ぶつかり男

女性など自分より弱そうな人に対してのみ、わざと体当たりをする通り魔男性。

ぶつかり男(ぶつかりおとこ)とは、街中や構内ですれ違いざまにわざと体当たりをしたり、カバンをぶつける[1][2]、殴る蹴るなどの暴行を加えたりする男性のことを指す[3][4][5]。主に女性を標的とする事が多い[6]ぶつかりおじさん[7][8]タックル男[3]体当たり男[6]当たり屋おじさん[5]などとも呼ばれる。

数は少ないが加害者が女性の場合もあり[9]ぶつかりおばさん[10][11]体当たり女[12]ぶつかり女[13]と呼ばれ、加害者が高齢者の場合はぶつかり老人と呼ばれる[14]

2018年5月、新宿駅構内で女性ばかりを狙って次々に体当たりを行う男の動画がTwitterYouTubeなどで拡散されたことで問題が広く認知された(映像:女性に次々ぶつかる男性[15][16][17]。これを受けてJR東日本は迷惑行為として注意喚起を行い、駅員や警備員、警察による警戒を強化した[7][18]。これをきっかけに同様の被害報告が相次いでおり[19][20]、例えば不審者や事件などの治安情報を共有するウェブサイト「ガッコム安全ナビ」において、2016年5月ごろから2025年7月までの間にぶつかり男と思われる事案が100件以上あったという[1]

概要

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加害者は中年男性が多く、被害者は気が弱そう・小柄で反撃しなさそうな人物(男性も含む[16])が標的になりやすいと報じられている[5][6][21]。妊婦やベビーカー利用者が被害に遭う事例もある[22][23]。派手な服装や体格の大きな人物は狙われにくいとされる[6][24][25]。外国人女性が標的となったケースも報告されており、謝罪を求められるといった反撃を受けた事例もある[26][16][27]

手口は意図的な体当たりで[6]、いったん体を引いてから肩で強くぶつかる[28]、肘で突く(肘鉄)、カバンや身体の一部で押し飛ばすなどの行為が含まれる[22][29]。こうした行為は公共交通機関の車内や駅構内など人混みの中で予測しづらいタイミングで行われることが多く[30]、偶発的な接触を装うこともある[16]。加害者は、行為の故意性の曖昧さと、日本社会全体の消極的な姿勢を悪用して攻撃を免れようとし[27][30]、攻撃後すぐに群衆に紛れて姿を消すため、被害者は即座の対応が難しいとされる[15][31]

こうした行為は暴行罪や傷害罪に該当する可能性が高いと指摘されている[28][32]。被害に遭った場合は報復を避け、「わざとぶつかられましたか」と確認、駅員や警察に相談し、防犯カメラ映像の確認を申し入れること[28]、可能であれば証拠映像を撮影して通報することが有効とされる[27]。また、専門家は被害を未然に防ぐための対策として、スマートフォンなどに集中しすぎず周囲に注意を払うことを推奨している[28]

分析

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動機

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体当たりの動機としては、下記が指摘されている[7][6][33]

類型

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2018年5月に放送された『モーニングショー』での特集によると、ぶつかり男は主に以下の4つのパターンに分類されるという[19]

  • 追跡型 - 狙った相手を追跡してぶつかる
  • 因縁型 - 振り返ると仁王立ちしている
  • 我が道型 - 人の流れを無視する
  • 攻撃型 - 足を突き出すなどする

法的責任

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日本の刑法や各地の条例において、通行人等に対して故意に体当たりを行った場合、以下の犯罪に問われる可能性がある[38][39]

  • 暴行罪 - 体当たりという行為自体に対して。
  • 傷害罪 - 相手を負傷させた場合。妊婦が被害に遭った場合には、胎児に対しても傷害罪は適用されうる[40]
  • 迷惑防止条例 - 痴漢目的の場合。
  • 詐欺罪 - 貴重品[注 1]が破損したなどと装い、現金をだまし取った場合。

民事上の損害賠償請求が可能な場合もある[32][31]

逮捕事例

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  • 2020年7月10日、駅構内で十数回のぶつかり行為を行っていた男性が暴行容疑で逮捕された[41][15]
  • 2022年、渋谷・センター街で女性にぶつかり行為を行っていた男性が逮捕された[42]
  • 2025年5月15日、福岡でぶつかり行為を行っていた西南学院大学の59歳の男性准教授が暴行罪で逮捕された[1][43]。男は4月にも同様の容疑で逮捕されており、これで3度目の逮捕だった[27][5]。同年9月1日、福岡区検は「諸般の事情を総合的に考慮した」として男を不起訴とした[44]

