シックハウス症候群

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シックハウス症候群(シックハウスしょうこうぐん:Sick House Syndrome)は、建築用語・または症候のひとつ。新築の住居などで起こる、倦怠感めまい頭痛湿疹・のどの痛み・呼吸器疾患などの症状があらわれる体調不良の呼び名。

海外ではSick building syndrome(シックビルディング症候群)と呼ばれるが、日本ではオフィスビル病院等の住居以外の建築物で起きるものを特にシックビル症候群と呼んでいる。また、新品の自動車でも同様の症状が報告されており、シックカー症候群としてマスメディア等で取り上げられている。

概要

住宅に由来する様々な健康障害の総称であり、単一の疾患を表す訳ではない。主として住宅室内の空気質に関する問題が原因として発生する体調不良を指す場合が多い。その場合は、何らか理由で室内の空気が汚染された結果、その空気を居住者が吸引することによって発生するとされている。いわゆる化学物質過敏症と混同される場合があるが、化学物質過敏症の概念自体が未確定であるとともに、前述のようにシックハウス症候群が「住宅由来の健康被害の総称」であることから、両者は異なる疾病概念であると考えられる。

室内空気の汚染源の一つとしては、家屋など建物の建設や家具製造の際に利用される接着剤や塗料などに含まれるホルムアルデヒド等の有機溶剤木材昆虫シロアリといった生物からの食害から守る防腐剤等から発生する揮発性有機化合物 (Volatile Organic Compounds, VOC) があるとされている。また、化学物質だけではなく、カビや微生物による空気汚染も原因となりうる。

厚生労働省は、シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会を設置し、住宅内の空気質調査を元に住宅内に多く見られた物質を中心として、物質の人体に対する影響を考慮して13種類の揮発性有機化合物について、濃度指針値を示している[1]

厚生労働省による濃度指針値のある物質

これらの指針値は、「一生涯その化学物質について指針値以下の濃度の暴露を受けたとしても、健康への有害な影響を受けないであろうとの判断により設定された値」[2]であり、物質の室内濃度が指針値を超過した場合に、直ぐにシックハウス症候群を発症するわけではないことに注意すべきである。また、人によっては指針値以下の濃度でも発症する、これら以外の物質も原因となりうるとの主張もあるが、それらの検討は十分ではない。

近年の住宅が特に、冷暖房効率を向上させるため、気密性に優れている事から換気が不十分になりやすいとされ[3]、また昭和30年前後から始まった高度経済成長期の住宅建材の大量需要に併せて木目を紙に印刷して木材のように見せるプリント合板に代表される新建材等が盛んに現代建築に用いられ、これらが既に欠く事が出来ない要素であるために、1990年代より室内空気の汚染が問題視されるようになってきた。

1980年代には、既にシックハウスに該当すると思われる症例も報告されていたが、この頃には原因不明とされ、自宅療養などで更に症状が悪化するなどのケースもあった模様である。また同種の問題が新築・改築のビルやマンション、また病院などでも起きていたケースも報告されている。シックハウス症候群の問題は、生活の基礎となる住宅が原因であるため、という大きな買い物をした人にとっては深刻な問題となりやすい。

原因物質を減らすためには、充分な換気や建築材料等の制限が必要である。近年では、VOC放散量の低い建材や接着剤・塗料が開発・発売されている。また、換気設備が設置されている場合にはそれを運転しておくことが望ましい。 一方、カビや微生物による空気汚染が原因となることも考えられるため、これらの発生防止や除去等も必要である。また、日常生活で使われる殺虫剤や香料等が原因となる場合もあり、注意が必要である。

規制の経緯

シックハウス対策のための規制

  • 2008年 厚生労働省が「建築物における維持管理マニュアル」作成

特定建築物での対応

延べ面積3000平方メートル(学校は8000平方メートル)以上の特定建築物においては、建築物環境衛生管理技術者が選任されており、建築物の環境衛生に関する管理の監督を行っている。建築物環境衛生管理技術者は厚生労働大臣から資格を受けた室内環境に関する専門家でもあり、建物の所有者(ビルオーナー)や占有者(テナント)等に対し、意見を述べる権限を持つ。また、意見を受けた者はその尊重義務が法的に定められている(建築物における衛生的環境の確保に関する法律第6条2項)。

