DHMO
英: dihydrogen monoxide)とは、化学式 H2O で表される水素と酸素の化合物であり、日本語で表現すれば一酸化二水素、すなわち水そのものである。
(ディー・エイチ・エム・オー、
これは水であることを敢えて分かりにくくして危険な化学物質であるかのように錯覚させるため、元素の構成に基づく化合物名として表現したものである。科学論文などでこの表現が使われることはまずなく、心理実験やジョークのひとつとして使われる。
概要
1965年に公開された日米合作映画『怪獣大戦争』の台詞「酸化水素?なんだ、水のことじゃないか」など、水を難解に表現して相手を煙に巻く表現は昔から存在する。
DHMOの名称は、1990年にアメリカのカリフォルニア大学サンタクルーズ校でルームメイトのエリック・レヒナーとラース・ノーフェン、マシュー・カウフマンらが考案し、1994年に同校の学生のクレイグ・ジャクソンは改訂して世界で初めてDHMOのジョークサイト「DHMO.org」を開設した。
1997年にアイダホ州で14歳の中学生ネイサン・ゾナーが、「人間はいかにだまされやすいか?」[1]の調査に用いてDHMOは広く知られた。この調査は50人を対象に「DHMOは、水酸の一種であり、常温で液体の物質である」「DHMOは、溶媒や冷媒などによく用いられる」など被験者にとって非日常的な科学技術用語を用いて水を解説し、毒性や性質について否定的かつ感情的な言葉で説明を加えたのち、「この物質は法で規制すべきか」と質問した。結果は43人が賛成、6人が回答を留保、DHMOが水であることを見抜いたのは1人であった。
のちにインターネット上でDHMOの危険性をもっともらしく訴えるウェブサイトが数多く作成され、2003年にカリフォルニア州のアリソ・ビエホ市の議会で、ウェブサイトのジョークを真に受けた担当者らがDHMO規制の決議を試みたが、DHMOがジョークと判明して採決は中止された[2]。
2013年にフロリダ州のラジオ局がエイプリルフールのジョーク企画で、水道管に満たされているDHMOの危険性について放送すると、水道局に問合せが殺到し、ラジオ局は謝罪して番組の司会者2人を謹慎処分した[3]。
DHMOの解説例
DHMOの解説は、視点をかなり限定した水の性質を並列し、聞き手に否定的な印象を与えるように工夫されている。
クレイグ・ジャクソンが世界初のDHMOサイトに掲載したジョーク[4]を下記する。原文は英語である点に注意。
DHMOとは、
- 水酸と呼ばれ、酸性雨の主成分である。
- 温室効果を引き起こす。
- 重篤なやけどの原因となり得る。
- 地形の侵食を引き起こす。
- 多くの材料の腐食を進行させ、さび付かせる。
- 電気事故の原因となり、自動車のブレーキの効果を低下させる。
- 末期がん患者の悪性腫瘍から検出される。
その危険性に反して、DHMOは頻繁に用いられている。
- 工業用の溶媒、冷媒として用いられる。
- 原子力発電所で用いられる。
- 発泡スチロールの製造に用いられる。
- 防火剤として用いられる。
- 各種の残酷な動物実験に用いられる。
- 防虫剤の散布に用いられる。洗浄した後も産物はDHMOによる汚染状態のままである。
- 各種のジャンクフードや、その他の食品に添加されている。
溺死を「吸引すると死亡する」と表現した文言[2]などが加えられることもある。これらは全て真実だが、一読では対象が水であることを見抜けず、危険な物質で規制すべきと容易に錯誤される。
脚注
注釈
出典
- ^ 英: How Gullible Are We? “How Gullible are We? A Review of the Evidence from Psychology and Social Science”. Hugo Mercier (2017年6月1日). 2021年1月5日閲覧。
- ^ a b John Roach & Ted Chamberlain (2010年4月2日). “エイプリルフールとインターネット”. ナショナルジオグラフィック ニュース. オリジナルの2014年3月2日時点におけるアーカイブ。 2010年4月4日閲覧。
- ^ “「一酸化二水素」ジョークで、米国のラジオ番組DJが無期限謹慎処分に”. WIRED.jp (2013年5月15日). 2021年1月5日閲覧。
- ^ “Is Dihydrogen Monoxide Dangerous?” (英語). snopes. David Mikkelson (1999年6月22日). 2021年1月5日閲覧。