ニッコロ・カスティリオーニ
ニッコロ・カスティリオーニ(Niccolò Castiglioni、1932年-1996年)は、イタリアの現代音楽の作曲家。
略歴
出生後、まもなく高機能自閉症と小児麻痺を抱える事が判明。両親は心配しピアノを与えたところ、どんな曲でも瞬時に記憶し(これはサヴァン症に近い)、自作の曲を書き出したことから音楽学校を紹介され入学。ピアノと作曲の両面で頭角を現し、ピアニストとしても超一流だったが、現代音楽の作曲家を希望。ジョルジョ・フェデリコ・ゲディーニ、ボリス・ブラッハー、フリードリヒ・グルダほかに師事。
UNESCO国際作曲家会議で立て続けに入賞したかと思うと、ダルムシュタット夏期講習会でピアノソロでデビュー。以後、ポストセリーと新古典が折衷したような作風で話題を集めるが、次第に逸脱し、アメリカのポップアートに感化された不条理音楽を次々と発表した。一例を挙げると「オルガニストと(群衆)のための戦争と愛の交響曲」では一小節ごとに全く別の音楽が次々と接合された挙句、群衆は舞台に乱入する。「マスク」は曲の無作為な展開を奏者が「反省」するため、最後に別室でハ長調の作品を演奏して「謝罪」する。「ハ調のシンフォニア」はゲネラルパウゼをルイジ・ノーノよりも先駆けて乱用し、「この作曲家は狂っている」と本気で問い詰められ作曲を一時中断。
彼が行った多くの発明は1990年代以後にはジョン・ゾーンが模倣するなど全くもって正統な現代音楽の試みの延長にあったものだったが、あまりにも先駆的な音楽は当時の聴衆を困惑させ、自身もバッシングにあった後作風を転向せざるを得なかった。もともと新古典からポストセリーの書式は完璧に身につけていたため、その書式の枠内で定期的に作品を生み出すことは可能だった。クラリネットとピアノのための「ダレト」では、スペクトル楽派の流行にも答え、反復語法を鮮やかにピアノパートに投影している。その時期に多くの弟子を育てたが、健康の悪化とともに彼に就く弟子の数も減っていった。
晩年は十二音技法で作曲を行ったが、「子供用の音楽」から引用する癖は終生変わらず、誰にでも親しみやすい芸風は最後まで維持していた。1996年に闘病生活の末、没。最晩年の心境を物語る佳品に、ピアノソロのための「He」、「前奏曲、コラールとフーガ」、弦楽四重奏のための「ロマンス」がある。器楽曲で一世を風靡した印象が強いが、声楽を含む作品も定期的に書き続けていた。
作風
ブルーノ・マデルナの放送オペラ「ドン・ペルリンプリン」に見られるように複数の音楽様式を一曲ごとに独立させるのではなく、カスティリョーニは複数の音楽様式を分断または同時に進行させる技法を放送オペラ「鏡の国のアリス(1961)」で導入したことが彼の名声を決定的にした。多様式主義が世界を席巻する四半世紀前の出来事であった。
全創作時期を通じて、どの書式下においても、響きが濁らなかった。高次倍音や金属音を多用する性癖はサルヴァトーレ・シャリーノに受け継がれ、沈黙の多用は前述の通りルイジ・ノーノに受け継がれた。演奏家の演奏以外の動作を多用する一連の「不条理」系の楽曲は、1977年以降のカールハインツ・シュトックハウゼンに確実に大きな影響を与えた。子供の出す音から発想する方法も、1990年代にジョルジョ・ネッティが実行に移している。実質的なカスティリオーニの継承者は、最も成功したステファーノ・ジェルヴァゾーニであると考えられている。噴水の流れるさまを見て、それをそのまま音形にし、なおかつ水が流れるような印象を与えるピアノ曲を作曲したこともある。楽譜に見られる彼自作のイラストや落書きをそのまま掲載する趣向も、スウェーデンの作曲家アンスガー・ベステはそのまま継承している。このように、発明家としての側面は確かに大きいが、衒学的にならず、誰にでも親しめる調性音楽がベースにあった事が、彼への信頼を確実にした。
作曲当時異端視された一連の「不条理」楽曲も、師のボリス・ブラッハーですら「抽象オペラ」を作曲しており、マウリツィオ・カーゲルは電気掃除機まで「二人の人間のためのオーケストラ」で登場させ、同時代の流行であったと考えるのが妥当である。しかし、カスティリオーニの作品はその中においても異質で不条理に見えた理由は、楽曲構成が彼らと比べても完全に切断されていたためだと見られている。現在においても一連の不条理作品は音源化すらされておらず、当時を生きた人間しか知らない「封印作品」のようになっている。
カムバック後の作品は「普通の作品」のように見えるので、没後の今も演奏機会には恵まれている。その証拠にピアノ作品CDは、3人のピアニストで別々のレーベルからリリースされている。
エピソード
カールハインツ・シュトックハウゼン国際作曲コンクールにピアノ曲SWEET(これは今は「三つの小品(1978)」と改題されている)を出品、優勝したこともあった。カムバック後の第一作は正確にはピアノと小オーケストラのための「クオドリベット(1976)」だが、この受賞で公式に復帰した。カスティリオーニをいかなる局面でも支援し続けたのは、ピアニスト兼作曲家のリチャード・トライザルとシュトックハウゼンである。
格言
カスティリョー二は「Inverno In-Ver」の最終楽章で次の格言を残した。「Il rumore non fa bene. Il bene non fa rumore.」[1]
主要作品
- Concertino per la notte di Natale per orchestra (1952)
- Uomini e no, opera, dal romanzo omonimo di Elio Vittorini (1955)
- Inizio di movimento per pianoforte (1958)
- Aprèslude per orchestra (1959)
- Cangianti per pianoforte (1959)
- Tropi per flauto, clarinetto, violino, violoncello, pianoforte e percussione (1959)
