神社非宗教論

政教分離に関する日本の政策(1882–1951)・政治理論

これはこのページの過去の版です。JuthaDDA (会話 | 投稿記録) による 2021年4月10日 (土) 08:25個人設定で未設定ならUTC)時点の版 (タグ修正。)であり、現在の版とは大きく異なる場合があります。

神社非宗教論(じんじゃひしゅうきょうろん)とは、明治政府による政教分離原則により生じた議論、又は今泉定介によって書かれた書籍のこと。本項では前者を扱う。

明治憲法成立までの過程

明治維新により成立した、明治政府は1868年に太政官達により神仏分離令を出し、廃仏毀釈が起こる。また「五榜の掲示」にキリシタン禁制とあるのが確認される。1869年に設けられた公議所の議論で、神道の国教化路線が決定され、神道に関する神祇官は太政官から独立したが、1871年には神祇省に格下げされ1872年には神祇官が廃止され、教部省が新たに仏教・神道ともに管掌することとなった。国民を教化する職責として教導職制度が設置され、教導職の教育機関として大教院が設置された。しかし1872年、浄土真宗本願寺派の島地黙雷は三条教則批判建白書を提出し、1875年1月には真宗4派が大教院離脱を内示するなど紛糾し、同5月に大教院は解散した[1]

1874年には仏教・神道の中での宗派選択の自由が、1875年には信教の自由が保障された。1882年内務省通達により、神社は宗教ではないとされた(神社非宗教論)。1889年に大日本帝国憲法第28条で「日本臣民ハ安寧秩序ヲ妨ケス及臣民タルノ義務ニ背カサル限ニ於テ信教ノ自由ヲ有ス」と記載された[1]

神祇官復興運動

1887年頃から神祇官復興運動という運動が生じる。この運動発生の理由は、当時は宗教に含まれていなかった府県社以下(小規模神社)が大日本帝国憲法において宗教に含まれるという噂が流れ始める(結局単なる噂であった)。 これにより府県社以下の神主達は、神社国家宗祀とされているのに、その公共性の空文化(何の役にも立たない文章)が決定的になるという危機感をいだき、葬儀などをしなければ宗教ではないとして 葬儀布教、説教の放棄(つまり非宗教の受容)を徹底しはじめる。 さらにこの運動により1900年には、内務省社寺局が宗教局と神社局に分離、神社非宗教論が政府の公的見解となるに至った。これにより、神社は内務省の所管となり、それ以外の宗教は文部省の所管になるに至った[2]

神社問題

教育勅語の取扱いが徹底され、学校制度の確立により小学校から大学までの教育機関が成立し始める、大正時代になると神社問題が生じた。小学校の神社参拝を通じて、行政と神社の結びつきがあるとキリスト教などから「神社崇敬は宗教行為ではないのか」と問題提起が生じるに至った。この問題を受けて、1916年に設置された文部省宗教制度調査会などでも議論されキリスト教浄土真宗などを初めとしていた神社宗教論に憲法学者なども同調し始めるに至った。これらにより政府は神社非宗教論を維持するのが難しくなった[3]

1929年に設置された内務省神社制度調査会が開かれ、幹事会で神社非宗教論の見直しが検討され「神道を宗教と認めても、政府は神道を国教として特別扱いできるのでは」と、まとまりかけたが、今まで非宗教と言い切ってしまっていた手前、下の委員会ではなかなか議論が収束しなかった[3]

1932年に上智大学事件という事件が生じる。上智大学で講義中に将校が靖国参拝を提案するが、キリスト教学生から参拝を拒否する声が上がり、これに憤慨した将校が授業拒否してしまい、困った上智大学は文部省に「参拝は宗教行為か?」と質問するに至った。 文部省は「参拝は宗教的意義はなく、愛国心の表明」と回答。 上智大学ジャン・アレキシス・シャンボン大司教は、これを受けてカトリックの参拝を承認。そして、その報告をローマ枢機卿へ送る。1937年にこれに対し、バチカンローマ教皇ピウス11世が「神社参拝は宗教行為ではない」と承認するに至った[3]

終結

1939年宗教団体法が成立したことによって、立法府は法的には神社非宗教論を放棄した。しかしながら、神社の行政上の管轄は内務省側にあり、1940年には神祇院が設置され、世間に対しては神社非宗教論を維持していた。そのため、法律上及び行政上において矛盾をはらんでいた。

第二次世界大戦後、GHQの発した神道指令によって、1946年神社制度調査会が「行政整理実施ノ為ニスル内務省官制中改正等ノ件(昭和21年勅令第59号)」により、神祇院などと共に廃止された。1947年には内務省が解体され、宗教法人法が成立し、法律上及び行政上においての神社非宗教論は終結した。

関連項目

脚注

出典

  1. ^ a b 國學院大學日本文化研究所『神道事典』弘文堂、1999年5月、第三部 制度・機関・行政 第3章 近代・現代頁。 
  2. ^ 西田広義『明治維新神道百年史』神道文化会、1984年10月、第4巻頁。 
  3. ^ a b c 河村忠伸『近現代神道の法制的研究』弘文堂、2017年3月、第一編 国家の宗祀と公認神社 第一章 神社行政における「国家ノ宗祀」頁。 

参考文献

書籍
  • 行政
  • 学術
    • 國學院大学日本文化研究所編・著『神道事典』、弘文堂、1999年5月。ISBN 978-4-335-16033-2
    • 川村忠伸『近現代神道の法制的研究』、弘文堂、2017年3月。ISBN 978-4-335-16085-1
    • 神道文化会著『明治維新神道百年史』、神道文化会、1984年10月。 国立国会図書館書誌ID:000001773770
論文
  • 新田, 均「神道非宗教論の発生ー神社非宗教論再考序説」『法と秩序』101号、法と秩序研究会、1988年5月、22-28頁、NAID 120006864447 
  • 新田, 均「最近の動向を踏まえた『国家神道』研究の再整理」『宗教法』32号、宗教法学会、2013年10月、21-44頁、NAID 120006779224