性的同一性と性自認の一覧

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本項では性的同一性や性自認の一覧をA~Zの順で解説していく。

最低限の知識解説

ジェンダー・ブレッドマン性同一性性的指向性別ジェンダー表現はそれぞれ異なったものになりうることを説明するために用いられる図。
性的指向とは、簡単に言うと恋愛感情、性的感情がどのような性に向いているかを示すものである。例、性的マジョリティー(多数派)の男性の場合、恋愛感情は女性、性的感情は女性になる。
人間の性を「男」と「女」のどちらかに分類する社会規範
  • 性自認(ジェンダー・アイデンティティ)
性自認とは、自分自身が思っている性別のこと。例、出生時の性別と性自認が同じ女性の場合、性自認は女性になる。
自分自身が他の人に見せる性別表現。例、服,仕草,声色,一人称,髪型など
主に恋愛感情の表現で使われる。
  • セクシュアル(セクシュアリティー)
主に性的指向の表現で使われる。
  • 性別(生物学的性,セックス)
出生児の身体的性別。基本、雄か雌
異性愛と性別二元制に違和感を覚える人々の自称、ならびにこれらの規範の外にいる人々を指す学術用語。クィア理論も参照。
  • LGBTs,LGBTQ+など
レズビアンとゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーにくわえ、これらの枠組みに含まれない人々も含めた、性的マイノリティーの総称。なお、Qは、クエスチョニング(後述)またはクィアを指す。
  • SOGI(そじ そぎ)
SO(Sexual Orientation)が性的指向、GI(Gender Identity)が性自認を表すもの。主に日本語において用いられる。
  • 「S」「G」「R」「M」「D」「SO」「GI」
左から、セクシュアリティー、ジェンダー、ロマンティック、マイノリティー、ダイバーシティー、性的指向、性自認。となっていて、これを組み合わせることで、自分のアイデンティティーを説明することができる。
例,「GSRM」→ジェンダーとセクシュアリティ(性的指向)、ロマンティック(恋愛指向)においてマイノリティとされる人
「SOGI」→上参照
「MSGI」→性的指向と性自認においてマイノリティとされる人
「S&G」→(さまざまな)性的指向と性自認など。
  • 性的指向、恋愛的指向、性自認、性表現、性別の重複性
アイデンティティーは性的指向、恋愛的指向、性自認、性表現が一つ一つ独立し、全てを合わせてその人のアイデンティティーになるというもの。表参照
指向
性別 インターセックス ・・・
性自認 シスジェンダー トランスジェンダー バイジェンダー Xジェンダー ・・・
性表現 男性 女性 中性 無性 ・・・
性的指向 ヘテロセクシュアル レズビアン ゲイ アセクシュアル ・・・
恋愛的指向 ロマンティック アロマンティック デミロマンティック リスロマンティック ・・・

行で一つずつ選ぶ。例,「雄、トランスジェンダー、中性、レズビアン、ロマンティック」などや、「インターセックス、シスジェンダー、無性、アセクシャル、リスロマンティック」など。

表記

性的同一性の場合

  • 名前[マジョリティーの場合太字](ひらがな表記,英語表記)(別名) フラッグ(画像)
(恋愛的指向の有無(有りの場合、どのような性に),性的指向の有無(有りの場合、どのような性に))
説明
性的指向のみの記述の場合
  • 名前[マジョリティーの場合太字](ひらがな表記,英語表記)(別名) フラッグ(画像)
性的指向の有無(有りの場合、どのような性に))
説明
恋愛的指向のみの記述の場合
  • 名前[マジョリティーの場合太字](ひらがな表記,英語表記)(別名) フラッグ(画像)
(恋愛的指向の有無(有りの場合、どのような性に)
説明

