モネル: Monel)、またはモネル合金は、主にニッケル (Ni) と (Cu) からなる合金である。1905年、当時のインターナショナル・ニッケル・カンパニー (INCO) 社の鉱山技師長の職にあったロバート・クルックス・スタンレー英語版により発明され[1] 、INCO社の初代社長、アンブローズ・モネル英語版により名付けられた[2][注釈 1][注釈 2]

概要

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モネルは高ニッケル合金の一種で、超合金の一族をなす。販売元のスペシャルメタル社では モネル400[5]、モネルR-405[6]、モネルK-500[7]の3種類のモネル合金を2025年現在、カタログに載せており、63 %以上のニッケル[注釈 3]と約30 %の銅、その他不純物として微量の炭素マンガン硫黄ケイ素などを含有する[5][6][7][注釈 4]。日本産業規格においても一部相当品[注釈 5]を定めている。 モネルはニッケルによる不動態化と銅のイオン化傾向の低さを兼ね備えたことから耐食性に優れ[9]、かつニッケルに備わった耐熱性にも優れている。とりわけ硫化水素塩化水素水蒸気の満ちた過酷な環境下で使用される製油所の常圧蒸留装置[10]や、高オクタン価ガソリンの製造のため触媒として硫酸フッ化水素を作用させる[11][12]アルキレーション装置の反応容器および配管にはなくてはならない金属材料であった。また海水に対する耐食性に優れることから石油化学プラントにおける海水クーラー(熱交換器)やポンプ・バルブならびに配管にも用いられる[10]

モネル400 (Ni65-Cu33-Fe2)、Rモネル (Monel R-405。硫黄を 0.060 % まで残留させたもの。 通称、快削モネル)の他には、航空機用非磁性部品用途の Kモネル (Ni66-Cu29-Al3)、鋳物に使う Sモネル (Ni63-Cu30-Si4)・Hモネル (Ni63-Cu30-Si3) などもあり、それぞれ利用される。

またモネルには楽器や眼鏡フレームとしての用途もある。金管楽器ピストンバルブ[13]がその代表例である。

ただし、銅とニッケルの鉱石をともに転炉に入れて製造するという、銅とニッケルとを別々に精錬するよりも低廉な製法[4]とはいえ、もともと高価なニッケルの割合が大きいこと(ニッケルは重要な戦略物資でもある)、溶接加工性[14]・機械加工性ともに悪いことから部品としての価格は高くなりがちである。そしてモネルでできた部品が寿命に達してもニッケル素材としての価値は高いため、比較的高値でリサイクルされる。

参考文献

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  • ISO 9723 : 1992, Nickel and nickel alloy bars [注釈 6]
  • JIS G 4901-2023 : 耐食耐熱超合金,ニッケル及びニッケル合金-棒

脚注

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注釈

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  1. ^ なお日本における MONEL の商標権者はスペシャルメタル社の子会社である、ハンティントン・アロイズ・コーポレイション (Huntington Alloys Corporation) である[3]
  2. ^ 米国における特許権者は発明者の Robert Crooks Stanley ではなく、Ambrose Monell の名が記された[4]。このことが発明者がモネルだとされた理由のひとつである。
  3. ^ 純ニッケルではなくコバルトを含む。
  4. ^ 快削モネルであるモネルR-405は硫黄を他のモネルよりも多く残してあるため(最大 0.06 %)、機械加工性が良い特性を持つ。
  5. ^ NW4400[8][9]など。
  6. ^ 失効

出典

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  1. ^ “ROBERT C. STANLEY, INDUSTRIALIST, 74; Head of International Nickel, a Noted Metallurgist, Dies–– Discovered Monel Metal” (英語). The New York Times: p. 31. (1951年2月13日). https://www.nytimes.com/1951/02/13/archives/robert-c-stanley-industrialist-74-head-of-international-nickel-a.html 2025年5月14日閲覧。 
  2. ^ “Business & Finance: Nickel” (英語). Time. (1934-08-27). ISSN 0040-781X. https://content.time.com/time/subscriber/article/0,33009,747801,00.html 2025年5月14日閲覧。. 
  3. ^ 商標登録 第1356450号”. J-PlatPat. 特許庁. 2025年5月14日閲覧。
  4. ^ a b US811239A | Manufacture of nickel-copper alloys.”. USPTO. 2025年5月15日閲覧。
  5. ^ a b MONEL® Alloy 400”. Special Metals Corporation. 2025年5月14日閲覧。
  6. ^ a b MONEL® Alloy R-405” (pdf) (英語). Special Metals Corporation. 2025年5月14日閲覧。
  7. ^ a b MONEL® Alloy K-500” (pdf) (英語). Special Metals Corporation. 2025年5月14日閲覧。
  8. ^ 高耐食鋼・合金 NASNW400”. 日本冶金工業. 2025年5月15日閲覧。
  9. ^ a b NASNW400 (UNS N04400) NAS 高耐食ニッケル銅合金” (pdf). 日本冶金工業. 2025年5月15日閲覧。
  10. ^ a b 表1 石油・化学プラントにおける主な装置と構成材料”. 日本溶接協会. 2025年5月15日閲覧。
  11. ^ アルキレーション”. JOGMEC 石油・天然ガス用語辞典 | 石油・天然ガス資源情報. 独立行政法人 エネルギー・金属鉱物資源機構 (JOGMEC). 2025年5月15日閲覧。
  12. ^ 岡本伸和、古賀雄造「ガソリン基材製造のためのアルキレーション法ガソリン基材製造のためのアルキレーション法」『有機合成化学協会誌』第36巻第6号、1978年6月1日、519–527頁、doi:10.5059/yukigoseikyokaishi.36.5192025年5月15日閲覧 
  13. ^ ヤマハ | YTR-2330 - B♭ トランペット - 特長”. ヤマハ. 2025年5月15日閲覧。
  14. ^ 接合・溶接技術Q&A | Q06-06-04 Qニッケル合金は,オーステナイト系ステンレス鋼に比べて溶接が難しいと言われますが,どのような理由によるのでしょうか。また,材料によって差があるのでしょうか。”. 溶接情報センター 接合・溶接技術Q&A. 日本溶接協会. 2025年5月15日閲覧。

関連項目

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