見解

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  • 心理学者の桐生正幸は、ぶつかり男の心理として「大きな理由の1つにミソジニー(女性蔑視)が関わっているのではないか」と考察している[1]。対策として、警察への届け出や、「ガッコム安全ナビ」などの不審者情報サイトの活用を推奨しており、「犯罪を未然に防ぐには、これを行えば何らかの罰があるということを広く知らしめることが大切。あおり運転がまさにその代表的な例といえるでしょう。罪が周知され、ぶつかり行為の情報が共有されていけば、加害者にプレッシャーをかけられる可能性があります」と述べている[1]

日本国外での事例

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日本で問題となっている「ぶつかり男(butsukari otoko)」現象は、2025年以降、日本発の加害行為が海外にも波及しているとして海外メディアで報じられている[45][46][36]サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)は2025年5月の記事で、「Japan’s bumping gang(日本発のぶつかり集団)」と表現し、日本で見られる行為と同様の体当たり行為がイギリスロンドンの路上でも報告されていると伝えた[15]。このSCMPの記事は、中央日報朝鮮日報でも引用され、「日本で生まれた現象が海外にも広がっている」と報じられた[47][48]

この現象はBBC[49]デイリー・メール[45]デイリー・ミラー[46]グラマー[36]など複数の欧州メディアでも報じられており、一部の報道では、こうした行為の背景に「インセル(非自発的独身男性)」的な女性蔑視の感情が存在すると指摘されている[45][46][36]

脚注

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注釈

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  1. ^ 例えば、スマートフォン眼鏡、ノートパソコン、タブレット端末、高級腕時計、高級バッグ、ブランド物の高級スーツなど。

