ニューエコノミー(New economy)とは、以下の二つの意味がある。

  1. ITの活用により、在庫調整が加速することから景気循環が消滅するという説。本項で詳述。
  2. IT企業などに代表される新しいビジネスのこと。製造業などを中心にした「オールドエコノミー」の対義語。

概要

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1990年代後半、IT投資の活性化により企業内での情報網が整備されていった。SCMなどの進展により、調達・生産・在庫・販売のそれぞれの局面における最適化が図られるようになった。この結果、それまでの見込み生産によるタイムラグで発生していた景気循環(在庫循環)が消滅するのではないかと期待された。

これが、ニューエコノミー論である。

直後に起きた、ITバブル崩壊により1990年代に長く続いた設備投資主導の景気拡張が終焉し景気後退が始まったことから、ニューエコノミー論は間違いであったとされ、以後広く伝えられることは無くなった。

しかし、実は1990年代を経て先進諸国ではキチンの波の変調、あるいは縮小が観測されている。企業の在庫調整が加速して俊敏になったためである。ニューエコノミー論のなかで記述されたほどに劇的に景気循環が消滅したわけではないが、在庫に起因する景気循環は短期間化し緩和された。

なお、設備投資に起因する景気循環は、依然健在である。

ニューエコノミー論への誤解

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1990年代末期のアメリカ経済は、史上最長(戦時下を除く)の景気拡張を経験しており、新興国の経済危機などを背景に、超大国アメリカへの信頼感が高まっていた。

このため「アメリカにおいては、もはや景気後退は無くなった」とする意見が生まれ、前述のニューエコノミー論と混同されることが増えた。

貨幣経済である限り景気循環から逃れることはできないため、「景気後退は無くなった」とする見方は誤りであるが、在庫に由来する景気循環が緩和される傾向にあるのは事実である。

ニューエコノミーにおける労働

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ニューエコノミーにおける最大の変化は、雇用主と従業員の関係性を支える根本的な比喩(メタファー)の転換であるとも論じられる。旧来の「自己=所有物(Self as Property)」モデルから、現代の「自己=事業(Self as Business / Me Inc.)」モデルへの移行が、働き方、キャリア形成、採用活動のあらゆる側面に影響を与えているとされる[1]

旧来の「自己=所有物」モデルでは、労働者は自身の労働力を一定期間、企業に「貸し出す」存在と見なされ、長期雇用や企業への忠誠心と引き換えに安定が保障された[1]

一方、ニューエコノミーで主流となった「自己=事業」モデルでは、労働者一人ひとりが「株式会社自分(Me Inc.)」の経営者として、自身のスキル、経験、人脈といった資産を管理・強化し、市場価値を高めることが求められる。このモデルにおいて、雇用は企業間の短期的な提携と見なされ、転職を繰り返しながらキャリアを形成することが常態化している[1]。 このモデル転換に伴い、労働者にはパーソナルブランディングやより現代的なネットワーキングなどの新たな戦略が求められるようになった。 パーソナルブランディングは、自己を商品やブランドのようにマーケティングし、市場における認知度と価値を高める活動である。非連続的になりがちなキャリアに対し、一貫した物語を与える目的も持つ。SNSなどを通じて、自身の専門性や個性を戦略的に発信することが重要とされる。かつてネットワーキングは、求人情報を得るための「発見」が主目的であったが、オンラインで無数の求人に応募できる現代では、大量の応募者の中から自身の存在を「認知」させ、応募書類に注目してもらうための手段へと変化した。特に、自身の働きぶりを具体的に証明できる元同僚や元上司といった「職場の紐帯(Workplace Ties)」の重要性が増している[1]

注釈

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  1. ^ a b c d Gershon, Ilana (英語). Down and Out in the New Economy: How People Find (or Don’t Find) Work Today. Chicago, IL: University of Chicago Press. https://press.uchicago.edu/ucp/books/book/chicago/D/bo25799564.html 

関連項目

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