特定建築物の利用者等は、当該建築物におけるシックハウス(シックビル)に関する相談、その他、室内の環境や衛生等に関する相談(喫煙に伴う粉塵、臭気、炭酸ガスなどの苦情)や助言を建築物環境衛生管理技術者に求めることも出来る。特定建築物では、室内の空気環境測定が定期に巡回して行われるので、その際に相談する方法もある。

総合的有害生物管理

近年、大規模建築物における害虫等の防除に関し、総合的有害生物管理(IPM)の考え方が取り入れられている。これは、シックビル症候群の対策をも目的としており、農業における環境問題で実践されるようになった防除の考え方を建築物の管理に取り入れたものである。従来のように、漫然と化学物質を定期散布するような防除方法ではなく、人や環境への影響を極力少なくする防除体系である。2008年に厚生労働省健康局が示した「建築物における維持管理マニュアルについて」において、具体的に示されるようになった[4]

対策建材

告示対象建材

ホルムアルデヒドを含んでいる可能性のある建材が告示対象建材となっており、JIS・JAS・国土交通大臣認定の取得等によって種別(等級)を明示する必要がある。造り付けの家具やキッチン・キャビネット、収納、ドア等も規制の対象となっているが、それ以外の家具においては規制の対象となっていない。そのため、換気設備の設置が義務付けられている。また、使用後5年以上経過したものについても規制の対象となっていない。

  • 合板
  • 木質系フローリング
  • 構造用パネル
  • 集成材
  • 単板積層材 (LVL)
  • MDF
  • パーティクルボード
  • その他の木質建材
  • ユリア樹脂板
  • 壁紙
  • 接着剤 (現場施工、工場での二次加工)
  • 保湿剤
  • 緩衝材
  • 断熱材
  • 塗料 (現場施工)
  • 仕上塗材 (現場施工)
  • 接着剤 (現場施工)

国土交通大臣認定居室

換気設備の設置の代わりにこれらのものを使うこともできる。有害物質を分解するものもあり、これを使うことによって高気密な部屋においても換気が不要となる。

認定番号 商品名 メーカー
RLFC-0001 WB工法 ウッドビルド
RLFC-0002 調湿彫り天 室内光反応タイプ[5] パナソニック
RLFC-0003 ? ?
RLFC-0004 エアープロットN[6] ゼンワールド

建材からのVOC放散速度基準

建築基準法における規制対象はホルムアルデヒドとクロルピリホスだけであるが、公共住宅においては他のVOCの測定も要求されている。そのため、建材試験センターが関連団体等と共に「建材からのVOC放散速度基準」を作った[7]。トルエン、キシレン、エチルベンゼン、スチレンを検査対象としている。

脚注

  1. ^ 室内濃度指針値(厚生労働省医薬食品局)
  2. ^ 化学物質の室内濃度指針値についてのQ&A(厚生労働省)
  3. ^ 国民生活センターによれば、シックハウスについて、「省エネなどのため住宅が高気密化したのも一因」としている。
  4. ^ IPM(総合的有害生物管理)の施工方法(厚生労働省健康局)
  5. ^ ホルムアルデヒドを吸着する天井材「調湿彫り天 室内光反応タイプ」 業界初、ホルムアルデヒド低減性能で国土交通大臣認定(※1)を取得
  6. ^ 製品を使った初の建築基準法施行令20条9大臣認定取得! 白金を組み合わせた触媒技術で、シックハウスの原因にもなる 空気中のVOCを分解する『エアープロットN』、10月25日より販売開始
  7. ^ (財)建材試験センター 建材からのVOC放散速度基準

関連項目

外部リンク