性自認の場合

  • 名前[マジョリティーの場合太字](ひらがな表記,英語表記)(別名) フラッグ(画像)
(出生児性別,性自認)(恋愛的指向の有無(有りの場合、どのような性に),性的指向の有無(有りの場合、どのような性に))
説明
性表現の場合
  • 名前[マジョリティーの場合太字](ひらがな表記,英語表記)(別名) フラッグ(画像)
(出生児性別,性表現)(恋愛的指向の有無(有りの場合、どのような性に),性的指向の有無(有りの場合、どのような性に))
説明

性的同一性 (sexual identity)

エイロマンティック(無,無) ロマンティック(有(異性),無)
エイ(ア)ロマンティックエイ(ア)セクシュアルは、恋愛、性的感情がどのような性に対しても向いていない人。ロマンティックエイ(ア)セクシュアルは恋愛感情はあるが、性的感情がない人。
  • オートアンドロフィリア(おーとあんどろふぃりあ,)
(有(自分),有(自分))(性別 女性,性自認 女性)(ジェンダー表現 男性)
自身を男性化させることで性的感情を抱く女性。(性自認は女性であることが多い)≠トランスジェンダー
(有(自分),有(自分))(性別 男性,性自認 男性)(ジェンダー表現 女性)
自身を女性化させることで性的感情を抱く男性。(性自認は男性であることが多い)↔オートアンドロフィリア
(有(男女),有(男女))
男性、女性、どちらの性も好きになれる人。(あくまで、男性と女性というだけなので、物やXジェンダーなどは対象外。)
(有(男性),有(男性))(性自認 男性)
性自認が男性の男性愛者。
(条件付き有,条件付き有)
強い精神的なつながりを持った人にだけ、恋愛、性的感情を持つ人
(条件付き有,無)
強い精神的なつながりを持った人にだけ、恋愛感情を持つ人
(有(基本異性),有(基本異性))
通称は異性愛者であるものの、同性との恋愛、性的欲求を持つことがある人、持つのに抵抗のない人。↔ホモフレキシブル
(有(異性),有(異性))
性自認が男性の場合女性、性自認が女性の場合男性に恋愛や性的思考を向ける人。
  • ホモフレキシブル(ホモフレキシブル,和製英語)
(有(基本同性),有(基本同性))
通称は同性愛者ではあるものの、異性との恋愛、性的思考を持つことがある人、持つのに抵抗のない人。(造語)
(有(女性),有(女性))(性自認,女性)
性自認が女性の女性愛者。
  • リスロマンティック(りすろまんてぃっく,Lithromantic) (アコイロマンティック,アプロマンティック)[7]
(有(異性),?)
自ら相手への恋愛思考はあるが、相手に恋愛思考を向けられると途端に相手への恋愛思考を失ってしまう人。蛙化現象も参照。
(?,有(異性))
自ら相手への性的思考はあるが、相手に性的思考を向けられると途端に相手への性的思考を失ってしまう人。また、性行為をすることが苦痛である人も使うことがある。
(有,有)
一つの性別の人だけに恋愛感情、性的感情を向ける人。レズビアン、ゲイ、ヘテロセクシュアルはこの中に入る。
(有(物),有(物))
人ではなく物に恋愛、性的感情を向ける人。
(有(全て),有(全て))
すべての人を性別を意識して好きになれる人。
(有(全て),有(全て))
複数の人を同じように愛せる人。
(有(全て),有(全て))
すべての人を性別関係なく好きになれる人。(この場合はXジェンダーも)
(流動,流動)
恋愛、性的感情を持つ性別が日や時間、気分によって変わる人。
(有(その人が望む性別移行度),有(その人が望む性別移行度))
性別以降途中のトランスジェンダーに性的、恋愛的指向を向ける人。

性的指向(sexual orientation)のみ

[フラッグ性的指向 1]

恋愛的指向(romantic orientation)のみ

恋愛感情に関するアイデンティティを表す当事者の間で用いられている用語。[14][15][16]