- Eine kleine Weihnachtsmusik per orchestra da camera (1960)
- Consonante per flauto e 9 strumenti (1962)
- Gyro per coro e 9 strumenti, testo dal Libro dei proverbi (1963)
- Quodlibet (da Figure, testo di Thomas Moore da Utopia) per soprano solo (1965)
- Ode per 2 pianoforti, percussione e fiati (1966)
- Inverno In-Ver, undici poesie musicali per piccola orchestra (1973)[2]
- Quodlibet piccolo concerto per pianoforte e orchestra da camera (1976)
- Dickinson-Lieder per soprano e piccola orchestra, testi di Emily Dickinson (anche in versione per soprano e pianoforte, 1977)
- Quilisma per pianoforte e quartetto d'archi (1977)
- Tre pezzi per pianoforte (1978)
- Beth per clarinetto e 5 strumenti (1979)
- Daleth sonatina per clarinetto e pianoforte (1979)
- Oberon, The Fairy Prince, opera in un atto (1981 al Teatro La Fenice diretta da Gianluigi Gelmetti)
- The Lords' Masque, opera in un atto, libretto di Thomas Campion (1981 al Teatro La Fenice di Venezia)
- Fiori di ghiaccio, concerto per pianoforte e orchestra (1983)
- Come io passo l'estate - Suite per pianisti principianti per pianoforte (1983)
- Dulce refrigerium - Sechs geistliche Lieder fuer Klavier per pianoforte (1984)
- Sonatina per pianoforte (1984)
- Das Reh im Wald per pianoforte (1988)
- Hymne per 12 voci (1988/89)
- Risognanze per 16 strumenti (1989)
- In principio era la danza per pianoforte (1989)
- Cantus planus - Prima Pars per 2 soprani e 7 strumenti (1990)
- He per pianoforte (1990)
- Cantus planus - Secunda Pars per 2 soprani e 7 strumenti (1991)
- Intonazione per flauto, oboe, violino e violoncello (1992)
- Missa Brevis versione per coro e organo ad uso degli ostrogoti di Milano (1993)
- Ottetto per strumenti a fiato (1993)
- Preludio, corale e fuga per pianoforte (1994)
- Abendlied per soprano e piccola orchestra (1995)
- Canto per coro misto, testo di Bernardo di Chiaravalle (1996)
ディスコグラフィー
カスティリョーニがドイツで研鑽を積んでいたこともあって、col-legnoやneosからのリリースが見られる。これらは殆どが没後のリリースであり、再評価が進んでいる。
- Niccolò Castiglioni, Piano Music - MSV CD92089
- Quilisma - WWE 1CD 20253
- Cangianti - WWE 1CD 20274
- Le Favole Di Esopo etc. - NEOS 11031
- La Buranella, Altisonanza, Salmo XIX - CHAN 10858
- Cantus Planus I etc. - STR 33437
- Castiglioni - Gutman 1952 - STR 37064
- Inverno in-ver - STR 57003
- Piano works - BRIL 9167
脚注
参考文献
- Geraci, Antonino. 2001. "Castiglioni, Niccolò". The New Grove Dictionary of Music and Musicians, second edition, edited by Stanley Sadie and John Tyrrell. London: Macmillan Publishers.
- Bra Böckers lexikon, 1973
- サントリーサマーフェスティバル:「Inverno In-ver」の日本初演時のパンフレット
- Arditti QUartet Edition: From Italy・ライナーノート