エナガ
エナガ(柄長、学名:Aegithalos caudatus)は、スズメ目エナガ科エナガ属に分類される鳥類の一種[4][5]。エナガ科は世界で7種類が知られる。
エナガ | |||||||||||||||||||||||||||
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![]() コウライシマエナガ Aegithalos caudatus caudatus
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保全状況評価[1] | |||||||||||||||||||||||||||
LEAST CONCERN (IUCN Red List Ver.3.1 (2001)) | |||||||||||||||||||||||||||
分類 | |||||||||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||||||||
Aegithalos caudatus (Linnaeus, 1758)[2][3] | |||||||||||||||||||||||||||
和名 | |||||||||||||||||||||||||||
エナガ | |||||||||||||||||||||||||||
英名 | |||||||||||||||||||||||||||
Long-tailed Tit[2] Long-tailed Bushtit[3] | |||||||||||||||||||||||||||
亜種 | |||||||||||||||||||||||||||
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![]() 各亜種の分布域
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分布
形態
体長は約14 cm[5][6](12.5-14.5 cm)、翼開長は約16 cm[6][7]。体重は5.5-9.5 g。左記体長には長い尾羽を含むので、尾羽を含めない身体はスズメ(体重約24 g[8])と比べるとずいぶん小さい[6]。
黒いくちばしは小さく[9]、首が短く丸い体に長い尾羽がついた小鳥である[10]。目の上の眉斑がそのまま背中まで太く黒い模様になっており、翼と尾も黒い。肩のあたりと尾の下はうすい褐色で、額と胸から腹にかけて白い。雌雄同形同色で外観上の区別はできない[5][10]。羽毛は薄褐色の初列風切が10枚で野外では黒く見え、次列風切りが6枚で重ねると黒く見え、3列風切が3枚で他の風切羽より褐色味が強く、尾羽は6枚で内側3枚は黒色、外側3枚は黒色に白色の模様が混じる[11]。
学名は、長い尾をもつカラ類を意味する[12]。和名は極端に長い尾(全長14 cmに対して尾の長さが7-8 cm)を柄の長い柄杓に例えたこと由来し[6]、江戸時代には「柄長柄杓(えながひしゃく)」、「柄柄杓(えびしゃく)」、「尾長柄杓(おながひしゃく)」、「柄長鳥(えながどり)」などとも呼ばれていた[8][12]。
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尾羽が長いのが特徴
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飛行中の様子
生態
おもに平地から山地にかけての林に生息するが[6]、木の多い公園や街路樹の上などでもみることができる。山地上部にいた個体が越冬のため低地の里山に降りてくることがある[9]。
繁殖期は群れの中につがいで小さな縄張りを持つ[5][13]。非繁殖期も小さな群れをつくるが、シジュウカラ、ヤマガラ、ヒガラ、メジロ、コゲラなどの違う種の小鳥と混群することも多い[6]。エナガはその混群の先導を行う[8]。また、非繁殖期にはねぐらとなる木の枝に並列し、小さなからだを寄せ合って集団で眠る習性がある[6]。街中の街路樹がねぐらとなることもあり、ねぐらとなった街路樹は夕方にはたくさんのエナガの鳴き声でザワザワと騒がしくなり木の下にはフンがたくさん落とされることになる。地鳴きで仲間を確認しながら、群れで雑木林の中を動き回る[9]。
木の枝先などで小さな昆虫類、幼虫、クモを食べ、特にアブラムシを好みホバリングしながら捕食することもある[5]。また、草の種子、木の実なども食べ[5]、樹皮から染み出る樹液を吸うこともある[6]。
3月ごろから繁殖期に入りつがいとなって、樹木の枝や幹のまたに、苔をクモの糸で丸くまとめた袋状の精巧な巣を作る[6]。このため巧婦鳥(たくみどり)と呼ばれることもあった[12]。1腹7-12個の卵を産む。4月には雛が見られることがある[7]。産座には大量の羽毛が敷きつめられる[6]。抱卵期間は12-14日で、日中は雌のみが抱卵し夜は雄も抱卵を行う[6]。雛は14-17日で巣立ちする。つがい以外の繁殖に失敗した雄が育雛に参加することもあり[6][10][14]、シジュウカラの育雛にも参加する例が確認されている[15]。雛が無事に育つ確率は低く、原因は悪天候やカラス、イタチ、ヘビに巣の卵や雛が捕食されることなどが主な原因である[16]。
さえずりは、「チーチー」、「ツリリ」、「ジュリリ」[6]。地鳴きは「チュリリ」、「ジュリリ」[6]。猛禽類のハイタカ、ツミ、モズなどにより捕食されることがあり、これらの外敵を察知すると警戒発声を行う[17]。
分類
亜種
ユーラシア大陸を横断するように分布するエナガ(Aegithalos caudatus)は、以下の亜種に分類されている[18]。日本には4亜種が分布する。
- A. c. caudatus (Linnaeus, 1758) - コウライシマエナガ(島柄長)、ヨーロッパ北部と東部からシベリアにかけてと、韓国、日本の北海道に分布する。稀に本州北部で観察されることがある[8]。頭部全体が白く、幼鳥には他の亜種の成鳥のように過眼線(淡い眉斑[10])があり、成鳥には黒い過眼線がない[6]。シノニムが、A. c. japonicus。北海道とサハリンなどに分布するものを亜種シマエナガ(A. c. japonicus)とされることもある[19]。
