Tu-142 (航空機)
Tu-142(ロシア語: Ту-142)は、ソビエト連邦のツポレフ設計局が開発したターボプロップ式対潜哨戒機。ツポレフ設計局のターボプロップ式戦略爆撃機であるTu-95を原型機としており、主翼下に2重反転プロペラを装着した4発のターボプロップエンジンを搭載する。強力な機体持ち上げ力と高効率飛行能力はTu-95から受け継がれており、空中給油なしで30時間の飛行継続が可能である[2]。
Tu-142 / Ту-142
NATOコードネームはベアF(Bear F)と呼称される。
運用史
編集1950年代後半、アメリカ合衆国は射程1,800キロメートル以上の潜水艦発射弾道ミサイルであるUGM-27 ポラリスを開発[6]、1960年7月20日に原子力潜水艦「ジョージ・ワシントン」(USS George Washington, SSBN-598)からの発射試験に成功していた[7]。
ソビエト連邦海軍では対潜哨戒機としてIl-38を運用していたが、長大な航続距離を有する対潜哨戒機の必要性が高まり[1]、ツポレフ設計局でTu-95の機体フレームを活用して1963年から製作が開始された[3]。試作初号機は1968年7月18日にジュコーフスキー飛行場で初飛行し[8][9]、1970年からソ連海軍での実用試験が行われ、1972年にTu-142として配備を開始[3]、12月に初期作戦能力(IOC)を獲得した[10]。
Tu-142はクイビシェフ(現サマーラ)の第18工場で1968年から1972年にかけて18機が生産された後、1970年代初頭にタガンログの第86工場へ生産を移すこととなり、第18工場で生産された最終号機を基にして1975年から生産が開始された[1][11]。第86工場では1994年に最終号機がロールアウトし、26年にわたるTu-142の生産は終了した[4][12]。
機体構成
編集機体
編集原型機のTu-95から大幅な設計変更が加えられており、胴体がコックピット直後の前方胴体に1.78メートルのプラグを挿入して延長され、方向舵の弦長も30センチメートル増やし、胴体延長に伴う方向安定性の変化に対応している[2]。
主翼も設計変更され、キャンバーが増されてわずかにスーパークリティカル翼に近い翼断面になっている。これにより、翼弦長が増し、フラップが二重隙間式に変更されている[2]。
アビオニクス
編集中央胴体の兵器倉下側に大型レドームが追加され、ベルクト95洋上捜索レーダーを搭載。1978年生産機からはコルシュン洋上レーダーに変更されている[1]。音響探知用ソノブイは胴体後部に収容部があり、その位置の下面に投下扉が設置されている[2]。
採用国と配備部隊
編集Tu-142はロシアのほか、インドでも採用され、以下の部隊に配備された[3]。
- 1991年のソビエト連邦崩壊に伴い、ソビエト連邦海軍からTu-142飛行隊を継承。ソビエト連邦から独立したウクライナ領内に残された機体は、1994年に発効した第一次戦略兵器削減条約(START I)によって解体された[13]。
- ロシア海軍
- 第403独立混成航空飛行隊(フェドトヴォ海軍航空基地)
- 第7062ポート・アーサー・クラスノザナメンニャナ航空基地(カメンニィ・ルチェイ海軍航空基地)
- インドでは1981年に長距離海洋哨戒機導入の検討を始め、ソビエト連邦はTu-142の新造機ではなく中古機のインド海軍向け改修を提案[14]。インド側は大型機のため、配備基地の滑走路延長と補強が必要になることから難色を示し、Il-38中古機3機のインド向け改修機を要請したが却下され、1984年12月に8機のTu-142購入契約が締結された[14]。
インド海軍航空隊の乗員訓練は1987年12月から12か月間にわたってリガに派遣して実施された。派遣人員はパイロットとオブザーバー40名、技術士官16名、水兵128名となっていた[14]。
インド海軍向けTu-142の引き渡しは1988年3月30日から行われ、10月末までに全8機がインドに到着した[14]。なお、インド海軍航空隊では2017年3月27日に全機退役し、後継機としてアメリカ製P-8I ネプチューンを導入している[5]。
型式
編集- Tu-142M ベアF Mod2
- 対潜作戦能力向上型。海洋捜索レーダーをコルシュン3/4に換装、胴体上面に衛星通信用アンテナ追加[15]。
- Tu-142MK ベアF Mod4
- 前方監視赤外線装置を含む複合センサー搭載型。胴体後部機関砲ターレット下部防御用電子妨害装置アンテナ追加[15]。
- Tu-142MK-E ベアF Mod4
- Tu-142MKのインド向け輸出型[15]。
性能諸元(Tu-142M/MK)
編集出典: 青木・2020年[2]
諸元
- 全長: 49.60 m (162 ft 9 in)
- 全高: 12.12 m (39 ft 9 in)
- 翼幅: 53.20 m (174 ft 6 in)
