エアバンド
エアバンド(AIR BAND:航空無線)は、AIR(=航空機用)とBAND(=周波数帯)の合成語である。航空機と空港または航空会社などの地上施設が無線通信する際に用いられる電波の周波数帯域のこと。航空無線機そのものを指す場合もある。なお、エアバンド(航空無線)を受信機で傍受して楽しむことを趣味とする者をエアバンドリスナー、及びその行為をエアバンドリスニングと呼ぶ。
概要
編集エアバンドは、空港における駐機場や誘導路・滑走路といった地上経路から、飛行中においてまでのあらゆる航空機と、それらを交通整理する航空管制機関、及び各航空会社とが情報交換したりするための無線周波数帯である。航空無線の受信は、各国において対応が様々であり、軍事機密により、無線機の所持だけで違法になる国もある(中国や北朝鮮などの共産国)。特に中国ではこういった自由はない。 日本でのエアバンドリスニングは受信自体は合法であるが、通信の存在または内容の漏洩、大音量のスピーカーを使用した放送や公開[1]、窃用は電波法の守秘義務に違反する可能性がある[2]。
受信機器も一般に幅広く販売されており、尚且つ受信も容易であることから、幅広い年齢層に親しまれている。
受信機
編集広帯域受信機(ワイドバンドレシーバー)や専用のエアバンドレシーバーなどに専用のアンテナを接続し、周波数を合わせる事でエアバンドを受信することができる。電波型式は全搬送波両側波帯であり中波ラジオ放送と同じ振幅変調(AM)、周波数ステップは25kHz(割り当て上は8.33kHz)であり、108~136MHzの範囲を受信できるものであればよい。なお、108~118MHzの間は超短波全方向式無線標識(VOR)を受信することになり、音声通信は118~136MHzの範囲である。受信機には、固定機、車載機(モービル機)、携帯機(ハンディー機)の種類があり、使用場所、機能、価格などにより選択される。
また、アマチュア無線機の受信周波数を改造して受信する方法もあるが、近年発売されたモービル機・ハンディー機の機種には、設計段階から広帯域受信機能が内蔵されている機種も存在する。ただし、その場合は設定できる電波型式が限られていることがある。
アンテナには、ディスコーンアンテナ、GPアンテナ、八木アンテナ、対数周期アンテナ(ログペリオディックアンテナ)、ホイップアンテナなどの種類がある。
特殊な受信方法として、古くは市販のFMラジオ放送受信機の同調回路のコイルのインダクタンスを変更し周波数拡張する方法や、最近では一部のワンセグチューナーとソフトウェア無線(SDR)ソフトを用いて、パソコンを利用し受信する方法もある。
電波法における通信の秘密との関係
編集一般人による航空無線の傍受について、正面から判断した裁判例はなく、個別の事案での結論は司法判断に委ねられている。電波法59条[2]および109条[3]は無線通信の秘密性を保護する趣旨であり、109条が「秘密」という文言を用いていることから、秘密性を有する通信のみ同条の適用を受けると解されている[4]。東京地方裁判所平成29年4月27日判決[5][6][7](判時2388号114頁)において、電波法109条1項の「無線通信の秘密」とは,当該無線通信の存在及び内容が一般的に知られていないもので,一般に知られないことについて合理的な理由ないし必要性のあるものをいうと解される、と判示されている。また、東京地方裁判所平成14年3月20日判決[8][6]は、「無線通信の秘密」について、その存在及び内容に非公知性及び秘匿の必要性のある場合には、これに当たる、と判示している。
また、同裁判例[8]では、「窃用」とは、無線局の取扱中に係る無線通信の秘密を発信者又は受信者の意思に反して利用すること、と判示しており、「漏らす」とは、無線局の取扱中に係る無線通信の秘密を第三者に漏らし、又は第三者が知り得る状態に置くことを指す、と判示している。
一般的な航空交通管制については、当局により周波数が公開されており、当該情報が既に同空域の航空機間で共有されているものであることから、その公開・利用は電波法違反とならないと考えられる[9]。また、条文が「特定の相手方に対して行われる通信」に限定しているため、空港から各飛行機に一方的に送信するATISは同条の適用を受けない。他方で、地上要撃管制など国防上の理由などから周波数が非公開とされた周波数の通信については、その内容を公開したり、私的な航空写真の撮影などに利用することは、電波法違反と判断される可能性が高い。
類似の事例として、船舶のAIS情報を事業者が取得して提供するサービスについて、当該情報が既に船舶局間で共有されているものであることなどを根拠に、電波法の規定に抵触しないことが、グレーゾーン解消制度[10]で確認されている[11]。
脚注
編集- ^ Q.7 管制官は英語で仕事をするの?
- ^ a b 電波法第59条 何人も法律に別段の定めがある場合を除くほか、特定の相手方に対して行われる無線通信(電気通信事業法第4条第1項又は第164条第2項の通信であるものを除く。第109条並びに第109条の2第2項及び第3項において同じ。)を傍受してその存在若しくは内容を漏らし、又はこれを窃用してはならない。
- ^ “電波法 法令検索 令和6年4月1日施行”. 日本政府. 2024年8月14日閲覧。 “何人も法律に別段の定めがある場合を除くほか、特定の相手方に対して行われる無線通信(電気通信事業法第四条第一項又は第百六十四条第三項の通信であるものを除く。第百九条並びに第百九条の二第二項及び第三項において同じ。)を傍受してその存在若しくは内容を漏らし、又はこれを窃用してはならない。”
- ^ “エアバンドで聞いた管制交信をSNSで流してもいいのか?|OsintCatJoe ~元自衛官のゆるい軍事ブログ~” (2025年2月3日). 2025年10月4日閲覧。
- ^ “裁判例結果詳細”. www.courts.go.jp. 2025年10月6日閲覧。
- ^ a b wpmaster (2017年9月2日). “WEP鍵の利用と電波法違反(サイバー判例紹介)” (jp). 五常総合法律事務所 / Gojo Partners |. 2025年10月6日閲覧。
- ^ “電波法109条に関する東京地方裁判所平成29年4月27日判決(判時2388号114頁)に関して(附:有線電気通信法17条1号の謎) : Bureau de Saitoh, Avocat (弁護士 齊藤雅俊)”. Bureau de Saitoh, Avocat (弁護士 齊藤雅俊) (2019年6月30日). 2025年10月6日閲覧。
- ^ a b “裁判例結果詳細”. www.courts.go.jp. 2025年10月6日閲覧。
- ^ ゆいなかAIR (2020-03-07), チャンネル引っ越しました→概要欄リンクから◆【字幕付ATC】東京ディパーチャーを聴いてみよう!(前編) 2025年10月4日閲覧。
- ^ “グレーゾーン解消制度 | 消費者庁”. www.caa.go.jp. 2025年10月4日閲覧。
- ^ “AIS 情報の受信及び利用等の取扱いが明確化されました”. News Release. 経済産業省 (2015年7月31日). 2025年10月4日閲覧。