抵抗器
抵抗器(ていこうき)とは、一定の電気抵抗値を得る目的で使用される受動素子である。

概要
電気回路用部品として、電流の制限や、電圧の分圧、時定数回路などの用途に用いられる。集積回路など半導体素子の内部にも、等価的な抵抗素子が形成されているが、この項では独立した回路部品としての抵抗器について述べる。
抵抗器においてもっとも重要な値は抵抗値で、これは電圧と電流の比をSI単位の一つであるオーム (Ω) で示したものである。 1ボルトの電圧を加えたとき、1アンペアの電流(1秒当たり1クーロンの電荷、すなわち 6.241506 × 1018 個の電子が電流と逆の方向に)が流れると、その部品は1オームの電気抵抗を持つと言う。
理想的な抵抗器とは、素子に加えられる電圧や流れる電流に関わらず、一定の電気抵抗を示す部品である。 実際の抵抗器は理想と異なってはいるが、周囲環境の変化や自己発熱により温度が変わった場合でも電気抵抗値の変動が最少となるように設計されている。 逆に温度によって抵抗値が変化する素子はサーミスタと呼ばれ、温度センサとして使用される。
実際の電子回路では、受動素子の一つであるコンデンサとともに用いられることが多く、両者の頭文字を取って CR と表現されることが多い。
抵抗器の主な定格
- 抵抗値
- 電気抵抗の値。単位はΩ(オーム)である。
- 定格電力
- 抵抗器は、電力を消費することにより発熱するので、定格電力が規定されており、その範囲内で使用することが求められる。単位はW(ワット)である。小は1/32W程度から、大は数百W程度まである。
- 定格電圧
- 抵抗にかけられる電圧の上限。通常の回路では定格電圧は定格電力によって制限される場合が多いが、高い電圧を扱う回路において、高い抵抗値の素子を用いる場合や、小型のチップ抵抗器を用いる場合には注意が必要となる。
- 抵抗許容差
- 定格抵抗値に対する偏差の許容値で単位は % である。一般的には誤差と称される。
- 抵抗温度係数
- 抵抗器の温度変化に対する抵抗値変化の割合。単位は ppm/℃ である。
抵抗器の種類
抵抗器はその形状や機能、構造によって幾つかの種類が存在する。
形状による分類
現在、電子機器で使用される小型抵抗器の大部分は、リード線(金属製の脚)を持たない表面実装(表面実装技術)パッケージ(チップ抵抗と呼ぶ事が多い)となっている。 これらは非常に小さい角板状の形状をしており、抵抗体の保護には低融点のガラスが用いられる。 主流となっているサイズは1608 "イチロクマルハチ"(1.6mm×0.8mm)と1005 "イチマルマルゴ"(1mm×0.5mm)である。携帯電話機等の小型電子機器では0603 "ゼロロクゼロサン"(0.6mm×0.3mm)も使われる。さらに小さい0402 "ゼロヨンゼロニー"(0.4mm×0.2mm)が一部で使われ始めている。
一昔前までは、抵抗器本体からリード線を出した形状のものが主流であった。現在でも大電力品や特殊な用途の抵抗器では、このタイプのものが使われている。リード線タイプの抵抗には、抵抗器本体の両端からリード線を出したアキシャルリードパッケージという細長い形状のものと、抵抗器本体の片端から二本のリード線を平行に出したラジアルリードパッケージとがある。また、リード線の持つ抵抗による影響を避けるために四本のリード線を引き出した四端子抵抗器という物も存在する。
非常に大電力の抵抗器では、ねじ止め式の端子を備えたものもある。
また、抵抗体本体の保護の方法によっても幾つかに分類される。 抵抗器本体を樹脂塗装で保護した簡易絶縁型、絶縁塗装をより入念に行った絶縁塗装型、絶縁にほうろうを用いたほうろう型、樹脂やガラスに封止したモールド型、セラミックや樹脂のケースに収め封止したケース型などがある。
機能による分類
- 固定抵抗器
- 抵抗値が一定の抵抗器
- 可変抵抗器
- 抵抗値を変更することができる抵抗器。ボリュームとも言う。抵抗体を露出させた固定抵抗器の端子間に、スライダと呼ばれる可動端子を設けることによって実現する。スライダを直線的に移動させる形状のものと、円周上に移動させる形状のものがある。
- 半固定抵抗器
- 可変抵抗器の一種であるが、回路定数の調整等、抵抗値を一度変更したらそのままの値で使用するような用途に使う抵抗器。エンドユーザは通常回す必要がなく抵抗値変更にはドライバ等の補助的な工具を必要とするものが多い。トリマ、ポテンショメータとも言う。
