近鉄16600系電車
近鉄16600系電車(きんてつ16600けいでんしゃ)は、近畿日本鉄道(近鉄)が2010年に導入した南大阪線系統用の特急形車両である。16400系をリファインし標準軌線用の22600系と共通設計とした狭軌仕様車で、南大阪線・吉野線の大阪阿部野橋駅 - 吉野駅間で運行される吉野特急用に投入された[1]。
| 近鉄16600系電車 | |
|---|---|
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16600系Ace(旧塗装) | |
| 基本情報 | |
| 製造年 | 2010年 |
| 製造数 | 2編成4両 |
| 運用開始 | 2010年6月19日 |
| 主要諸元 | |
| 編成 | 2両編成 |
| 軌間 | 1,067 mm |
| 最高運転速度 | 110 km/h |
| 設計最高速度 | 120 km/h |
| 起動加速度 | 2.5 km/h/s |
| 減速度(常用) | 4.0 km/h/s |
| 編成定員 | 99人(2両) |
| 車両定員 |
Mc:52人 Tc:43人 |
| 自重 | Mc:47 t、Tc:43 t |
| 編成長 | 41.3 m |
| 全長 |
Mc:20,800 mm Tc:20,500 mm |
| 全幅 | 2,800 mm |
| 全高 |
Mc・M:4,150 mm Tc・T:4,135 mm |
| 台車 |
積層ゴムブッシュ軸箱支持方式ボルスタレス台車 KD316 (Mc) KD316A (Tc) |
| 主電動機 |
かご形三相交流誘導電動機 三菱電機 MB-5137-A |
| 主電動機出力 | 185 kW / 1,050 V |
| 歯車比 | 6.31 |
| 編成出力 | 740 kW (2両) |
| 制御方式 | 2レベルIGBT素子VVVFインバータ制御 |
| 制御装置 | 日立製作所 VFI-HR2420F |
| 備考 | 電算記号:YT |
16000系の置き換えを目的に、2010年に2両編成2本が製造された。モ16600形 (Mc) - ク16700形 (Tc) の2両固定編成となっている。設計コンセプトは22600系と共通するが、吉野特急では2両編成単独での運用があることから、22000系に対する16400系と同様に細部での設計変更点がある。
編成
編集編成は2両編成で、電算記号(編成記号)は「Yoshino」と「Two」から取られたYTである。
| 項目\運転区間 | ← 大阪阿部野橋 吉野 →
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| 形式 | ク16700形 (Tc) | モ16600形 (Mc) | ||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 搭載機器 | SIV,CP,BT | <,VVVF,< | ||||||
| 自重 | 43.0t | 47.0t | ||||||
| 定員 | 42+1(車椅子対応席) | 52 | ||||||
| 車内設備 | 洗面室・トイレ 車椅子用設備 |
喫煙室 | ||||||
構造
編集車体
編集車体の基本寸法は22000系や16400系と共通するが、先頭形状は22600系と同様に丸みを大きく帯びた形状とされた[1]。側窓は16400系よりも上下方向に140 mm拡大し、側扉はプラグドアが採用された[1]。塗装は近鉄汎用特急車標準のオレンジとブルーの塗り分けで、トイレのある車端部には8本のストライプに「Ace」のロゴマークが配されている[1]。
バリアフリー設備などを収める関係で扉・窓配置を見直しており、乗降扉はモ16600形に1か所、ク16700形に2か所設置し、モ16600形に喫煙室、ク16700形にバリアフリー設備(車椅子対応座席とトイレ)の設置に変更している。
前照灯はHID、標識灯はLED式となった[1]。行先表示器は前面がフルカラーLED、側面が3色LEDとなっており、側面表示器では座席指定や切り離し車両の表示も可能とされている[1]。
車内
編集シートピッチは16400系の1,000 mmから50 mm拡大され、21020系・22600系と同じ1,050 mmとされた[1]。座席は22600系と同様の「ゆりかごシート」を採用し、暖房装置を懸垂式とすることで座席下に足を伸ばせる構造となった[1]。22600系と同様にフットレストやモバイル機器用コンセント、大型折りたたみ式テーブルも設けられたほか、肘掛けには座席を向かい合わせた時に備えてインアームテーブルも収納されている[1]。ク16700形には車椅子対応席が1席設けられた[1]。
喫煙車は22600系と同様の喫煙室を設けて座席を禁煙としており、モ16600形の運転室後寄りに喫煙室を設置している[1]。喫煙室は透明な仕切り板と引き戸で区切られ、室内には灰皿と簡易腰掛けが設置されている[1]。空気はデッキから取り入れ、排気は天井からダクトと換気扇を使用して床下へと排出する[1]。
