を可能とする構成である。ただし、起動から力行に至る特性では直巻方式が有利であるため直巻電動機と同様の特性を持つように界磁側を制御する(直巻制御)。
制御用に16ビットマイクロコンピュータを搭載しており、力行時は直巻制御するほか界磁独立制御により35%弱め界磁 ・回生ブレーキ・抑速ブレーキの制御を行う。
主回路の整流装置はダイオードを併用しない全サイリスタとしており、回生ブレーキ使用時にはモーターが発する直流を交流に変換するインバータとして動作する。
設備
座席配置はセミクロスシートだが、クロスシート部分は特異な「集団見合い型」の配置である。シートピッチは4人掛けの区画が1,490mm、2人掛けの区画が845mm。集団見合い型の固定式座席にすることで、転換式の標準寸法(910mm)よりもシートピッチを詰めて配置した。
車内は淡いクリーム色の化粧板、あずき色の座席モケット、薄茶色の床材(5000番台車はクリーム色)という暖色系カラースキームを採用。また、従来仙台地区で運用されていた417系や717系0・100番台と同様に乗降口脇にガラス製風防が設置される。
番台区分別解説
- ※本項では落成順に解説を行う。
0番台
仙台支社管内(東北本線・利府線・仙山線・磐越西線・常磐線)用に全車東急車輛製造が新製した番台区分。仙台車両センターに2両編成42本計84両が配置され、H-1 - H42の編成番号が付与された。
本番台区分は以下の特徴を持ち落成した。
- 台車は急行形電車の廃車発生品からDT32形・TR69形を再用。
- 駅ホーム高さが低い路線で運用されるために客用扉にステップを設置。
- 車体帯色は上から赤+白+緑15号。
- 車両前面方向幕は字幕式、側面はLED式。
- 集電装置はPS16系菱形パンタグラフで廃車された交直流車からの再用。
- 保安装置はATS-SN形を搭載。
また運用開始後に以下の機器追加搭載・変更を施工した。
- 後述する5000番台ともに優先席付近のつり革をE721系と同等の△黄色タイプへ交換。
パンタグラフ
- スリ板は当初の交直流用4列から舟体ごと交流用2列に交換。
- H-10 - H-18・H-26・H-28編成はシングルアーム式へ交換ならびにスカートを5000番台と同形状の排雪性能を強化したタイプへ換装。
ATS
- 2003年(平成15年)末までに郡山工場(現・郡山総合車両センター)でATS-Ps形に換装。
- 仙山線・磐越西線運用車に搭載。
- 同装置は仙台車両センター宮城野派出所所属仙石線用205系同様に運転席右側に設置。駅接近時に停車・通過判別を表示する[2]。列車現在地検知は台車に装着されたセンサーで走行距離をカウントするもので空転した場合の距離検知誤差を手動補正する機能を内蔵する。
磐越西線運用車(H-10 - H-15編成)
- 側面帯を赤色と黒色に、正面は黒帯のみとし、正面貫通扉・客用扉横に福島県会津地方のマスコットキャラクター「あかべぇ」のステッカーを貼付。
5000番台
奥羽本線標準軌区間(福島 - 新庄 通称:山形線)普通列車用でJRグループ初の在来線標準軌車両としての番台区分。1991年に日本車輌製造で2両編成12本計24両を新製。山形車両センターに配置され編成番号Y-1 - Y-12が付与された。
0番台に対して以下の相違点がある。
- 標準軌用ボルスタレス台車DT60形・TR245形を装着。
- パンタグラフを下枠交差式に変更
- 客用扉ステップは未設置。
- 車体帯色は上からオレンジ(紅花色)+白+緑15号。
- 緊急停止装置(EB)ならびに緊急列車防護装置(TE)を搭載。
- 保安装置はATS-P形を搭載。
2002年以降はパンタグラフをシングルアーム式に換装ならびにスカートが排雪性能を強化した形状に変更されたほか、Y-1 - Y-6編成はワンマン運転対応改造を施工。運賃箱・運賃表示器・整理券発行器・自動放送装置・ドアチャイムなどの関連機器が搭載され、運転席・助士席直後の座席を撤去した。
700番台
コンセプトを「走るカフェ」としたレストラン列車「フルーティアふくしま[3]」へ充当させるため0番台H-27編成に郡山総合車両センターで2014年に施工した改造による番台区分である[4][5]。2015年に実施された福島デスティネーションキャンペーンに合わせて、同年4月25日より運転を開始した。
改造後も引き続き仙台車両センターに配置されるが、編成番号はS-27に変更された。またカフェカウンター車となるクシ718形制御全室食堂車の形式記号「クシ」は日本国有鉄道(国鉄)を通じても初となる形式記号である。
- クモハ719-27+クハ718-27→クモハ719-701+クシ718-701
施工内容
- 車体[4]
- 塗装変更。
