戦略的互恵関係
戦略的互恵関係(せんりゃくてきごけいかんけい)とは、外務省の説明によると、「日中両国がアジア及び世界に対して厳粛な責任を負うとの認識の下、国際社会に共に貢献する中で、お互い利益を得て共通利益を拡大し、日中関係を発展させること」である[1]。 小泉政権下で冷え込んだ日中関係の仕切り直しとして、2006年10月に初外遊で中国を訪問した安倍晋三内閣総理大臣と中国の胡錦濤国家主席の首脳会談に基づく8年ぶりの共同文書「日中共同プレス発表」で合意された概念である。当時の麻生太郎外務大臣が外務省にこの概念を提出して安倍の訪中を後押ししたとされる[2]。
概要
安倍政権を引き継いだ福田康夫政権で発表された『「戦略的互恵関係」の包括的推進に関する日中共同声明』の中では、具体例として以下の点が示されている[3]。
この声明は知日派の胡錦濤の思惑もあったとされるが、「パートナーであり、互いに脅威とならない」とする文を盛り込み、1980年代以降必ず全ての日中共同文書に記載されていた歴史問題への言及はない点で特徴的だった。
安倍・福田政権を引き継いだ麻生内閣は価値観外交を保ちつつ、中国との関係においては「価値」の代わりをなす「共益」の拡大を真の戦略的互恵関係と位置づけた[4]。
また、第2次安倍内閣で自民党が政権に返り咲いてからも、安倍首相は日中首脳会談で戦略的互恵関係を日中関係の基礎と度々強調している[5][6][7]。親中派の二階俊博を自民党総務会長や自民党幹事長など自民党の重役に登用している背景も戦略的互恵関係の重視とされ、中国の掲げる一帯一路をテーマとした一帯一路国際協力サミットフォーラムに出席する二階幹事長に託した親書の他[8]、同じく中国と独自のパイプを持つ与党・公明党の山口那津男代表に託した親書[9]でも戦略的互恵関係に触れ、自民党・公明党と中国共産党の間で行われている日中与党交流協議会での共同提言の中でも戦略的互恵関係が言及されている[10]。田中派の流れを汲む二階幹事長との関係について、福田派の流れを汲む安倍は日中CEOサミットで「田中角栄先生と福田赳夫先生は当時の自民党で激しく争ったが(角福戦争)、二人とも日中関係を開くことは日本や地域のためになると確信した。今日も私は二階先生と一緒だ」と述べている[11]。
日中国交正常化45周年記念行事に、二階幹事長とともに首相として15年ぶりに出席した安倍首相は、戦略的互恵関係に基づいて日中関係を発展させることを表明し[12]、10年ぶり[13]に日中首相間で交換された李克強国務院総理への祝電でも戦略的互恵関係を重視した[14]。2017年11月、習近平国家主席や李総理といった中国の首脳と第三国で立て続けに会うという極めて異例の会談を行った際も、安倍首相は戦略的互恵関係に基づいて経済協力や朝鮮半島問題での連携で一致した[15][16][17]。二階は2017年12月での訪中で中国共産党中央党校で講演した際に、戦略的互恵関係をさらに「共創」に格上げすることを提唱した[18]。また、「大国である中国と、それを追う日本が協力し、時に競争することも必要」とも述べている[19]。
経済界では、経団連会長の榊原定征が「戦略的互恵関係に民間の立場から貢献する」[20]と述べて、日中CEOサミットでの共同声明には一帯一路への協力とともに「日中間の戦略的互恵関係の継続的な発展に資する取り組みを推進していく」と盛り込まれた[21]。日本政府は軍事利用されかねない港湾開発を対象外に指定しつつ一帯一路に関する日中民間経済協力指針を策定し[22][23][24]、2018年5月9日の李克強首相と安倍首相の会談で一帯一路に関する第三国でのインフラ整備協力を具体化させる官民委員会や官民フォーラムなどの官民協議体の設置で合意し[25][26]、同年10月には日本の首相では7年ぶりである安倍首相の中国への公式訪問で第三国でのインフラ共同投資や人工知能[27]のような先端技術分野などで52件の協力文書が官民で交わされた[28]。また、安倍首相は「競争から協調へ」「お互いパートナーとして脅威にならない」「自由で公正な貿易体制の発展」の日中新時代3原則を打ち出した[29]。