(無)
誰に対しても恋愛感情をいだかないこと。↔ロマンティック(romantic)
  • ヘテロロマンティック(へてろろまんてぃっく,Heteroromantic)
(有(異性))
異性に対して恋愛感情をいだくこと。
(有(同性))
同性に対して恋愛感情をいだくこと。
  • ガイノ(ジノ)ロマンティック(がいの(じの)ろまんてぃっく,Gynoromantic) (ガイネロマンティック(gyneromantic))
(有(女性))
女性に対してのみ恋愛感情をいだくこと。
  • アンドロロマンティック(あんどろろまんてぃっく,Androromantic)
(有(男性))
男性に対してのみ恋愛感情をいだくこと。
  • バイロマンティック(ばいろまんてぃっく,Biromantic)
(有(男女))
両性に対して恋愛感情をいだくこと。
(有(全て))
男性/女性の性の分類に適合しない人々も含め、あらゆる人々に恋愛感情をいだくこと。
(微〜有(異性))
エイロマンティックとロマンティックをスペクトラムと見做したとき、その中間にあることを意味する。恋愛感情は抱き得るが、その頻度ないし強度が高くないこと。
(条件付き有(異性))
グレーロマンティックのうち、強く情緒的に結びついた相手に対してのみ恋愛感情をいだく指向性。
  • リスロマンティック(りすろまんてぃっく,Lithromantic) (アコイロマンティック(akoiromantic),アプロマンティック(apromantic))
(条件付き有(異性))
恋愛感情は抱くが、相手から恋愛感情を向けられることを望まない(もしくは必要としない)こと。相手と相互的な関係になると恋愛感情が失われる人もいれば、相互的な関係になっても恋愛感情は失われない人もいる。

性自認 (Gender Identity)

男性と女性の両方の性別を持っている人。
(男性,男女 女性,男女)(個人差)(有(個人差),有(個人差))
(男性,男性 女性,女性)(性自認に準ずる)(有(性自認に準ずる),有(性自認に準ずる)
出生時の性別と性自認が一致している人。男性は純男(すみお)、女性は純女(じゅんめ)
(男性,男性~女性 女性,女性~男性)(その時の性自認)(有(個人差),有(個人差))
日にちや時間、その時の気持ち等によって性自認が異なる人。
(男女,中性)(基本中性)(有(個人差),有(個人差))
中性的なジェンダーを持つ人。
(男女,無性)(基本中性)(有(個人差),有(個人差))
性自認がない(無性)の人。
(男性,中性~女性)(基本女性的)(有(男性より),有(男性より))
性自認がどちらかと言うと女性の出生児男性。

 性自認がどちらかと言うと男性の出生児女性。

(女性,中性~男性)(基本男性的)(有(女性より),有(女性より))
(男性,女性 女性,男性)(性自認に準ずる)(有(異性),有(異性))
出生時の性別と性自認が一致していない人。多くの人が思春期前(中学入学前)に自身の身体的性別や、社会的性別に違和感を感じる。中には、成人してから自認する人や、ゲームを通じて[23]自認する当事者もいる。
  • トランスジェンダー男性(とらんすじぇんだーだんせい,Female to Male,FtM)
(女性,男性)(男性)(有(女性),有(女性))
性別移行により男性になった元女性、性別以降中の元女性など。女性愛者の場合ヘテロセクシュアル、男性愛者の場合ゲイとなる。
  • トランスジェンダー女性(とらんすじぇんだーじょせい,male to female,MtF)
(男性,女性)(女性)(有(男性),有(男性))
性別移行により女性になった元男性、性別以降中の元男性など。男性愛者の場合ヘテロセクシュアル、女性愛者の場合レズビアンとなる。
(男女,男女以外)(基本中性)(有(個人差),有(個人差))
性自認が男女どちらかでない人。ノンバイナリーとも。≒ クィア

性表現(sexual expression)