- 側面客用扉3箇所のうち、運転席寄り1箇所を残して埋込。さらに隙間から雪の侵入を防ぐ対策を施工。
- クモハ719形のパンタグラフをシングルアーム式に交換。
- 客用扉埋め込みによるドアステップ廃止に伴い台枠形状を変更[4]。
- 車内[4]
- クモハ719-701(Mc 座席車)は以下の仕様変更を実施[4]。
- 4人掛けボックスシート6組・2人掛けボックスシート4組・1人掛けシート4席の座席定員36名へ変更。
- 乗務員室後部に荷物置場を設置。
- 後位側車端部にフリースペースとベンチを設置。
- 消費電力を約30%削減したLED照明を採用。
- クシ718-701(TDc カフェカウンター車)は以下の仕様変更を実施[4]。
- 車体左側に天板を人工大理石としたカフェカウンターを設置。
- カウンター後位側にカウンター席6席を設置。ただし定員は0名である。
- 車内照明は間接式ならびにダウンライトを採用。
- トイレは温水洗浄便座付き洋式に交換の上で新たにパウダールームを設置。
運用線区
2017年現在以下の線区で運用される。
- 0番台
- 普通列車運用に充当[6]。
- 普通ならびに快速列車運用に充当。
- 過去の運用区間
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- 仙山線:仙台 - 山形
- 2013年3月16日ダイヤ改正でE721系に置換え充当終了。
- 2017年3月4日ダイヤ改正でE721系に置換え充当終了。
- 5000番台
- 普通列車運用に充当。板谷峠が介在する福島 - 米沢間の普通列車はすべて本系列で運転。
- 700番台
- 磐越西線:郡山 - 会津若松[11]
- フルーティアふくしま1号 - 4号:主に春 - 秋期に定期列車へ0番台と併結される形で午前と午後に1往復ずつ運転。
- 東北本線:郡山 - 仙台
- フルーティアふくしま91号・92号:主に冬期に臨時列車として郡山発午前・仙台発午後で運転。
- 常磐線:原ノ町 - 仙台
置き換えによる淘汰
719系は汽車ホームに対応するために出入り口にステップを設置しているが、現状ではバリアフリーに対処できないため、早期淘汰の対象になった。
- H-21・H-23・H-24・H-29・H-32・H-33編成:E721系1000番台への置換えにより2016年11月 - 2017年3月までに廃車[13]
- H-10・H-13編成:秋田車両センターへ転出[13]
残存33編成計66両は700番台との併結目的から引き続き充当される磐越西線運用車の一部を除き順次置換え予定である[14]。
脚注
- ^ 変圧器の2次側にサイリスタブリッジによる整流装置を配置し、モーターの電圧を連続制御する。
- ^ 一部編成は通過表示灯を黒いビニールテープで隠匿する。
- ^ 「フルーティア」(FruiTea)は英語で果物を意味するfruitと茶を意味するteaを組み合わせた造語。
- ^ a b c d e f 「719系『フルーティア』」『鉄道ファン』2015年6月号(通巻650)、交友社、ISBN 4910064590651{{ISBN2}}のパラメータエラー: 無効なISBNです。。
- ^ “福島県にオリジナルスイーツとくつろぎの時間が楽しめる新しい列車がデビューします〜走るカフェ「フルーティア」〜” (PDF). 東日本旅客鉄道仙台支社 (2014年11月27日). 2015年3月4日閲覧。
- ^ 2017年3月4日ダイヤ改正以前は快速「仙台シティラビット」運用にも充当。
- ^ “719系2両が盛岡車両センターへ”. 鉄道ニュース (交友社). (2011年10月17日) 2015年6月30日閲覧。
- ^ このほか盛岡支社管内へは2011年10月に盛岡車両センターへの入線実績がある[7]。
- ^ このため方向幕には改軌後も名残で上ノ山(現・かみのやま温泉)や米沢などが存在したが、2016年現在では常磐線や東日本大震災に対応させるため書き換えられ存在しない。
- ^ “磐越西線でE721系の運転開始”. 交友社『鉄道ファン』railf.jp 鉄道ニュース (2017年3月8日). 2017年3月9日閲覧。
- ^ “フルーティアふくしま”. 東日本旅客鉄道株式会社 仙台支社. 2015年6月30日閲覧。
- ^ 常磐線(相馬〜浜吉田)運転再開記念 特別企画「『フルーティアふくしま』で行く常磐線スイーツの旅」の発売について - 2016年11月10日 東日本旅客鉄道 仙台支社プレスリリース
- ^ a b 交友社『鉄道ファン』2017年7月号 「JR旅客会社車両配置表」
- ^ E721系 1000代新造車両の投入について (PDF) JR東日本 仙台支社 2016年5月26日