トイレはク16700形に車椅子対応の多目的トイレと男性用小便所を設け、洗面所も併設されている[1]。多目的トイレの便座は洋式の温水洗浄便座で、ベビーベッドも併設されている[1]。なお、男性専用トイレの便器は、22600系が進行方向に対して横方向に設置されているのに対して、16600系は斜めに設置してスペース効率を高めている[1]。
車内案内表示器はLED式で、視認性向上を図るため表示面積が16400系の約2倍に拡大されている[1]。行先や停車駅、ニュースや気象情報が表示されるほか、号車番号やトイレ使用表示も一体化されている[1]。
運転台はデスクタイプで、ハンドルは力行・抑速用マスコンハンドルとブレーキハンドルの2ハンドル式である[1]。乗務員用モニタ装置は16400系では頭上にあったが、16600系では運転席右上に配置されている。
主要機器・性能
編集走行機器は標準軌線ほど高速、急勾配走行がないために、16400系と同様に標準軌線車両より性能を落としたものを新たに採用している。主電動機は三菱電機製定格出力185kWの三相交流誘導電動機 (MB-5137-A) で、将来は標準軌路線の通勤車とも共用できる構造としている[1]。フレームレス背面通風構造としたことで電動機の軽量化および冷却性能の向上を図っており、さらにロータ風穴を廃したことで電動機内部に埃が滞留しない構造の採用などで120万kmまでの無分解保守を実現しているのは22600系のMB-5097Bと同様である[1]。歯車比は6.31に設定されている[1]。
制御装置はIGBT素子使用のVVVFインバータ制御で、22600系と異なり日立製作所製である[2]。主回路は1C2M2群方式の二重系となっており、通勤車6820系の装置をベースに特急車用に改良したものが搭載されている[1]。
抑速回生ブレーキも装備するが、22600系では装備している回生制動が失効した際に発電制動に切り替える機能と発電制動用の抵抗器を省略する代わりに、運転席に回生失効状態を知らせる表示機能を設置している[3][1]。その他のブレーキシステムは22600系と共通である[1]。
連結器は22600系と同じく前頭部が二段式電気連結器付き密着連結器、中間部が半永久連結器となっており、16600系編成同士の併結時にはブレーキ制御の指令や情報伝送を可能としている[1]。連結面側の連結部には転落防止幌が装備されたほか、先頭車同士が連結する際に注意喚起音声が流れる放送装置が設置されている[1]。
台車は狭軌用ボルスタレス台車(Mc車KD316, Tc車KD316A)を装着する[1]。22600系と異なりヨーダンパは備えていない。
補助電源装置は容量80kVAの静止形インバータをク16700形に搭載する[1]。インバータを2基装備し冗長化を図っているのは22600系と同一である[1]。空気圧縮機は1,000l/minのものをク16700形に1台搭載する[1]。
空調装置には稼働率制御が取り入れられ、単純かつメンテナンスが容易な構成とされている[1]。冷房装置は客室用に17,000kcal/hの集約分散型ものを各車両に2基、運転室・化粧室・デッキ用に5,000kcal/hの分散型ものをク16700形に2基、モ16600形に1基搭載する[1]。
暖房装置はシーズワイヤー式で、懸垂式として座席下部に吊り下げられたほか、車端部の壁面下部にも設置された。デッキ部の暖房にはPTCファンヒーターが設置されている[1]。また、冬季の急速暖房用のヒーターも客室用冷房装置に内蔵されている[1]。
空気圧縮機、ブレーキ装置、パンタグラフは22600系と同様である[4]。パンタグラフはシングルアーム式で、モ16600形に2基搭載された[1]。
改造
編集塗装変更
編集2015年に近鉄から一部の汎用特急車両に対する車体塗装変更が発表され、本系列では2016年度中に車体塗装の変更を完了した[5][6]。
運用
編集2010年5月6日より試運転を順次実施し[7]、同年6月19日から営業運行を開始した[8]。2019年4月現在、古市検車区に配置されている[9]。
脚注
編集- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae af ag ah ai aj 『鉄道ファン』2010年9月号 75 - 79頁
- ^ 林基一「近畿日本鉄道 現有車両プロフィール2018」『鉄道ピクトリアル』2018年12月臨時増刊号、p.265
- ^ 『Rail Magazine』 2010年9月号 ネコ・パブリッシング
- ^ 林基一「近畿日本鉄道 現有車両プロフィール2018」『鉄道ピクトリアル』2018年12月臨時増刊号、p.266
- ^ 『鉄道ファン』2016年8月号 交友社 「大手私鉄車両ファイル2016 車両配置表」
- ^ 『鉄道ファン』2017年8月号 交友社 「大手私鉄車両ファイル2017 車両配置表」
- ^ 近鉄16600系「ACE」,試運転を開始 - 『鉄道ファン』交友社 railf.jp 鉄道ニュース 2010年5月21日
- ^ 近鉄16600系が営業運転を開始 - 『鉄道ファン』交友社 railf.jp 鉄道ニュース 2010年6月20日
- ^ 交友社『鉄道ファン』2019年8月号 Vol.59/通巻700号 付録小冊子「大手私鉄車両ファイル2019 車両配置表」(当文献にページ番号の記載無し)