ドーグリー文字 (Unicodeのブロック)

ドーグリー文字(ドーグリーもじ、英語: Dogra)は、Unicodeブロックの一つ。

ドーグリー文字 (Unicodeのブロック)
Dogra
範囲 U+11800..U+1184F
(80 個の符号位置)
追加多言語面
用字 ドーグリー文字
主な言語・文字体系
割当済 60 個の符号位置
未使用 20 個の保留
Unicodeのバージョン履歴
11.0 60 (+60)
公式ページ
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解説

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1860年ごろにタークリー文字を改良する形で標準化され、ランビール・シング王(在位1857年1885年)の治世下においてジャンムー・カシミール州の公式文字であった[1]インド最北部のジャンムー・カシミール連邦直轄領においてインド・ヨーロッパ語族インド・イラン語派インド語群に属するドーグリー語を表記するためにかつて用いられたドーグリー文字(ドーグラー文字)を収録している。現在ドーグリー語は主にデーヴァナーガリーで書かれる。

ドーグリー文字はブラーフミー文字(及びその派生文字体系であるタークリー文字)から派生した所謂ブラーフミー系文字(インド系文字)の一つであり、音素文字のうち子音字単独では暗黙の随伴母音/-a/を伴って発音され、別の母音にする際に母音記号を付加することで発音を切り替えるアブギダに分類される。ラテン文字などと同様に左から右への横書き(左横書き)であり、単語毎に分かち書きをする。デーヴァナーガリーと同様に1つの単語はシローレーカーと呼ばれる上部に引かれる水平線で繋げて書かれる。

加えて、アラビア文字タイ文字などと同様に独自の数字体系(ドーグリー数字)を有している。

符号位置の順序はおおむね伝統的なドーグリー文字の順序に従っている。

Unicodeのバージョン11.0において初めて追加された。

収録文字

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ラテン文字転写」の列はブラーフミー系文字のラテン文字への翻字方式の一つであるISO 15919(及び一部はIAST)に従う。

コード 文字 文字名(英語) 用例・説明 ラテン文字転写
独立母音字
U+11800 𑠀 DOGRA LETTER A 短母音[a]を表す。 a
U+11801 𑠁 DOGRA LETTER AA 長母音[aː]を表す。 ā
U+11802 𑠂 DOGRA LETTER I 短母音[i]を表す。 i
U+11803 𑠃 DOGRA LETTER II 長母音[iː]を表す。 ī
U+11804 𑠄 DOGRA LETTER U 短母音[u]を表す。 u
U+11805 𑠅 DOGRA LETTER UU 長母音[uː]を表す。 ū
U+11806 𑠆 DOGRA LETTER E 長母音[eː]を表す。 e
U+11807 𑠇 DOGRA LETTER AI 長母音二重母音[ai̯]を表す。 ai
U+11808 𑠈 DOGRA LETTER O 長母音[oː]を表す。 o
U+11809 𑠉 DOGRA LETTER AU 二重母音[au̯]を表す。 au
子音字
U+1180A 𑠊 DOGRA LETTER KA 子音[k]を表す。 k
U+1180B 𑠋 DOGRA LETTER KHA 子音[kʰ]を表す。 kh
U+1180C 𑠌 DOGRA LETTER GA 子音[ɡ]を表す。 g
U+1180D 𑠍 DOGRA LETTER GHA 子音[ɡʱ]を表す。 gh
U+1180E 𑠎 DOGRA LETTER NGA 子音[ŋ]を表す。
U+1180F 𑠏 DOGRA LETTER CA 子音[c]を表す。 c
U+11810 𑠐 DOGRA LETTER CHA 子音[cʰ]を表す。 ch
U+11811 𑠑 DOGRA LETTER JA 子音[ɟ]を表す。 j
U+11812 𑠒 DOGRA LETTER JHA 子音[ɟʱ]を表す。 jh
U+11813 𑠓 DOGRA LETTER NYA 子音[ɲ]を表す。 ñ
U+11814 𑠔 DOGRA LETTER TTA 子音[ʈ]を表す。
U+11815 𑠕 DOGRA LETTER TTHA 子音[ʈʰ]を表す。 ṭh
U+11816 𑠖 DOGRA LETTER DDA 子音[ɖ]を表す。
U+11817 𑠗 DOGRA LETTER DDHA 子音[ɖʱ]を表す。 ḍh
U+11818 𑠘 DOGRA LETTER NNA 子音[ɳ]を表す。
U+11819 𑠙 DOGRA LETTER TA 子音[t]を表す。 t
U+1181A 𑠚 DOGRA LETTER THA 子音[tʰ]を表す。 th
U+1181B 𑠛 DOGRA LETTER DA 子音[d]を表す。 d
U+1181C 𑠜 DOGRA LETTER DHA 子音[dʱ]を表す。 dh
U+1181D 𑠝 DOGRA LETTER NA 子音[n]を表す。 n
U+1181E 𑠞 DOGRA LETTER PA 子音[p]を表す。 p
U+1181F 𑠟 DOGRA LETTER PHA 子音[pʰ]を表す。 ph
U+11820 𑠠 DOGRA LETTER BA 子音[b]を表す。 b
U+11821 𑠡 DOGRA LETTER BHA 子音[bʱ]を表す。 bh
U+11822 𑠢 DOGRA LETTER MA 子音[m]を表す。 m
U+11823 𑠣 DOGRA LETTER YA 子音[j]を表す。 y
U+11824 𑠤 DOGRA LETTER RA 子音[r]を表す。 r
U+11825 𑠥 DOGRA LETTER LA 子音[l]を表す。 l
U+11826 𑠦 DOGRA LETTER VA 子音[ʋ]を表す。 v
U+11827 𑠧 DOGRA LETTER SHA 子音[ɕ]を表す。 ś
U+11828 𑠨 DOGRA LETTER SSA 子音[ʂ]を表す。
U+11829 𑠩 DOGRA LETTER SA 子音[s]を表す。 s
U+1182A 𑠪 DOGRA LETTER HA 子音[h]を表す。 h
U+1182B 𑠫 DOGRA LETTER RRA 子音[ɽ]を表す。
従属母音記号
U+1182C 𑠬 DOGRA VOWEL SIGN AA 長母音[aː]を表す。 ā
U+1182D 𑠭 DOGRA VOWEL SIGN I 短母音[i]を表す。 i
U+1182E 𑠮 DOGRA VOWEL SIGN II 長母音[iː]を表す。 ī
U+1182F 𑠯 DOGRA VOWEL SIGN U 短母音[u]を表す。 u
U+11830 𑠰 DOGRA VOWEL SIGN UU 長母音[uː]を表す。 ū
U+11831 𑠱 DOGRA VOWEL SIGN VOCALIC R 音節主音化した短母音としてのR(IPA:[ɹ̩])を表す。 [2]
U+11832 𑠲 DOGRA VOWEL SIGN VOCALIC RR 音節主音化した長母音としてのR(IPA:[ɹ̩ː])を表す。 r̥̄[3]
U+11833 𑠳 DOGRA VOWEL SIGN E 長母音[eː]を表す。 e
U+11834 𑠴 DOGRA VOWEL SIGN AI 長母音二重母音[ai̯]を表す。 ai
U+11835 𑠵 DOGRA VOWEL SIGN O 長母音[oː]を表す。 o
U+11836 𑠶 DOGRA VOWEL SIGN AU 二重母音[au̯]を表す。 au
各種記号
U+11837 𑠷 DOGRA SIGN ANUSVARA アヌスヴァーラ