出典

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  1. ^ a b c d e ホームや路上で女性にいきなり…「ぶつかり男」は罪に問えるのか?心理と対処法を専門家に聞く《5月には大学准教授が暴行容疑で逮捕》”. 東洋経済オンライン (2025年8月31日). 2025年9月10日閲覧。
  2. ^ 卑劣!すれ違いざまに鞄ぶつけてくる“迷惑男” 偶然装う“微妙な当て方” 5回も狙われた女性が被害届【福岡発】”. FNNプライムオンライン (2025年3月14日). 2025年10月5日閲覧。
  3. ^ a b 吉川ばんび (2018年12月21日). “女性ばかりを狙う「ぶつかりおじさん」は、ストレス社会が生んだモンスターか?”. 文春オンライン. 文藝春秋社. 2020年7月27日閲覧。
  4. ^ タレントの加藤夏希も被害!女性にわざとぶつかり、改札も無視…「ぶつかり男」たちの「ヤバすぎる実態」”. 現代ビジネス. 講談社 (2023年12月30日). 2024年3月18日閲覧。
  5. ^ a b c d 被害女性たちが明かす「ぶつかりおじさん」の恐怖 その悪質な実態が伝わりにくい呼び方にも異論続々「シンプルに暴行犯」「通り魔暴行犯って呼び名でいい」”. マネーポストWEB (2025年8月23日). 2025年9月10日閲覧。
  6. ^ a b c d e f 吉川ばんび (2020年6月9日). “「女性に体当たりする暴走中年」増えた根本原因”. 東洋経済オンライン. 東洋経済新報. 2020年7月27日閲覧。
  7. ^ a b c 日野百草 (2021年10月25日). “帰ってきた「ぶつかりおじさん」やり返せない人が狙われる”. NEWSポストセブン. 小学館. 2021年10月25日閲覧。
  8. ^ 「相手が刃物を持っていたら死んでいた」 見知らぬ「おじさん」から膝蹴り、誰も助けてくれない雑踏の無関心”. 弁護士ドットコム (2024年3月6日). 2024年4月22日閲覧。
  9. ^ 新社会人が戸惑う「どかない系おじさん」 大柄な男性には場所をゆずり、女性が接触すると怒鳴り散らす”. NEWSポストセブン (2024年4月20日). 2025年10月5日閲覧。
  10. ^ 大谷百合絵 (2025年8月30日). “街中に出没する「ぶつかりおじさん/おばさん」の動機は一体なに? 識者は「過剰な正義感を振りかざしている」と指摘”. AERA. 朝日新聞出版. 2025年9月9日閲覧。
  11. ^ 長田コウ (2025年7月9日). “品「ぶつかりおばさん」の執念がヤバい!体当たりを回避したら追いかけてきてリベンジされた女性”. キャリコネニュース. グローバルウェイ. 2025年9月9日閲覧。
  12. ^ イット! (2025年5月30日). “【実態】「ぶつかりおじさん」に「体当たり女」被害経験者は14%で地域別1位は東京都…専門家「報復は過剰防衛にも…駅員・警察に“防カメ映像確認”申し入れを」”. FNNプライムオンライン. フジテレビジョン. 2025年9月9日閲覧。
  13. ^ 長田コウ (2024年12月21日). “品川駅で「肩タックル」してきた“ぶつかりおじさん”を跳ね返す!  筋トレと農業で鍛えた女性の回想”. キャリコネニュース. グローバルウェイ. 2025年9月9日閲覧。
  14. ^ 長田コウ (2025年9月22日). “スーパーで女性を狙う「ぶつかり老人」の末路。思い切りカートをぶつけた相手はまさかの”. 日刊SPA!. 2025年9月24日閲覧。
  15. ^ a b c d Japan ‘bumping gang’ deliberately collides with pedestrians, mostly women, to vent frustrations”. South China Morning Post (2025年5月17日). 2025年9月10日閲覧。
  16. ^ a b c d Butsukari Otoko: The Men Who Purposely Bump Into Women in Japan”. Tokyo Weekender (2025年6月17日). 2025年10月5日閲覧。
  17. ^ a b 新宿「ぶつかり男」 わいせつ目的の可能性!? “わざとぶつかる”心理とは”. AERA (2018年6月8日). 2025年10月5日閲覧。
  18. ^ Shino Tanaka (2018年5月31日). “女性を狙う『ぶつかり男』が新宿駅に出没。JR東日本が警戒「絶対にやめてほしい」”. HUFFPOST. BuzzFeed Japan. 2020年7月27日閲覧。
  19. ^ a b c わざと女性に体当たり、「ぶつかり男」逮捕 新宿駅では現在も被害報告相次ぐ”. WEZZY (2019年9月27日). 2020年7月27日閲覧。
  20. ^ 武田砂鉄 (2021年9月16日). “小田急線刺傷事件、痴漢、セクハラ問題…なぜ「男だって大変」説が支持されるのか”. プレジデントウーマン. プレジデント社. 2021年10月25日閲覧。
  21. ^ 「ぶつかりおじさん」に何度も狙われた女性「小さくて弱い女が吹っ飛ぶのが面白いのだと思う」…被害に備えて空手習う”. 弁護士ドットコム (2024年2月28日). 2025年10月5日閲覧。
  22. ^ a b Mind the gap — and the shoulder checking: Dealing with pushy people in Japan's crowded spaces”. The Japan Times (2025年1月31日). 2025年10月5日閲覧。
  23. ^ 堀北真希さんは「ピンク髪にハデ腕輪」 “強そうな見た目”はベビーカーママの苦肉の自衛策”. 女性セブン (2023年7月18日). 2025年10月5日閲覧。
  24. ^ 女性を狙う体当たり行為、被害を受けなくなった金髪ママの複雑胸中”. マネーポストWEB (2020年2月20日). 2025年10月5日閲覧。
