パウ・チン・ハウ文字 (Unicodeのブロック)

パウ・チン・ハウ文字(パウ・チン・ハウもじ、英語: Pau Cin Hau)は、Unicodeブロックの一つ。

パウ・チン・ハウ文字 (Unicodeのブロック)
Pau Cin Hau
範囲 U+11AC0..U+11AFF
(64 個の符号位置)
追加多言語面
用字 パウ・チン・ハウ文字
主な言語・文字体系
割当済 57 個の符号位置
未使用 7 個の保留
Unicodeのバージョン履歴
7.0 57 (+57)
公式ページ
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解説

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ミャンマーチン州などでチン族によって話される、シナ・チベット語族チベット・ビルマ語派クキ・チン諸語に属するテディム・チン語英語版(ティディム語)におけるライピアン(テディム・チン語で『文字に基づく宗教』を意味する)の宗教的伝統における典礼用文字として、チン族の宗教指導者であるパウ・チン・ハウ英語版により1902年ごろに考案されたパウ・チン・ハウ文字を収録している[1]。ただし、ライピアンの宗教伝統の衰退とキリスト教宣教活動の活発化に伴いこの文字の使用は限定的となっており、現在のテディム・チン語は主にラテン文字ポラード文字で書かれている[1]

この文字はテディム・チン語を表記するために開発されたが、いくつかの文字と声調記号は、テディム語には存在しないものの、他のチン諸語には存在する音を表しており、このアルファベットがチン諸語のための普遍的な文字として作られた可能性を示唆している[1]

一部の文字の字形はビルマ文字やラテン文字に類似しているが直接の遺伝的関係は存在せず、これらの類似性は、ビルマ人コミュニティとの接触、および西洋の宣教師によってこの地域に広められたラテンアルファベットの影響によるものと考えられている[1]

パウ・チン・ハウ文字は音素文字のうち子音と母音とに独立した文字が割り当てられているアルファベットに分類される。ラテン文字などと同様に左から右への横書き(左横書き)であり、単語毎に分かち書きをする[1]。声調記号は約物句読点)としての機能も兼ねており、声調記号が文末にある場合は終止符を表すための、2つ記号を並べたような派生字形のものが用いられる[1]

独自の数字体系は存在せず、ラテン文字用の算用数字が用いられる[1]

Unicodeのバージョン7.0において初めて追加された。

なお、パウ・チン・ハウはこのアルファベットの文字体系のほかに、同言語用の音節文字(或いは表語文字)も考案しているがこちらはUnicodeに提案中であり、現在未収録である[2]。音節文字は2025年現在、RoadmapとしてU+19E00-1A2FFの範囲への収録が検討されている[3]。本ブロックに含まれるアルファベットはこの音節文字を由来としている[1]