- 翼面積: 289.9 m2 (3,120 sq ft)
- 最大離陸重量: 185,000 kg (408,000 lb)
- 動力: クズネツォフ製NK-12MV ターボプロップエンジン、11,000 kW × 4
性能
- 最大速度: 855 km/h (462 kn)
- 巡航速度: 735 km/h (397 kn)
- 航続距離: 13,800 km (7,500 nmi)
- 実用上昇限度: 11,000 m (36,000 ft)
武装
編集脚注
編集出典
編集- ^ a b c d e 世界の傑作機・2005年 P.34-P.37
- ^ a b c d e f 青木・2020年 P.48-P.51
- ^ a b c d 青木・2020年 P.78-P.81
- ^ a b Friedman 2006, p. 164.
- ^ a b “Indian Navy bids farewell to TU-142M aircraft after 29 years of service” (英語). Hindustan Times (2017年3月30日). 2022年10月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年4月15日閲覧。
- ^ Spinardi 1994, pp. 35, 57.
- ^ “Submarine Chronology” (英語). Chief of Naval Operations. Submarine Warfare Division (2001年3月3日). 2012年10月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年12月22日閲覧。
- ^ Gordon, Miller & Rigmant 1998, p. 53.
- ^ Gordon & Davison 2006, p. 44.
- ^ Eden 2004, p. 488.
- ^ Gordon, Miller & Rigmant 1998, p. 55.
- ^ Gordon, Miller & Rigmant 1998, p. 62
- ^ “Ukraine dismantles Tu-142 aircraft”. Ukrayinska Pravda. (2004年7月26日). オリジナルの2014年8月21日時点におけるアーカイブ。 2011年9月26日閲覧。
- ^ a b c d “The Naval Air Arm” (英語). Indian Navy. 2012年1月13日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年9月23日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m 青木・2020年 P.52-P.5
- ^ a b c d e f 青木・2020年 P.64-P.65
参考文献
編集- Spinardi, Graham (1994). From Polaris to Trident: the Development of US Fleet Ballistic Missile Technology. Cambridge, UK: Cambridge University Press. ISBN 978-0-521-41357-2
- Gordon, Yefim; Miller, Jay; Rigmant, Vladimir (1998). Tupolev Tu-95/-142 "Bear": Russia's Intercontinental-range Heavy Bomber. Aerofax. Hinckley, UK: Midland Publishing. ISBN 978-1-85780-046-3
- Gordon, Yefim; Davison, Peter (2006). Tupolev Tu-95 Bear. Warbird Tech. 43. North Branch, Minnesota: Specialty Press. ISBN 978-1-58007-102-4
- Friedman, Norman (2006). The Naval Institute Guide to World Naval Weapon Systems. Annapolis, Maryland: Naval Institute Press. ISBN 978-1-55750-262-9
- 『世界の傑作機 No110 ツポレフTu-95/-142 ベア』 文林堂 2005年7月5日 ISBN 4-89319-125-X
- 青木謙知 『世界の名機シリーズ Tu-95/-142 ベア』 イカロス出版 2020年5月30日 ISBN 978-4-8022-0826-0