- A. c. rosaceus Mathews, 1938 - ブリテン諸島に分布する。
- A. c. europaeus (Hermann, 1804) - フランス北東部とドイツからイタリア北部とトルコにかけて分布する。
- A. c. aremoricus Whistler, 1929 - フランス西部に分布する。
- A. c. taiti Ingram, W, 1913 - フランス南西部と南部からスペイン中部とポルトガルにかけて分布する。
- A. c. irbii (Sharpe & Dresser, 1871) - スペイン南部、ポルトガル、コルシカ島に分布する。
- A. c. italiae Jourdain, 1910 - イタリア中部と南部、スロベニア北西部に分布する。
- A. c. siculus (Whitaker, 1901) - シチリア島に分布する。
- A. c. macedonicus (Dresser, 1892) - アルバニアとギリシャからブルガリアとトルコ北西部にかけて分布する。
- A. c. tephronotus (Gunther, 1865) - ギアシア東部からトルコ中部、イラク北部、シリアにかけて分布する。
- A. c. tauricus (Menzbier, 1903) - クリミア半島に分布する。
- A. c. major (Radde, 1884) - トルコ北東部とコーカサスに分布する。
- A. c. alpinus (Hablizl, 1783) - アゼルバイジャン南東部、イラン北部、トルクメニスタン南西部に分布する。
- A. c. trivirgatus (Temminck & Schlegel, 1848) - エナガ、日本の本州に分布する[20]。稀に北海道南部で観察されることがある[8]。
- A. c. kiusiuensis Kuroda[21], 1923 - キュウシュウエナガ、日本の四国と九州に分布し、亜種エナガとの形態の相違はほとんどない[20]。
- A. c. magnus (Clark, AH, 1907) - チョウセンエナガ、韓国中部と南部、対馬、隠岐諸島、佐渡島に分布し、、亜種エナガとの形態の相違はほとんどない[20]。
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A. c. caudatus
コウライシマエナガ -
A. c. japonicus
シマエナガ -
A. c. rosaceus
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A. c. europaeus
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A. c. irbii
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A. c. trivirgatus
エナガ
種の保全状況評価
国際自然保護連合(IUCN)により、2004年からレッドリストの軽度懸念(LC)の指定を受けている[1]。個体数は安定傾向にある[1]。
エナガ属
エナガ属(エナガぞく、学名:Aegithalos Hermann, 1804 )は、スズメ目エナガ科に分類される鳥類の一属[3]。以下の種が知られている[2]。
- A. caudatus (Linnaeus, 1758) - エナガ、英名:Long-tailed Tit、ユーラシア大陸に広く分布する。
- A. glaucogularis (Moore, F, 1855) - 英名:Silver-throated Bushtit、ヨーロッパと中国中部、北東部、東中部に分布する。
- A. leucogenys (Moore, F, 1854) - ホオジロエナガ、英名:White-cheeked Bushtit、ヨーロッパ南中央部に分布する。
- A. concinnus (Guld, 1855) - ズアカエナガ、英名:Black-throated Bushtit、ヒマラヤからベトナムにかけて分布する。
- A. niveogularis (Gould, 1855) - ノドジロヤマガラモドキ、英名:White-throated Bushtit、ヒマラヤ北西部に分布する。
- A. iouschistos (Blyth, 1845) - ヤマガラモドキ、英名:Rufous-fronted Bushtit、ヒマラヤの中部と東部に分布する。
- A. bonvaloti (Oustalet, 1892) - 英名:Black-browed Bushtit、ミャンマー北東部から中国にかけて分布する。
- A. sharpei (Rippon, 1904) - 英名:Burmese Bushtit、ミャンマー南西部に分布する。
- A. fuliginosus (Verreaux, J, 1869) - ギンガオエナガ、英名:Sooty Bushtit、中国の北中部に分布する。
- A. exilis (Temminck, 1836) - ジャワエナガ、英名:Pygmy Bushtit、インドネシアの固有種でジャワ島西部にのみ分布する。エナガ属の中で最も小型で、分布の固有性とサイズから、系統学的分析がなされるまでは別の属と考えられていた[25]。
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A. caudatus
エナガ -
A. glaucogularis
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A. leucogenys
ホオジロエナガ -
A. concinnus
ズアカエナガ -
A. niveogularis
ノドジロヤマガラモドキ -
A. iouschistos
ヤマガラモドキ -
A. fuliginosus
ギンガオエナガ -
A. exilis
ジャワエナガ
脚注