その他

性的マイノリティーの人たちの支援や援助をする人。なにか特別な手続きがいるわけではなく、少しでも応援したい、助けたいと思って助けるだけでもアライになることができる。性的マジョリティーの人のアライはストレートアライと呼ばれる。
性的マイノリティや、男女の性の枠組みに入らない人。
性的指向や性自認がわからない、確定していない人。

備考

このように、個人個人の性的同一性、性自認は多様であり、更にこれらを複数併用することができる。なお上記のもの以外にも性的同一性、性自認を表すものは存在し、また、それを表現する適切な語が存在しない性的同一性、性自認も存在する。そのため、上記以外の組み合わせも多様である。

脚注

注釈


出典

  1. ^ LGBTQQIAAPPO2Sの意味とは?意味をわかりやすく解説。性別には様々な形がある。
  2. ^ LGBTQQIAAPPO2Sの意味とは?意味をわかりやすく解説。性別には様々な形がある。
  3. ^ LGBTQQIAAPPO2Sの意味とは?意味をわかりやすく解説。性別には様々な形がある。
  4. ^ https://jobrainbow.jp/magazine/demiromantic
  5. ^ ヘテロセクシュアルとは?【「あたりまえ」なんかじゃないよ、異性愛】
  6. ^ LGBTQQIAAPPO2Sの意味とは?意味をわかりやすく解説。性別には様々な形がある。
  7. ^ リスロマンティックとは?【両思いを望まない?】
  8. ^ 対物性愛
  9. ^ LGBTQQIAAPPO2Sの意味とは?意味をわかりやすく解説。性別には様々な形がある。
  10. ^ LGBTQQIAAPPO2Sの意味とは?意味をわかりやすく解説。性別には様々な形がある。
  11. ^ パンセクシュアルとは?【当事者監修】
  12. ^ https://jobrainbow.jp/magazine/sexualfluidity
  13. ^ https://ameblo.jp/infection1985/entry-11496134529.html [4コマ] トラニーチェイサー | 俺の嫁ちゃん - Amebahttps://ameblo.jp › infection1985 › entry-11496134529
  14. ^ AVENwiki”. The Asexual Visibility & Education Network. 2017年2月3日閲覧。
  15. ^ Aromantics Wiki”. 2017年2月3日閲覧。
  16. ^ Demisexuality Resource Center”. Demisexuality Resource Center. 2017年2月3日閲覧。
  17. ^ https://jobrainbow.jp/magazine/demiromantic
  18. ^ ジェンダーフルイド(英)
  19. ^ https://www.cosmopolitan.com/jp/love/sex/a36927346/transfeminine-expert-explains/
  20. ^ https://www.cosmopolitan.com/jp/love/sex/a37005601/transmasculine/
  21. ^ 性の多様性、性同一性障害について(論文)
  22. ^ 僕がスカートを履く日(書籍)
  23. ^ Kurosawa, Yuki (2020年8月9日). “『あつまれ どうぶつの森』でトランスジェンダーを自覚した人が話題。二頭身のむらびとが秘めた、多様な自己表現の可能性”. AUTOMATON. 2022年10月25日閲覧。
  24. ^ 僕は性別モラトリアム(書籍)
  25. ^ LGBTQQIAAPPO2Sの意味とは?意味をわかりやすく解説。性別には様々な形がある。
  26. ^ ALLYになりたいわたしが出会ったLGBTQ+の人たち(書籍)
  27. ^ LGBTQQIAAPPO2Sの意味とは?意味をわかりやすく解説。性別には様々な形がある。
  28. ^ LGBTQQIAAPPO2Sの意味とは?意味をわかりやすく解説。性別には様々な形がある。
  29. ^ スペシャルQトな僕ら(書籍)