  25. ^ ぶつかりおじさん、ド派手な通勤服で「被害ゼロ」になった女性の証言「彼らは見た目でターゲットを選んでいる」”. 弁護士ドットコム (2024年2月29日). 2025年10月5日閲覧。
  26. ^ 《生態に意外な変化》混雑した駅などに出没する「ぶつかり男」が減少? インバウンドの女性客にぶつかるも逆に詰め寄られ、あわあわしながら去っていく目撃談も”. NEWSポストセブン (2025年3月30日). 2025年10月5日閲覧。
  27. ^ a b c d 'Bumping men' are a uniquely Japanese class of criminals that are hard to deal with”. Japan Today (2025年6月5日). 2025年10月5日閲覧。
  28. ^ a b c d 追跡?通報?全国で相次ぐ“ぶつかり行為”どう対応? 専門家「駅員・警察に“防犯カメラ映像確認”申し入れを」”. FNNプライムオンライン (2025年5月29日). 2025年10月5日閲覧。
  29. ^ 【ぶつかり男だけじゃない】「カバンで腹パン」「手を握ってくる」…駅構内で多発する女性への“物理攻撃”被害者の声”. マネーポストWEB (2024年5月5日). 2025年10月5日閲覧。
  30. ^ a b In Japan werden rücksichtslos umgestoßene Passanten zum Problem”. Sumikai (2025年6月15日). 2025年10月5日閲覧。
  31. ^ a b 東京ドームライブ帰りに「ぶつかりおじさん」被害→女性たちで取り押さえ 負傷女性が語った恐怖の瞬間”. 弁護士ドットコム (2025年8月16日). 2025年10月5日閲覧。
  32. ^ a b 「私が屈強な男性だったら…」電車で後ろから"タックル"、呆然とする女性を威嚇する「ぶつかりおじさん」 対処法は?”. 弁護士ドットコム (2024年3月1日). 2025年10月5日閲覧。
  33. ^ 「私も被害に遭ったことある!」との声多数…「ぶつかり男」たちの言い訳と身勝手さ”. 現代ビジネス. 講談社 (2023年12月30日). 2024年3月18日閲覧。
  34. ^ 「ぶつかり男」の被害に遭って 男性にも必要な「ケアの精神」”. 朝日新聞 (2023年6月12日). 2025年10月5日閲覧。
  35. ^ 女性を狙って体当たり…「ぶつかりオジサン」に必要なのはストレス発散より田舎暮らし?”. 日刊ゲンダイ (2025年8月10日). 2025年10月5日閲覧。
  36. ^ a b c d What is the ‘bumping man’ trend that sees men slamming into women in the street?”. Glamour (2025年7月6日). 2025年10月6日閲覧。
  37. ^ 【独自】恐怖“ぶつかりおじさん”画像入手!「いつもぶつかりやがって」言いがかりつけ急に暴行…被害者は全治2週間のけが 殴られ鎖骨骨折の女性も JR田町駅前 FNNプライムオンライン
  38. ^ 「体当たり男」は犯罪! どのような刑罰に該当するのかを弁護士が解説”. ベリーベスト法律事務所 (2020年2月26日). 2020年7月27日閲覧。
  39. ^ 駅内で「ぶつかりおじさん」と衝突した結果、転倒し骨折しました。相手を捕まえられなかったのですが、治療費は自費になってしまうのでしょうか?”. ファイナンシャルフィールド (2020年3月21日). 2024年4月22日閲覧。
  40. ^ キンタロー。も被害、“ぶつかり男”はどのような罪に問われるのか”. マイナビニュース (2020年2月19日). 2020年7月29日閲覧。
  41. ^ 女性の胸狙う“ぶつかり男”逮捕 容疑否認も過去には「感触が良く十数回やった」”. FNNプライムオンライン (2020年7月10日). 2025年10月5日閲覧。
  42. ^ 全国に出現する「ぶつかり男」 被害者に非はなくとも泣き寝入りせざるを得ない構図”. NEWSポストセブン (2023年1月22日). 2025年10月5日閲覧。
  43. ^ “ぶつかりおじさん”福岡・名門大学准教授が3度目逮捕…類似の悪質行為は各地で発生 反撃は「正当防衛」になる?”. 弁護士JPニュース (2025年5月28日). 2025年9月10日閲覧。
  44. ^ 暴行容疑で3回逮捕された西南学院大准教授の男性を不起訴…福岡区検「諸般の事情を総合的に考慮した」”. 読売新聞オンライン (2025年9月9日). 2025年9月10日閲覧。
  45. ^ a b c Why are men 'shoving' unsuspecting women in daylight? Disturbing 'trend' inspired by Japanese incels sees thugs 'body slamming' victims - and then acting as if nothing has happened”. Daily Mail (2025年5月9日). 2025年10月6日閲覧。
  46. ^ a b c Women deliberately 'body slammed' by strangers in sick trend spreading across UK”. Mirror (2025年5月11日). 2025年10月6日閲覧。
  47. ^ 「失敗した男の怒りの表出」日本で始まった“ぶつかり男”、全世界に拡大”. 中央日報 (2025年5月20日). 2025年5月21日閲覧。
  48. ^ 日本で社会問題化した「ぶつかり男」が世界に拡散”. 朝鮮日報 (2025年5月27日). 2025年9月10日閲覧。
  49. ^ Man arrested after woman 'slammed' to ground”. BBC News (2025年5月13日). 2025年10月6日閲覧。

関連項目

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