- ^ a b c “Aegithalos caudatus (Long-tailed Bushtit, Long-tailed Tit) in IUCN Red List of Threatened Species. Version 2014.3” (英語). 国際自然保護連合(IUCN). 2015年2月4日閲覧。
- ^ a b c “IOC World Bird List VERSION 9.2” (英語). 国際鳥類学会議(IOC). 2019年6月27日閲覧。
- ^ a b c “Aegithalos Hermann, 1804” (英語). ITIS. 2012年10月25日閲覧。
- ^ “日本鳥類目録 改訂第7版”. 日本鳥学会 (2012年9月15日). 2013年10月24日閲覧。
- ^ a b c d e f g h 叶内 (2006)、520頁
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o 中川 (2010)、204頁
- ^ a b 叶内 (2006/3)、158頁
- ^ a b c d e 大橋 (2007)、34-35頁
- ^ a b c 高木 (2000)、110-111頁
- ^ a b c d 真木 (2012)、213頁
- ^ 高田 (2008)、73頁
- ^ a b c 国松 (1995)、142頁
- ^ 中村 (1972)、464頁
- ^ 上野 (2001)、83頁
- ^ 生田 (1989)、282-283頁
- ^ 赤塚 (2005)、51-57頁
- ^ 赤塚 (2005)、63頁
- ^ “IOC World Bird List 3.5 (Old World Warblers)” (英語). 国際鳥類学会議(IOC). 2013年10月24日閲覧。
- ^ 新鞍彩子 (2005年8月28日). “エナガの亜種にみられる形態的変異” (PDF). 日本進化学会. pp. 120. 2013年10月25日閲覧。
- ^ a b c 叶内 (2006)、521頁
- ^ 黒田長礼(1889-1978)鳥類学者 もしくは 黒田徳米(1886-1987)貝類学者
- ^ “日本のレッドデータ検索システム「エナガ」”. (エンビジョン環境保全事務局). 2015年2月4日閲覧。 - 「都道府県指定状況を一覧表で表示」をクリックすると、出典元の各都道府県のレッドデータブックのカテゴリー名が一覧表示される。
- ^ “東京都の保護上重要な野生生物種(本土部)2010年版” (PDF). 東京都. pp. 50 (2010年). 2013年10月24日閲覧。
- ^ “埼玉県レッドデータブック2008動物編” (PDF). 埼玉県. pp. 104 (2008年). 2013年10月24日閲覧。
- ^ Ulf S. Johansson; Per G. P. Ericson; Jon Fjeldså; Martin Irestedt (2016-07-01). “The phylogenetic position of the world's smallest passerine, the Pygmy Bushtit Psaltria exilis” (英語). international journal of avian science (British Ornithologists' Union) 158 (3): 519-529. doi:10.1111/ibi.12377.
参考文献
- 赤塚隆幸「エナガの卵や巣内ビナの捕食者」(PDF)『野外鳥類学論文集 Strix』第23巻、日本野鳥の会、2005年、NAID 40006706765。
- 赤塚隆幸「冬期のエナガの捕食者とそれに対する警戒反応」(PDF)『野外鳥類学論文集 Strix』第23巻、日本野鳥の会、2005年、NAID 40006706766。
- 生田実「シジュウカラとエナガの共同育雛」『野外鳥類学論文集 Strix』第8巻、日本野鳥の会、1989年。
- 上野吉雄、佐藤英樹「広島県沿岸部におけるエナガ Aegithalos caudatus のつがい形成と冬季群形成」『日本鳥学会誌』第50巻第2号、日本鳥学会、2001年5月31日、NAID 10007421554。
- 大橋弘一『庭で楽しむ野鳥の本』山と溪谷社、2007年11月1日。ISBN 978-4635596190。
- 叶内拓哉、安部直哉『山溪ハンディ図鑑7 日本の野鳥』(第2版)山と溪谷社、2006年10月1日。ISBN 4635070077。
- 叶内拓哉『絵解きで野鳥が識別できる本』文一総合出版、2006年3月。ISBN 978-4829901717。
- 国松俊英『名前といわれ 日本の野鳥図鑑1 野山の鳥』偕成社、1995年4月。ISBN 4035293601。
- 黒田長久監修 C.M.ペリンズ、A.L.A.ミドルトン編 『動物大百科9 鳥III』、平凡社、1986年、158頁。
- 高木清和『フィールドのための野鳥図鑑-野山の鳥』山と溪谷社、2000年8月。ISBN 4635063313。
- 高田勝、叶内拓哉『野鳥の羽ハンドブック』文一総合出版、2008年11月11日。ISBN 978-4829910146。
- 中川雄三(監修) 編『ひと目でわかる野鳥』成美堂出版、2010年1月。ISBN 978-4415305325。
- 中村登流「エナガの個体群の行動圏構造II 繁殖期の行動圏とテリトリアリズム」『山階鳥類研究所研究報告』第6巻第5-6号、山階鳥類研究所、1972年12月、NAID 40018555668。
- 真木広造『名前がわかる野鳥大図鑑』永岡書店、2012年4月10日。ISBN 978-4522430866。
関連項目
外部リンク
- 中村登流「エナガの蕃殖期生活の観察」『山階鳥類研究所研究報告』第3巻第3号、山階鳥類研究所、1962年12月、NAID 40018555831。
- エナガの巣作り NHK for School
- エナガ (日本野鳥の会)
- Northern Long-tailed Tit (Aegithalos caudatus) (Linnaeus, 1758) (バードライフ・インターナショナル)