新世界秩序
新世界秩序(しんせかいちつじょ、New World Order、略称:NWO)とは、国際政治学の用語としては、ポスト冷戦体制の国際秩序を指す[1]。また陰謀論として、将来的に現在の主権独立国家体制を取り替えるとされている、世界政府のパワーエリートをトップとする、地球レベルでの政治・経済・金融・社会政策の統一、究極的には末端の個人レベルでの思想や行動の統制・統御を目的とする管理社会の実現を指すものとしても使われる。
概要
New World Orderという用語自体は第一次世界大戦後頃から英米の政治家によって多用されるようになった。公式で確認されている中でも、国際連盟の設立とベルサイユ体制の構築によって大国間の勢力均衡が大きく変化したことを指して時のアメリカ大統領ウッドロウ・ウィルソンが新世界秩序という用語を使っている。その後、第二次世界大戦の悲惨な帰結を見たイギリス首相ウィンストン・チャーチルが破滅的な世界大戦を避けるには国民主権国家を廃絶し世界政府の管理による恒久的な平和体制の実現が不可欠であるとして、この言葉を使った。
SF小説家で歴史家としても著名なH.G.ウェルズは国家の存在を認める国際連盟を批判し、主権国家の完全な根絶と、高級技術官僚や少数のエリートによる世界統一政府を通じた地球管理を訴え、1940年に『新世界秩序』(New World Order)を出版しその持論を述べた。
ビル・クリントンの大学時代の恩師で、戦略国際問題研究所の拠点・ジョージタウン大学国際学部教授のキャロル・キグリーは1966年に1,300ページにも及ぶ大著『悲劇と希望』(Tragedy and Hope)を出版し、新世界秩序の世界像を書いている。キグリーはこの著書の中で各国の文明史・政治史を詳細に分析し、1648年以降のウェストファリア体制 (独立した主権国家同士による勢力均衡体制) を『悲劇』とし、イギリス・アメリカを拠点とする国際金融資本による世界統治を『希望』として描いた。この著書は出版当初はほとんど反響はなかったが、後に陰謀史観のコミュニティに大きな影響を与えた。
この用語が陰謀史観のコミュニティだけではなく一般にも広く知られるようになったのは、1988年12月7日に時のソビエト連邦共産党書記長ミハイル・ゴルバチョフが、全世界に向けて行った国連演説がきっかけである。また1990年9月11日に時のアメリカ大統領ジョージ・H・W・ブッシュが湾岸戦争前に連邦議会で行った『新世界秩序へ向けて(Toward a New World Order)』というスピーチでアメリカでも有名になった。下記は1991年3月6日の『新世界秩序(New World Order)』というスピーチの一部の抜粋。
Until now, the world we’ve known has been a world divided—a world of barbed wire and concrete block, conflict and cold war. Now, we can see a new world coming into view. A world in which there is the very real prospect of a new world order. In the words of Winston Churchill, a "world order" in which "the principles of justice and fair play ... protect the weak against the strong ..." A world where the United Nations, freed from cold war stalemate, is poised to fulfill the historic vision of its founders. A world in which freedom and respect for human rights find a home among all nations. 今日まで我々が知っていた世界とは、分断された世界―有刺鉄線とコンクリートブロック、対立と冷戦の世界でした。今、我々は新世界への到達を目にしています。まさに真の新世界秩序という可能性です。ウィンストン・チャーチルの言葉で言えば、"正義と公正の原理により弱者が強者から守られる世界秩序"です。国連が、冷戦という行き詰まりから解放され、その創設者の歴史観を貫徹する準備の出来た世界、自由と人権の尊重が全ての国家において見出せる世界です。
その他に、ヘンリー・キッシンジャー、ビル・クリントン、トニー・ブレア、ゴードン・ブラウン、ジョージ・ソロス、デイビッド・ロックフェラーなどがこの語を使ったことで知られる。
2013年4月5日には、アメリカのジョー・バイデン副大統領が、アメリカ輸出入銀行(Export‐Import Bank of the United States)で開かれた会議で、
The affirmative task we have now, is to actually create a new world order, because the global order is changing again… …世界秩序が再び変わりつつある中で、我々が今抱えている肯定的な課題は、実際に新世界秩序を創造することである。
と発言した。
陰謀論としての新世界秩序
前述の著書の影響から、新世界秩序をアングロサクソンによる帝国主義国家だと主張する陰謀論者もいる。
陰謀論では、その世界政府の成立はクーデターのような目に見える形ではなく、段階的に成し遂げられるものとされており、国際連合を頂点とする国際通貨基金、世界銀行による金融的な支配、欧州連合などの地域統合を名目した国家主権の段階的な廃止、NAFTAやTPPなどの自由貿易体制を通じた人と資本の移動自由化による経済的な国境の廃止、または地球温暖化や世界金融危機など世界レベルの取り組みが不可欠であるという、いわゆる「グローバルな問題」を創り出し宣伝することによって国家の廃絶が必要であるという世論の形成を通じて行われるとされる。
関連項目
- 類似概念
- グローバリゼーション - 陰謀史観では、新世界秩序に代わるものとされる[4]。21世紀に入り、新世界秩序という言葉がトンデモにされるにつれて、その代用として使われることが多くなった。
脚注
- ^ Goldberg, Robert Alan (2001). Enemies Within: The Culture of Conspiracy in Modern America. Yale University Press. ISBN 0-300-09000-5
- ^ Lewis and Short, A Latin Dictionary: Founded on Andrews' Edition of Freund's Latin Dictionary: Revised, Enlarged, and in Great Part Rewritten by Charlton T. Lewis, Ph.D. and Charles Short, LL.D. The Clarendon Press, Oxford, 1879, s. vv.
- ^ “Novus Ordo Seclorum - Origin and Meaning of the Motto Beneath the American Pyramid”. GreatSeal.com. 2018年4月30日閲覧。
- ^ 辻隆太朗「世界の陰謀論を読み解く ユダヤ・フリーメーソン・イルミナティ」講談社現代新書、2012年2月