フラッグ

可読性を損なうかもしれない長い表
性的同一性
性的同一性 性的指向 恋愛的指向 性自認 その他
  1. ^
     
    アロマンティック
  2. ^
     
    アセクシュアル
  3. ^
     
    バイセクシュアル
  4. ^
     
    ゲイ(LGBTフラッグ)
  5. ^
     
    デミセクシュアル
  6. ^
     
    デミロマンティック
  7. ^
     
    ヘテロフレキシブル
  8. ^
     
    ヘテロセクシュアル
  9. ^
     
    レズビアン
  10. ^
     
    リスセクシュアル
  11. ^
     
    モノセクシュアル
  12. ^
     
    オムニセクシュアル
  13. ^
     
    ポリアモラス
  14. ^
     
    パンセクシュアリティー
  15. ^
     
    パンセクシュアリティー
  16. ^
     
    セクシュアルフルイディティ
  1. ^
     
    アセクシュアル
  1. ^
     
    アロマンティック
  2. ^
     
    ホモロマンティック
  3. ^
     
    パンロマンティック
  4. ^
     
    グレーロマンティック
  5. ^
     
    デミロマンティック
  1. ^
     
    バイジェンダー
  2. ^
     
    シスジェンダー
  3. ^
     
    ジェンダーフルイド
  4. ^
     
    インタージェンダー
  5. ^
     
    ニュートロイス
  6. ^
     
    トランスフェミニン
  7. ^
     
    トランスマスキュリン
  8. ^
     
    トランスジェンダー
  9. ^
     
    Xジェンダー
  1. ^
     
    ストレートアライ
  2. ^
     
    クエスチョニング

参考文献

  • 性的マイノリティーサポートブック(書籍)
  • 13歳から知っておきたいLGBT+(書籍)


関連項目


一部転記

含まれる範囲

性的少数者は多様性に富んでいるが、性的指向と性自認の2つの観点から語られることが多い[1]。実際はさらに恋愛的指向ジェンダー表現なども加わって複雑で無数の組み合わせがあり、グラデーションのように幅(スペクトル)もあって流動的である[2][3][4]

 
セクシャリティの三角形 ― 上下は他者に対して性的な魅力を感じるかどうかの度合いを、左右は性的指向が同性/異性かを示している。この図においては、下の頂点がアセクシュアルを、左の頂点が同性愛を、右の頂点が異性愛を、上辺が両性愛に当たる。

性的指向

性的指向とは、どんなジェンダーに性的な魅力を感じるか(もしくは感じないか)ということである[5][6]

性的指向については、マイノリティとされている主なものは、以下のとおりである[1][注釈 1]

「ゲイ」という言葉は、男性に限らず同性愛者含めたマイノリティな性的指向全般を総称して指すこともあるが、この用法を嫌う人もいる[12]。バイセクシュアルの人は、ゲイやレズビアンになる途中段階だと誤解されやすいが、明確な性的指向である[13]

恋愛的指向

「性的なもの(性的指向)」と「ロマンチックなもの(恋愛的指向)」に分けて考える場合もあり[14][15]、これは「Split Attraction Model(SAM)」と呼ばれ、主にアセクシュアルのコミュニティでよく用いられている[16]。恋愛的指向も含めた性的マイノリティの総称として「GSRMs」[17][18]が使われることもある。具体的には、性的に誰にも惹かれない人を「アセクシュアル」というのに対して、恋愛的に誰にも惹かれないのは「アロマンティック」といった表現となる[19][16][20]。性的指向と恋愛的指向が一致しないことは「クロス・オリエンテーション(cross orientation)」と呼ばれる[21]

