シーレーノス古希: Σιληνός, Sīlēnos, ラテン語: Silenus)、あるいはセイレーノス古希: Σειληνός, Seilēnos)は、ギリシア神話の半人半馬の種族である。サテュロスにも似ているが、こちらは半馬でなく半山羊である。水の精で予言の力を持つとされる。

酔ったシーレーノスの像。2世紀頃。バチカン美術館所蔵
クレーテー島から出土した前脚が人間風のケンタウロス

典型的なシーレーノスは全体として人間に似ているが、臀部から脚部、尾、耳が馬のそれである。中には人間に類似した脚部を持つものもある(前脚がしばしば人間様に描かれた初期のケンタウロスと比較せよ)。

シレーニ

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シレーニ (Sileni) はディオニューソスの従者であるシーレーノスである。彼等は酔っぱらいであった。他のシーレーノスと違う点は、通常、禿げた肥満体で、薄い唇とずんぐりした鼻をしていることである。脚も人間のそれであった。後にsileniは複数形であることの意味を失い、もっぱら独りのシーレーノスを指すようになった。

シーレーノスはローマ神話ではシルウァーヌスに対応する。彼はワインの神ディオニューソスの教師でありまた忠実な従者でもあった。大量のワインを飲み、いつも酔っており、サテュロスに支えられたりロバに載せられたりすることになる。プリュギアの王ミダースが酔いつぶれたシーレーノスを家に連れ帰りもてなした時、ディオニューソスはそれをよしとして気前よく礼をはずんだ。

シーレーノスは大変賢く、うまく捕まえて質問することができれば、人間に大事な秘密を教えてくれると考えられていた。シーレーノスはローマ神話のシルウァーヌスと同一視されるが、後者の名前には「森の」という意味しかなく、エトルリアSelvans由来である。

シーレーノスの知恵

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伝承によれば、シーレーノスは「人間にとって最善なのは、初めから生まれないこと、次に善いのは早く死ぬこと」という知恵をミダース王に授けた[1][2][3]。この「シーレーノスの知恵」はニーチェ悲劇の誕生』にも記されており[2][4]、現代では「反出生主義」とも結びつけられる[4]。同様の知恵はテオグニスなどのギリシア文学でも説かれている[2]

脚注

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  1. ^ プルタルコスモラリア英語版』所引アリストテレス『エウデモス』断片、およびキケロトゥスクルム荘対談集
  2. ^ a b c 小野寺郷「テオグニスとニーチェ」『哲学・思想論叢』第12号、筑波大学哲学・思想学会、1994年。 NAID 110000557177https://hdl.handle.net/2241/15209 14頁。
  3. ^ 國方栄二『ギリシア・ローマの智恵』未知谷、2016年。ISBN 978-4896424942 182頁。
  4. ^ a b なぜ「生まれてこないほうがよかった」のか? 反出生主義の源流を探る(梅田 孝太)”. 現代新書 | 講談社. 2025年5月27日閲覧。