参考文献
- ^ 外務省: 中華人民共和国
- ^ 麻生首相の対中外交 戦略的位置づけがより明確に
- ^ 外務省:「戦略的互恵関係」の包括的推進に関する日中共同声明
- ^ “麻生首相の対中外交 戦略的位置づけがより明確に”. 人民網. (2008年12月7日) 2017年5月17日閲覧。
- ^ “日中首脳会談”. 外務省. (2014年11月10日) 2017年9月29日閲覧。
- ^ “日中首脳会談”. 外務省. (2016年9月5日) 2017年9月29日閲覧。
- ^ “日中首脳会談”. 外務省. (2017年7月8日) 2017年9月29日閲覧。
- ^ “日中「シャトル外交」提案…習主席に首相親書”. 読売新聞. (2017年5月17日) 2017年5月17日閲覧。
- ^ “習近平総書記へ安倍首相の親書を手渡し「まるで朝貢」”. 産経ニュース. (2013年1月26日) 2017年9月29日閲覧。
- ^ “「一帯一路」積極的に協力 日中与党協議会が共同提言”. 産経新聞 (産経新聞社). (2017年8月9日) 2017年12月29日閲覧。
- ^ “安倍晋三首相、田中角栄元首相引き合いに中国との関係改善に意欲 「新たな段階へ」”. 産経ニュース. (2017年12月4日) 2017年12月9日閲覧。
- ^ “安倍首相、首脳相互訪問に意欲=中国大使館行事で”. 時事通信 (時事通信社). (2017年9月28日) 2017年9月29日閲覧。
- ^ “日中首相、10年ぶり祝電交換 国交正常化45周年記念式典”. 日経新聞 (日本経済新聞社). (2017年9月29日) 2017年9月29日閲覧。
- ^ “日中国交正常化45周年に関する日中両国首脳・外相間の祝電の交換”. 外務省. (2017年9月29日) 2017年9月29日閲覧。
- ^ “日中首脳、異例の「連続会談」 朝鮮半島非核化の認識共有”. 産経新聞. (2017年11月14日) 2017年11月17日閲覧。
- ^ “日中首脳会談”. 外務省. (2017年11月13日) 2017年11月22日閲覧。
- ^ “日中首脳会談”. 外務省. (2017年11月11日) 2017年11月22日閲覧。
- ^ “互恵から共創へ 二階氏、新たな日中関係提唱”. 日本経済新聞. (2017年12月28日) 2017年12月29日閲覧。
- ^ “「中国と協力、競争を」 二階氏、曽元副首相と会談”. 産経新聞. (2017年12月27日) 2017年12月29日閲覧。
- ^ “榊原経団連会長、日中対話で「戦略的互恵関係に貢献」”. 日本経済新聞. (2013年1月26日) 2017年12月5日閲覧。
- ^ “第3回日中企業家及び元政府高官対話 共同声明”. 経団連. (2013年1月26日) 2017年12月5日閲覧。
- ^ “日本政府:「一帯一路」民間協力指針 ビジネス後押し”. 毎日新聞. (2017年12月4日) 2017年12月5日閲覧。
- ^ “政府、「一帯一路」民間協力を支援 省エネなど3分野例示”. SankeiBiz. (2017年12月8日) 2017年12月29日閲覧。
- ^ “「一帯一路」へ協力指針 環境など3分野 金融支援検討”. 日本経済新聞. (2017年12月6日) 2017年12月29日閲覧。
- ^ “李克強・中国国務院総理の訪日 日中首脳会談及び晩餐会”. 外務省. (2018年5月9日) 2018年5月21日閲覧。
- ^ “日中首相会談の要旨”. 日本経済新聞. (2018年5月9日) 2018年5月21日閲覧。
- ^ “日中両政府 知財、先端技術で新対話創設 トランプ米政権から反発恐れも”. フジサンケイ ビジネスアイ. (2018年10月27日) 2018年11月4日閲覧。
- ^ “日中:第三国開発、52件協力”. 毎日新聞. (2018年10月27日) 2018年10月27日閲覧。
- ^ “日中新時代へ3原則 首脳会談「競争から協調」”. 日本経済新聞. (2018年10月26日) 2018年10月27日閲覧。