指向が性的と恋愛的に分離できると考えるようになったのは、最近のことではない。例えば、1879年には、ドイツの性科学者人権社会運動家でもあるカール・ハインリッヒ・ウルリッヒス英語版がそうした考えを提唱していた[22]。1979年には、心理学者のドロシー・テノフ英語版が著作『Love and Limerence』の中で、ロマンティックな魅力からくる精神状態を「リメラント英語版」と表現し、その状態がないことを「non-limerent」と位置付けた[23]。その後、2000年から2005年の間にアセクシュアル当事者の最大のオンラインコミュニティである「AVEN」が中心となって「Split Attraction Model」が定着し始めた[24]。現在では多くの団体や組織が性的指向と恋愛的指向を混同せずに分けて権利や平等を訴えている[25][26][27][28][29][14][30]。「AUREA(Aromantic-spectrum Union for Recognition, Education, and Advocacy)」というアロマンティックのコミュニティは毎年「アロマンティック・スペクトラム意識週間英語版」(Aromantic Spectrum Awareness Week)を実施し、恋愛的指向の普及啓発に努めている[31]

何を「恋愛」と受け止めるかは人によって異なる。例えばセックスを恋愛と関係ないとみなす人もいれば、恋愛と関係があると考える人もいる[5]。ある人に恋愛的に惹かれているからといって、性的にも惹かれているとは限らない[32]。性的指向と恋愛的指向は一般には区別されないことも多いが、当事者にとっては大切な自己認識のひとつである[5]

恋愛的指向については、マイノリティとされている主なものは、以下のとおりである[33][34]

性的指向と恋愛的指向を組み合わせることで、例えば、「アセクシュアル・ホモロマンティック」「パンセクシュアル・グレイロマンティック」「ヘテロセクシュアル・バイロマンティック」といった表現が可能になる。アセクシュアルとアロマンティックは合わせて「a-spec(A spectrum)」と総称される[35]。自分が感じる魅力が性的であるかプラトニックであるかわからない、もしくはそもそも魅力を感じているのかもわからない人は「クワセクシュアル(クォイセクシュアル)」と呼ばれる[36]

日本では「ノンセクシュアル」という用語が性的に誰にも惹かれないが恋愛はするという指向として使われることがある[36][37]

性的魅力や恋愛的魅力以外にも魅力は存在し、例えば、セックスや恋愛とは無関係に人の外観を高く評価する「美的魅力(Aesthetic attraction)」や、セックスや恋愛とは無関係に人の感覚(主に触覚や嗅覚)に訴える「感覚的魅力(Sensual attraction)」などがある[9]

性自認(性同一性)

生殖機能に基づいて分類する2つの主要な区分(男女・雄雌)は「生物学的な性(Sex)」と呼ばれるが、これらはあくまで社会的にラベル付けされた概念である[38]。人間の場合、染色体やホルモン、生殖器などを基準に「男」と「女」に出生時に分類されるが、典型的なパターンに一致しない人もおり、中には典型的なパターンに一致させるべく強制的に手術を受けさせられる人もいる(インターセックスなど)[39]。その「生物学的な性」に対して「ジェンダー(Gender)」とは、生物学的な特徴を越えて「自分が何者なのか」という感覚に基づいたものであり[40]、社会的に構築されている[41][42]。そのため、「生物学的な性」と「ジェンダー」が一致する人もいれば、一致しない人もいる[40]

性自認とは、自分自身のジェンダーをどう理解し、どう振る舞い、どう見られたいのかを示す識別名である[40]

性自認については、マイノリティとされている主なものは、以下のとおりである[1][43]

  • トランスジェンダー … 自分の認識しているジェンダーが出生時に割り当てられた性別と異なる。
  • デミ … あるジェンダーに部分的に結びつきを感じている。デミガール、デミボーイ、デミガイ、デミノンバイナリーなどがある[44]

ノンバイナリーの人たちの中には「enby(エンビー)」という俗語で自分を表現する者もいる[45]。ノンバイナリーと意味がよく似た用語として「ジェンダークィア」があり、重複している部分もあるが、使われ方が違っている場合もあり、実際は個人の意思が尊重される[46]

日本では英語圏における「ノンバイナリー」とほぼ同様の意味で「Xジェンダー」という表現がよく用いられる[36]