直後に音節が後続する子音字に付き、直後の子音と同じ調音点鼻音が挿入されることを表す。日本語における「」に相当する。

U+11838 𑠸 DOGRA SIGN VISARGA ヴィサルガ

音節末に[h]を伴うことを表す。

U+11839 𑠹 DOGRA SIGN VIRAMA ヴィラーマ。殺母音記号。母音/-a/を発音せず子音のみが読まれることを表す。

レンダー上は、子音連続を表す場合次の文字と縦に並べて繋がったような合字を形成するための不可視の制御文字として機能する。

U+1183A 𑠺 DOGRA SIGN NUKTA ヌクター。子音字を拡張して新たな発音を表す際に用いられる。
約物
U+1183B 𑠻 DOGRA ABBREVIATION SIGN 略語を表す省略記号

小分類

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このブロックの小分類は「独立母音字」(Independent vowels)、「子音字」(Consonants)、「従属母音記号」(Dependent vowel signs)、「各種記号」(Various signs)、「約物」(Punctuation)の5つとなっている[4]

独立母音字(Independent vowels

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この小分類にはドーグリー文字のうち、頭子音のない母音の音節を表す際に用いられる独立した母音字が収録されている。

子音字(Consonants

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この小分類にはドーグリー文字のうち、基本的な子音字が収録されている。

従属母音記号(Dependent vowel signs

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この小分類にはドーグリー文字のうち、子音字に結合する母音記号が収録されている。

各種記号(Various signs

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この小分類にはドーグリー文字のうち、母音字や子音字に結合する発音記号などの様々な記号が収録されている。

約物(Punctuation

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この小分類にはドーグリー文字で用いられる句読点などの約物類が収録されている。

文字コード

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ドーグリー文字(Dogra)[1]
Official Unicode Consortium code chart (PDF)
  0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 A B C D E F
U+1180x 𑠀 𑠁 𑠂 𑠃 𑠄 𑠅 𑠆 𑠇 𑠈 𑠉 𑠊 𑠋 𑠌 𑠍 𑠎 𑠏
U+1181x 𑠐 𑠑 𑠒 𑠓 𑠔 𑠕 𑠖 𑠗 𑠘 𑠙 𑠚 𑠛 𑠜 𑠝 𑠞 𑠟
U+1182x 𑠠 𑠡 𑠢 𑠣 𑠤 𑠥 𑠦 𑠧 𑠨 𑠩 𑠪 𑠫 𑠬 𑠭 𑠮 𑠯
U+1183x 𑠰 𑠱 𑠲 𑠳 𑠴 𑠵 𑠶 𑠷 𑠸 𑠹 𑠺 𑠻
U+1184x
注釈
1.^バージョン17.0時点


履歴

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以下の表に挙げられているUnicode関連のドキュメントには、このブロックの特定の文字を定義する目的とプロセスが記録されている。

バージョン コードポイント[a] 文字数 L2 ID ドキュメント
11.0 U+11800..1183B 60 L2/15-213 Anshuman Pandey (30 July 2015), Preliminary proposal to encode the Dogra script (英語)
L2/15-234 Anshuman Pandey (5 November 2015), Proposal to encode the Dogra script (supersedes L2/15-213; revised) (英語)
L2/17-201 Srinidhi A; Sridatta A (26 June 2017), Proposal to encode the DOGRA VOWEL SIGN VOCALIC RR (英語)
  1. ^ 提案されたコードポイントと文字の名前は、最終決定と異なる場合がある。

出典

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  1. ^ Anshuman Pandey (2015年7月30日). “Preliminary proposal to encode the Dogra script” (英語). Unicode. 2025年9月18日閲覧。
  2. ^ IASTではṛと表記される。
  3. ^ IASTではṝと表記される。
  4. ^ “The Unicode Standard, Version 17.0 - U11800.pdf” (PDF). The Unicode Standard (英語). 2025年9月18日閲覧.

関連項目

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