収録文字

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コード 文字 文字名(英語) 用例・説明 ラテン文字転写
子音字
U+11AC0 𑫀 PAU CIN HAU LETTER PA 子音[p]を表す。 p
U+11AC1 𑫁 PAU CIN HAU LETTER KA 子音[k]を表す。 k
U+11AC2 𑫂 PAU CIN HAU LETTER LA 子音[l]を表す。 l
U+11AC3 𑫃 PAU CIN HAU LETTER MA 子音[m]を表す。 m
U+11AC4 𑫄 PAU CIN HAU LETTER DA 子音[d]を表す。 d
U+11AC5 𑫅 PAU CIN HAU LETTER ZA 子音[z]を表す。元々は[j]という発音であった。 z
U+11AC6 𑫆 PAU CIN HAU LETTER VA 子音[v]を表す。元々は[w]という発音であった。 v
U+11AC7 𑫇 PAU CIN HAU LETTER NGA 子音[ŋ]を表す。 ng
U+11AC8 𑫈 PAU CIN HAU LETTER HA 子音[h]を表す。 h
U+11AC9 𑫉 PAU CIN HAU LETTER GA 子音[ɡ]を表す。 g
U+11ACA 𑫊 PAU CIN HAU LETTER KHA 子音[x]を表す。元々は[kʰ]という発音であった。 kh
U+11ACB 𑫋 PAU CIN HAU LETTER SA 子音[s]を表す。 s
U+11ACC 𑫌 PAU CIN HAU LETTER BA 子音[b]を表す。 b
U+11ACD 𑫍 PAU CIN HAU LETTER CA 子音[t͡ʃ]を表す。 c
U+11ACE 𑫎 PAU CIN HAU LETTER TA 子音[t]を表す。 t
U+11ACF 𑫏 PAU CIN HAU LETTER THA 子音[tʰ]を表す。 th
U+11AD0 𑫐 PAU CIN HAU LETTER NA 子音[n]を表す。 n
U+11AD1 𑫑 PAU CIN HAU LETTER PHA 子音[pʰ]を表す。 ph
U+11AD2 𑫒 PAU CIN HAU LETTER RA 子音[r]を表す。 r
U+11AD3 𑫓 PAU CIN HAU LETTER FA 子音[f]を表す。 f
U+11AD4 𑫔 PAU CIN HAU LETTER CHA 子音[t͡ʃʰ]を表す。 ch
母音字
U+11AD5 𑫕 PAU CIN HAU LETTER A 母音[a]を表す。 a
U+11AD6 𑫖 PAU CIN HAU LETTER E 母音[e]を表す。 e
U+11AD7 𑫗 PAU CIN HAU LETTER I 母音[i]を表す。 i
U+11AD8 𑫘 PAU CIN HAU LETTER O 母音[o]を表す。 o
U+11AD9 𑫙 PAU CIN HAU LETTER U 母音[u]を表す。 u
U+11ADA 𑫚 PAU CIN HAU LETTER UA 二重母音[ʊɑ]を表す[1] ua
U+11ADB 𑫛 PAU CIN HAU LETTER IA 二重母音[ɪɑ]を表す[1] ia
末子音字
U+11ADC 𑫜 PAU CIN HAU LETTER FINAL P 末子音[p]を表す。 p
U+11ADD 𑫝 PAU CIN HAU LETTER FINAL K 末子音[k]を表す。 k
U+11ADE 𑫞 PAU CIN HAU LETTER FINAL T 末子音[t]を表す。 t
U+11ADF 𑫟 PAU CIN HAU LETTER FINAL M 末子音[m]を表す。 m
U+11AE0 𑫠 PAU CIN HAU LETTER FINAL N 末子音[n]を表す。 n
U+11AE1 𑫡 PAU CIN HAU LETTER FINAL L 末子音[l]を表す。 l
U+11AE2 𑫢 PAU CIN HAU LETTER FINAL W 末子音[w]を表す。 w
U+11AE3 𑫣 PAU CIN HAU LETTER FINAL NG 末子音[ŋ]を表す。 ng
U+11AE4 𑫤 PAU CIN HAU LETTER FINAL Y 末子音[j]を表す。 y
声調記号
U+11AE5 𑫥 PAU CIN HAU RISING TONE LONG 長母音かつ上昇調であることを表す。
U+11AE6 𑫦 PAU CIN HAU RISING TONE 短母音かつ上昇調であることを表す。
U+11AE7 𑫧 PAU CIN HAU SANDHI GLOTTAL STOP 短母音かつ音節末に声門閉鎖[ʔ]を伴うことを表す。

声調記号から派生したものだが実際には元の声調とは相関がない[1]

U+11AE8 𑫨 PAU CIN HAU RISING TONE LONG FINAL U+11AE5 𑫥 PAU CIN HAU RISING TONE LONGが文末にある時の字形[1]
U+11AE9 𑫩 PAU CIN HAU RISING TONE FINAL U+11AE6 𑫦 PAU CIN HAU RISING TONEが文末にある時の字形[1]
U+11AEA 𑫪 PAU CIN HAU SANDHI GLOTTAL STOP FINAL U+11AE7 𑫧 PAU CIN HAU SANDHI GLOTTAL STOPが文末にある時の字形[1]
U+11AEB 𑫫 PAU CIN HAU SANDHI TONE LONG 長母音かつsandhiという声調[1]であることを表す。
U+11AEC 𑫬 PAU CIN HAU SANDHI TONE 短母音かつsandhiという声調[1]であることを表す。
U+11AED 𑫭 PAU CIN HAU SANDHI TONE LONG FINAL U+11AEB 𑫫 PAU CIN HAU SANDHI TONE LONGが文末にある時の字形[1]
U+11AEE 𑫮 PAU CIN HAU SANDHI TONE FINAL U+11AEC 𑫬 PAU CIN HAU SANDHI TONEが文末にある時の字形[1]
U+11AEF 𑫯 PAU CIN HAU MID-LEVEL TONE 短母音かつ中声調であることを表す。
U+11AF0 𑫰 PAU CIN HAU GLOTTAL STOP VARIANT 短母音かつ音節末に声門閉鎖[ʔ]を伴うことを表す。