- シャント抵抗器
- 電流測定用に回路に挿入する抵抗器。抵抗値が小さい(数Ω~0.2mΩ程度)。大電流測定用に数万Aを流せるものや、精密測定用に高精度(誤差±0.01%)なものがある。
構造による分類
- 金属皮膜抵抗
- 厚膜型
- 汎用に使える高精度(誤差1%程度)抵抗器。俗にキンピと略される。一般的な炭素皮膜に比べ雑音などの特性は良いが、価格が二倍程度に高くなる。
- 薄膜型
- 高精度(誤差0.05%のものもある)。低温度係数だが厚膜型より高価。
- 酸化金属皮膜抵抗
- 中電力(1~5W程度)向け。耐熱性良好。サンキンと呼ばれる。
- 炭素皮膜抵抗(カーボン抵抗)
- 通常、小型の抵抗器というとこれを指す。誤差5%程度。雑音や周波数の特性はよくないが、価格が極めて安いため、一般的に幅広く使われている。
- ソリッド抵抗
- 特性は炭素皮膜に似ているが、雑音がやや大きい。寄生インダクタンスが低く、高周波向け。信頼性はよい。
- 巻線抵抗
- 抵抗体に金属線を用いたもの。高精度を目的としたものと、電力容量を重視したものがある、温度係数が少ない。無誘導巻きとしインダクタンスの低減を図ったものもある。
- ホーロー抵抗
- 巻線抵抗の一種、抵抗体を保護するためにホーローを用いたもの。自己が発生する熱に対して非常に強いため、数十~数百Wの大電力用に使われる。
- メタル・クラッド抵抗
- 巻線抵抗の一種、絶縁した上で金属製の外装を取り付けてある。放熱板に取り付けて大電力用に使用する。
- セメント抵抗
- 大電力(2~20W程度)用途に用いられる。抵抗器本体をセラミック製のケースに収め、セメントにより封止したもの。
- 酸化金属皮膜型
- セメント抵抗のうち、抵抗体に酸化金属皮膜を用いたもの。比較的大きな抵抗値のものに多い。
- 巻線型
- セメント抵抗のうち、抵抗体に金属線を用いたもの。小さな抵抗値のものに多い。
- 金属箔抵抗
- 金属のインゴットを圧延し造られる、極めて高精度。温度係数も極端に低い。非常に高価。
- 金属板抵抗
- 極めて低い抵抗値が得られる。mΩオーダーまで。
- ガラス抵抗
- 超高抵抗値(100MΩから1TΩ)が得られる。
- 集合抵抗:複数の抵抗器を一つのパッケージに封入した抵抗器。ネットワーク抵抗とも言う。
- 厚膜型
- 同一抵抗値を手軽に多数並べるときに使う。
- 薄膜型
- アナログ回路等で、抵抗値の比率が重要となるときに使う。
- 液体抵抗器
- 液体を抵抗体として利用したもの。
抵抗器の抵抗値など
抵抗器の抵抗値については、可変抵抗器や半固定抵抗器、特殊用途の一部特注品を除き、JISやISOで制定されたE系列と呼ばれる等比数列刻みの値で生産されている。通常はE12、E24がよく使われる。実際の回路設計では、材料部品の品目数を少なくするため、E12(10・12・15・18・22・27・33・39・47・56・68・82を基数とする倍数値)で設計されることが多い。
抵抗器に通すことのできる電力については、通常の炭素皮膜抵抗で1/8W~1/2W程度、チップ抵抗では1/32W~1W程度、電源系に利用することの多いセメント抵抗やホーロー抵抗で数~数十Wである。特に電源系に利用する場合は、計算値の2~3倍の電力容量の抵抗器を用いないと局所的に強く加熱し、放熱しにくいことがある。
最高使用電圧は一般的なリードタイプのもので300V~400V位、チップタイプでは50V~200V位のものが多い。真空管などの高圧を使う回路で問題になることもある。
抵抗器の表示
カラーコード
1, 2 | 3 | 4 | |
---|---|---|---|
色 | 数値 | 乗数 | 許容差 |
黒 | 0 | 1 | - |
茶 | 1 | 10 | ±1% |
赤 | 2 | 102 | ±2% |
橙 | 3 | 103 | ±0.05% |
黄 | 4 | 104 | - |
緑 | 5 | 105 | ±0.5% |
青 | 6 | 106 | ±0.25% |
紫 | 7 | 107 | ±0.1% |
灰 | 8 | 108 | - |
白 | 9 | 109 | - |
銀 | - | 10-2 | ±10% |