社会における男女二元論的な規範とは異なるかたちで自分を認識したり、表現したりする人の総称として「ジェンダー・ノンコンフォーミング」があり、ジェンダークィアと違ってアイデンティティとしてだけでなく特定のグループや表現、パターンを指すことが多い[45]

「デミ」は、例えば「デミガール」であれば、自分は女性だと強く感じる面もありつつ、同時に女性ではないとも感じるといったアイデンティティを意味する[44]。たいていのデミガールは、出生時に決められた生物学的な性は女性である[47]

トランスセクシュアル(Transsexual)」という用語は古いもので、包括的な意味を持たないので使われなくなった[48]

アイデンティティとして異性装をする人は「クロスドレッサー」や「ドラァグ」と呼ばれるが、これは性自認や性的指向とは必ずしも関係ない[49]。なお、そのような人たちを「トランスヴェスタイト(Transvestite)」と表現する場合もあるが、この言葉は蔑称とみなされることがある[49]

性表現(ジェンダー表現)

自分のジェンダーを明らかにして表現する方法は、言葉づかい、仕草、声、服装、メイク、髪形、名前、代名詞、どの施設(トイレ・更衣室)を利用するかなどさまざまである[50][51]。これらは「性表現(ジェンダー表現;Gender expression)」と呼ばれる[50]。一方でこれらの表現が必ずしもジェンダーと結びついているとは限らず、それは個人の自由である[50]。性自認と一致させる必要もない[52]

男らしさと女らしさの両方の特徴を併せ持つこと、そのどちらでもない特徴を持つこと、その間の特徴を持つことを「アンドロジナス(androgynous)」と呼び、ジェンダーに限らず(シスジェンダーでもトランスジェンダーでも)自由にこの言葉を使用することができる[53][54]

  1. ^ a b c What Sexual Minority Means”. Verywell Mind (2020年11月30日). 2021年4月13日閲覧。
  2. ^ COMING OUT A Handbook for LGBTQ Young People”. The Trevor Project. 2021年4月20日閲覧。
  3. ^ アイリス・野中(訳) 2021, p. 20.
  4. ^ アシュリー・須川(訳) 2017, p. 41.
  5. ^ a b c アシュリー・須川(訳) 2017, p. 140.
  6. ^ Glossary of Must-Know Sexual Identity Terms”. Verywell Mind (2021年6月1日). 2021年6月6日閲覧。
  7. ^ a b c d e What Is Pansexual?”. Verywell Mind (2021年3月27日). 2021年4月20日閲覧。
  8. ^ a b c アシュリー・須川(訳) 2017, p. 173.
  9. ^ a b c General FAQ”. The Asexual Visibility and Education Network. 2021年4月14日閲覧。
  10. ^ 「他者に恋愛的/性的に惹かれない」アロマンティック/アセクシュアル約1700人対象の調査結果が公表”. ハフポスト (2020年11月4日). 2021年4月15日閲覧。
  11. ^ a b “[46 Terms That Describe Sexual Attraction, Behavior, and Orientation https://www.healthline.com/health/different-types-of-sexuality]”. healthline. 2021年5月19日閲覧。
  12. ^ アシュリー・須川(訳) 2017, p. 152.
  13. ^ GLAAD Media Reference Guide - In Focus: Covering the Bisexual Community”. GLAAD. 2021年4月20日閲覧。
  14. ^ a b 恋愛指向とは?【あなたは誰を好きになりますか?】”. 株式会社JobRainbow. 2021年6月2日閲覧。
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  17. ^ 引用エラー: 無効な <ref> タグです。「Lapointe2016」という名前の注釈に対するテキストが指定されていません
  18. ^ 引用エラー: 無効な <ref> タグです。「Choudhuri2019」という名前の注釈に対するテキストが指定されていません
  19. ^ Everything you ever wanted to know about asexuality”. British GQ (2020年12月6日). 2021年4月13日閲覧。
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