声調記号から派生したものだが実際には元の声調とは相関がない[1]

U+11AF1 𑫱 PAU CIN HAU MID-LEVEL TONE LONG FINAL 長母音かつ中声調であることを表す。文末にある時の字形。
U+11AF2 𑫲 PAU CIN HAU MID-LEVEL TONE FINAL 短母音かつ中声調であることを表す。文末にある時の字形。
U+11AF3 𑫳 PAU CIN HAU LOW-FALLING TONE LONG 長母音かつ下降声調であることを表す。
U+11AF4 𑫴 PAU CIN HAU LOW-FALLING TONE 短母音かつ下降声調であることを表す。
U+11AF5 𑫵 PAU CIN HAU GLOTTAL STOP 短母音かつ音節末に声門閉鎖[ʔ]を伴うことを表す。

声調記号から派生したものだが実際には元の声調とは相関がない[1]

U+11AF6 𑫶 PAU CIN HAU LOW-FALLING TONE LONG FINAL U+11AF3 𑫳 PAU CIN HAU LOW-FALLING TONE LONGが文末にある時の字形[1]
U+11AF7 𑫷 PAU CIN HAU LOW-FALLING TONE FINAL U+11AF4 𑫴 PAU CIN HAU LOW-FALLING TONEが文末にある時の字形[1]
U+11AF8 𑫸 PAU CIN HAU GLOTTAL STOP FINAL U+11AF5 𑫵 PAU CIN HAU GLOTTAL STOPが文末にある時の字形[1]

小分類

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このブロックの小分類は「子音字」(Consonants)、「母音字」(Vowels)、「末子音字」(Final consonants)、「声調記号」(Tone marks)の4つとなっている[4]

子音字(Consonants

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この小分類にはパウ・チン・ハウ文字のうち、基本的な子音字が収録されている。

母音字(Vowels

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この小分類にはパウ・チン・ハウ文字のうち、基本的な母音字が収録されている。

末子音字(Final consonants

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この小分類にはパウ・チン・ハウ文字のうち、末子音を表す字母が収録されている。

声調記号(Tone marks

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この小分類にはパウ・チン・ハウ文字のうち、声調を表す声調記号が収録されている。

文字コード

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パウ・チン・ハウ文字(Pau Cin Hau)[1]
Official Unicode Consortium code chart (PDF)
  0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 A B C D E F
U+11ACx 𑫀 𑫁 𑫂 𑫃 𑫄 𑫅 𑫆 𑫇 𑫈 𑫉 𑫊 𑫋 𑫌 𑫍 𑫎 𑫏
U+11ADx 𑫐 𑫑 𑫒 𑫓 𑫔 𑫕 𑫖 𑫗 𑫘 𑫙 𑫚 𑫛 𑫜 𑫝 𑫞 𑫟
U+11AEx 𑫠 𑫡 𑫢 𑫣 𑫤 𑫥 𑫦 𑫧 𑫨 𑫩 𑫪 𑫫 𑫬 𑫭 𑫮 𑫯
U+11AFx 𑫰 𑫱 𑫲 𑫳 𑫴 𑫵 𑫶 𑫷 𑫸
注釈
1.^バージョン17.0時点


履歴

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以下の表に挙げられているUnicode関連のドキュメントには、このブロックの特定の文字を定義する目的とプロセスが記録されている。

バージョン コードポイント[a] 文字数 L2 ID ドキュメント
7.0 U+11AC0..11AF8 57 L2/11-104 Anshuman Pandey (4 May 2011), Pau Cin Hau Alphabet (N4017) (英語)
L2/11-287 Anshuman Pandey (25 July 2011), Proposal to Change the Names for Some Pau Cin Hau Characters (英語)
  1. ^ 提案されたコードポイントと文字の名前は、最終決定と異なる場合がある。

出典

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  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w Anshuman Pandey (2011年5月4日). “Pau Cin Hau Alphabet (N4017)” (英語). UTC Document Register. Unicode Consortium. 2025年9月21日閲覧。
  2. ^ Anshuman Pandey (2013年4月27日). “Preliminary Code Chart for the Pau Cin Hau Syllabary” (英語). UTC Document Register. Unicode Consortium. 2025年9月21日閲覧。
  3. ^ Roadmap to the SMP”. www.unicode.org. 2025年9月20日閲覧。
  4. ^ “The Unicode Standard, Version 17.0 - U11AC0.pdf” (PDF). The Unicode Standard (英語). 2025年9月21日閲覧.

関連項目

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