炊飯器
炊飯器(すいはんき)とは、米を炊いてごはんを調理するための機械。

概要
家庭用の物では電気式(電気炊飯器)が主流である。ガス式(ガス炊飯器)もあり、それぞれ電気釜・ガス釜ともいう。業務用ではライス・ボイラーといわれる大型のものや、洗米から炊飯までこなす全自動炊飯器なるものまで多様な種類が存在する。
電機式・家庭用の、いわゆる白物家電に属する炊飯器は、かつては日本国内でのみ製造・販売・消費されていたが、日本食ブームに乗って欧米へ、またアジア諸国の米飯を食べる地域でも家庭所得の増大と省力化の波に乗って輸出・後に現地生産されるようになっている。
2000年代頃から日本国内では、炊飯器でスープや肉じゃがなどの煮込み料理を調理する事が消費者の間で流行し、炊飯器だけで調理できるレシピを収録した書籍も刊行されている。しかし使用する機種によっては内釜や炊飯器本体を痛める可能性も有るので、調理の際には注意が必要である。特に釜内側にテフロン加工をしてある機種では、中に瀬戸物の食器を入れて調理する際に、このテフロン加工に傷が付くおそれがある。また内釜に焦げ付きが出来たり、内部のパッキングが傷む・匂いが染み付いて炊飯時に臭いが残る等のトラブルも聞かれる(当然、炊飯以外の用途に使った場合の故障には、後述のヨーグルトやパン作りもできる物を除いて、無料修理保証は適用されない)。
大きさ・価格など
一般家庭用としては、小は単身者用の1合(180ミリリットル)程度のものから、大は10合(1.8リットル=1升)程度まであり、価格は5千円~5万円程度まで広く存在する。同じ容量で値段の安いものは電熱ヒーターで内釜を加熱するマイコン式と呼ばれるものであるが、値段の高いものは、より高熱を発することのできるIH式が採用され、さらには内釜に熱伝導率の高い銅などの金属を張り合わせたり、高圧をかけてより高温(120℃程度まで)で炊飯したり、ご飯のうまみ成分を釜内部に戻したりして、よりおいしいご飯が炊ける機能を持つ。
飲食店などの業務用は、ほとんどの場合ガス炊飯器やガスを使った大型の機械で(電気では200ボルトの動力線が必要になり、時間がかかる上に水気の多い厨房では感電や漏電などの危険が大きい)、数十合(数升=数リットル)を一度に炊ける容量を持つ。こちらは炊き上がりよりも所要時間の短縮に注力される場合が多い。
歴史
家庭用の電気炊飯器は、初期のものは単にヒーターで加熱し一定温度になると切れる、という至ってシンプルな構造のものであったが、この当時では外気温の影響を受けやすい(加えて日本では四季により季節の寒暖の差が激しい)ことから、各メーカーは試行錯誤を繰り返していた。この段階ではおひつの中に電熱線を入れ込んだ試作機すら見られた。
最初に製品化に漕ぎ付けたのは東芝で、自動式電気釜という名で1955年に製品化している。「二重釜間接炊き」という方法を採用することで、炊飯中に常時見張っていなくても、炊き上がったら自動的にスイッチが切れる機能を備え、睡眠中の時間帯に炊飯し、朝起きたら既に炊き上がりの状態に出来るよう、好きな時間にセットすれば自動的にスイッチが入るタイムスイッチも併売された。これらの機能によるスイッチひとつで炊飯できる手軽さの実現によって大ヒット商品となった。後に松下電器も1956年に電気炊飯器を製品化している。松下電器製のものは鍋と釜を二層構造とする事で、比較的外気温に影響されない炊飯が可能であった(この方式を二層形電気釜という。その後二層形は炊飯に時間がかかることや消費電力が大きい欠点があり、1960年代以降は次第に廃れていった)。
これらの登場によって、従来、家庭において洗米から水張り・火加減を行って、最後におひつに釜から移すという主婦の作業を軽減させる事にもつながり、洗濯機と並んで日本の家庭の必需品とまでなっている。1960年代を通してタイマーにより前夜にセットしておけば、早朝に炊飯する手間が省ける機能の内蔵や、保温機能を備えた機種が登場、普及を見せた。
1980年代よりマイコン制御を取り入れる機種が登場して多機能化(時計を内蔵し、タイマー設定も2つまで記憶できるなど)も進み、1990年代にはマイコンによる各種機能によって好みの炊き加減(硬い、柔らかいなど)が選択出来るように成った他、玄米や麦飯など、健康ブームにも関連して、様々な食品が調理できるものも登場している。中には蒸し器としても利用できる機種もある。
なお1980年代末には早くもIH方式による加熱を採用した機種も登場したが、これらでは様々な設定の組み合わせて加熱を細かく制御する事により、よりおいしいご飯が炊けるような工夫をしている。高価な機種では1.2気圧~1.7気圧程度の圧力を加えたり、スチーム加熱などの機能を備えている事が多い。
付加機能
炊飯機能だけでなく保温機能も備えている炊飯器を炊飯ジャー、ジャー炊飯器等と呼ぶ事がある。1980年代以降の電気式はこれが大半であり、ガス式でも電気による保温機能を備えているものがある。
普通のごはんだけでなく、おこわやお粥、無洗米なども美味しく炊けるような付加価値をつけているものも多数あり、さらに機種によってはパンを焼き上げる機能やヨーグルトの発酵に適した温度をキープする機能なども付加されている場合もあり、最近になって急速に多機能化が進んでいると言える。
海外から見た日本の炊飯器
東南アジアなど米食を主体とする海外でも、電気炊飯器が製造・販売されているが、価格競争のため単純な炊飯機能のみの単機能モデルがほとんどである。
このため、日本に観光目的でやってくる高所得者層から出稼ぎでやってくる労働者まで、上手に美味しく炊ける日本国内向けの多機能炊飯器を土産に選ぶケースも多いが、日本国内では販売されている炊飯器はほぼ全て100V専用品のため電圧の差などの関係で日本国外ではそのまま使用できないケースもあり、注意が必要である。
また、これらの炊飯器は、日本の粘り気のある米(ジャポニカ米)を炊くために最適化されており、特にインディカ米(タイなど東南アジアなどで広く栽培されている長粒種)をこれで炊くと、美味しく炊けない場合が多い。これは1993年米騒動の際に日本の消費者にも広く知られることとなったが、この問題では炊飯器が古くからの伝統的な食生活を崩していると見る者もいる。
インディカ米は元々、鍋で沸騰させた湯に投じて茹で、煮上がった所で湯を切って蒸らすという調理法を取る。これは日本の水加減を調節するやりかたとの違いが大きいが、これを炊飯器で再現させる事が難しい。このためインディカ米を日本の米と同じように(やや水を多めにして)炊く事となるが、伝統的な調理法と比べると、どうしても風味が違ってしまうようだ。特にチャーハンのように炒めて食べる場合には、炊飯器を使うと、出来た飯の炊け具合が良くない(表面がベタベタする)と言われて居る。