金 | - | 10-1 | ±5% |
無色 | - | - | ±20% |
従来より、小型抵抗器には色の帯により抵抗値と誤差を表現するカラーコードが使われてきた。帯は4本から6本で構成されており、抵抗器の端に近い位置にある帯から順に読む。 なお固定抵抗器の色による表示は JIS C 5062 (IEC 62) で定義される。
例えば、青・灰・橙・金で並んでいる場合、
- 68×103・±5%
- = 68 × 1000 (Ω) ・±5%
と変換し、68000Ω ±5% = 68kΩ±5% と読むことができる。
色帯の数が多い場合でも、指数と誤差についての扱いが同様である。 残りの色帯は数字として読む。 たとえば、青・灰・茶・赤・茶で並んでいる場合、6・8・1・102・±1%と変換し、上記の例と同じように68.1kΩ±1%となる。 こういった表記は金属皮膜抵抗に多いが、上記の例(カーボン被膜抵抗に多い)と比較した時に、指数を表す色帯の色が違っている点に注意したい。
現在、小型の抵抗器ではチップ型が主流になっており、カラーコードを見かける機会も少なくなってきている。
文字表示
チップ型などでは、3桁(xxy)や4桁(xxxy)の数字記号(意味はxxx×10yΩ。小数点は"R"で表現。上記画像の「205」と記されたチップ抵抗の場合、20×105=2,000,000Ω=2MΩ)で抵抗値を表示する場合があるが、1005サイズ以下のチップ抵抗では小さすぎて判読困難なため、表示自体が省略されている。
セメント抵抗やホーロー抵抗などのような表面積が広い抵抗器では、「2W 100ΩJ」のように定格電力、抵抗値と誤差を表す記号等を本体に直接印刷しているものが多い。抵抗値については、上記チップ型同様の数字記号を用いる場合もある。
抵抗器の図記号
抵抗器の図記号は、従来はJIS C 0301(1952年4月制定)に基づき、ギザギザの線状の図記号で図示されていたが、現在では国際規格のIEC 60617を元に作成されたJIS C 0617(1997~1999年制定)に基づき長方形の箱状の図記号で図示することになっている。
旧規格であるJIS C 0301は、新規格JIS C 0617の制定に伴って廃止されたため、旧記号で抵抗器を図示した図面は、現在ではJIS非準拠な図面になってしまう。しかし、拘束力は無いため、現在も従来の図記号が多用されている。
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抵抗器の旧式の図記号
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抵抗器の新式の図記号
鉄道車両における抵抗器
電気機関車や電車においては直流モーターの電流を調節するために、長らく抵抗器を使った制御方式(抵抗制御)が採用されてきた。近年の半導体や交流モーターを使った新しい制御方式では不要なため、姿を消しつつある。
材質と冷却方式から、以下の様に分類される。
鋳鉄グリッド式
古くから使われてきた方式。重いことと、熱容量が少ないことから、新性能車では極初期に使われただけであった。
ニクロムリボン式
上記に変わって主流となった方式。軽量であることと発電ブレーキ装備に伴い容量を増やす必要から、新性能車では、これが主流となった。
自然風冷式
古くから使われてきた方式。発熱量が少ない場合は、これで充分だった。国鉄新性能車(発電ブレーキ付き)では採用例が少ない(151, 301, 103-1000/1200/1500, 105, 119, 121系等)。私鉄では、ブロワファン故障のリスクが無い事から発電ブレーキ付きの車両でもこの方式が主流で、床下は抵抗器で埋め尽くされ、特に近鉄、南海、神戸電鉄、等では1両に積みきれずに2両に亘って搭載される場合も多い。日本以外では屋根上に搭載される場合が多い。
強制風冷式
発熱量が多い場合に有効な方式。国鉄新性能車は大部分がこの方式。私鉄では採用例が少なく、相鉄、東急、小田急、京王、名鉄、阪神、名古屋地下鉄、等に採用例があるくらいである。中でも、名鉄や阪神にはGE・東芝製MCM制御装置(制御装置と抵抗器が一体化)の採用例があり、これも強制風冷式となる。ブロワファンが故障した場合や都合により止めた場合は力行は可能だが発電ブレーキが使用不能になる。